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第6話 手を取り合う踏み台と悪役令嬢

 どうしてこうなった。

 スタンフォードの心中を表すのならば、この一言に尽きるだろう。

 僕が何をしたっていうんだ。

 どうして僕がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。

 当て木と包帯で固定された右腕を見て、スタンフォードは悔し気に歯噛みする。


 ブレイブが切り伏せたボアシディアンは解剖の結果、突然変異を起こし竜のような特徴を発現させたこともあり〝異形種〟と呼ばれることになった。

 その異形種が突如演習場に現れたことは学園内でも騒ぎになっていた。

 担当教師、生徒一名負傷。

 その負傷した生徒が王族となれば、事件性を疑うのは当然のことだった。

 現在、学園内は休講状態となっており、スタンフォードは当てもなく一人学園内を彷徨っていた。

 魔物と戦い恐怖で足が竦んでまともに戦えなかった。

 どれだけ魔法を磨こうと、決定的に覚悟が足りなかったことを自覚した。

 それによって、スタンフォードはこれからどうしていいかわからなくなってしまったのだ。


「「はぁ……」」


 ため息をつきながらベンチに腰掛けると、彼と同時にベンチに腰掛けた者がいた。


「……どうされたのですか。ポンデローザ様」

「……そちらこそどうしたんですの、スタンフォード殿下」


 隣に腰掛けたのはボロボロになった制服をまとったポンデローザだった。

 白銀の髪は土埃にまみれ、巻き髪の部分には木の葉や小枝が付着していた。


「言うことを聞かないペットの鳩を追い回していたら木から落ちたんですの……そういうあなたは?」

「僕はボアシディアンにボロ負けしてこの有様ですよ」


 力なく笑うと、自嘲するようにスタンフォードは続ける。


「ポンデローザ様の言う通りでした。転生したところで、僕は主人公のやられ役に過ぎなかったみたいです。本当、情けないですよね……」


 包帯が巻かれた右腕を左手で握りしめると、スタンフォードは表情に影を落とした。


「わたくしも同じですわ」


 そんなスタンフォードに、ポンデローザも同様に力なく笑って言った。


「この世界に転生してから、何とか死亡回避のために奔走してきました。攻略対象と仲良くなれば死亡フラグも折れる。そんな風に考えておりました」

「そういえば、ヴォルペ家の令嬢はやたらと有力貴族の家に押しかけてるって噂があったような……」

「ええ、全員BESTIA HEARTの攻略対象でしたわ」


 昔、ポンデローザはゲームの攻略対象の家に押しかけて彼らの抱えている問題を解決しようとしたことがあった。

 しかし、彼女は何も考えずに各々が抱える悩みを口に出して、思いついた解決法を述べた。

 突然押しかけてきたと思ったら、自分の抱える問題を言い当てられ、解決案を提示される。

 そんな人間をいきなり信用することなどできるはずもなかった。

 ポンデローザには行動力はあったが、頭が足りていなかったのだ。


「攻略対象が拗らせる原因はわかっていてもわたくしは何もできませんでした。むしろ、公爵家の令嬢らしく振る舞えと指導は厳しくなるばかりでしたわ」


 ポンデローザはため息をつくと、自嘲するように笑った。


「お陰様でこの通り、表ではしっかりと公爵家の令嬢らしく振る舞えるようになりましたわ。ですが……」

「攻略対象や主人公との接触には制限がある、か」

「ええ、ハートの方の主人公のマーガレット・ラークナさんとも接触を試みたのですが、どうにも距離を取られてしまっていますの」


 公爵家の令嬢ともなれば交友関係は絞られる。

 幼少期に関係を悪化させてしまった攻略対象達は言うに及ばず。

 特殊な事情で平民から貴族になってしまった主人公マーガレットが、ポンデローザを避けるのは当然のことだった。

 一通り、ポンデローザの話を聞いたスタンフォードは立ち上がり、深く頭を下げた。


「ポンデローザ様、先日は申し訳ございませんでした」

「スタンフォード殿下?」

「以前、協力しないかとおっしゃってましたよね? あんな失礼な態度で断っておいて虫が良い話なのは理解しています」


 スタンフォードは、ポンデローザの言っていた正史での流れが現実になったことで、意識を改めた。

 このままでは間違いなく自分は死ぬ。

 スタンフォードは、形振りなど構っていられなかったのだ。


「どうか、運命を変えるお手伝いをしていただけないでしょうか」


 頭を下げたままスタンフォードは必死に言葉を絞り出す。

 しばしの沈黙の後、ポンデローザはベンチから立ち上がると、嬉しそうに告げた。


「その言葉を待っていましたわ」

「じゃあ……!」

「ええ、お互い死亡回避のために全力を尽くしましょう」


 こうして転生者である二人は、自分達に待ち受ける死の運命を回避するために固い握手を交わしたのであった。


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