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第50話 原作よりも見るべきもの

 寮に戻ったスタンフォードは早速行動を起こした。

 コメリナの状況を把握するためにまず尋ねるべき人物の部屋の前に立つと、スタンフォードは控えめに扉をノックした。


「どちら様でしょうか?」


 扉の向こうからメイドが応対をする。


「スタンフォードだ。リアへ取り次いでほしい」

「これは殿下! 失礼致しました。すぐにお呼びいたします」


 セタリアを訪ねてきた人物がスタンフォードだとわかると、メイドはすぐにセタリアへと取り次いだ。

 寮の共有スペースへ移動し、茶菓子と紅茶を用意して二人は席に着く。


「それで殿下。何か御用でしょうか?」

「コメリナ・ベルンハルトについて聞きたいことがある」


 そう切り出すと、スタンフォードはコメリナについてセタリアが知っていることについて尋ねた。


「君から見たコメリナはどんな人物だ」

「努力家であり、他人への興味が薄いという印象を受けます」


 そこで言葉を区切ると、セタリアは少しだけ表情を綻ばせる。


「ですが、殿下が知りたいのはそういったことではなさそうですね」


 セタリアは、ここ最近のスタンフォード変化を快く思っていた。

 家の命で婚約者となり、好き勝手に振る舞うスタンフォードのフォローばかりの毎日を送ってきた。

 だからこそ、スタンフォードがこうして他者を思いやって行動していることを嬉しく思っていたのだ。


「彼女は昔の殿下と似たところがあります」

「僕に?」

「ええ、努力家ではありますが、他者への興味が著しく低く、周囲を見下しているきらいがあります。私も最近名前を憶えてもらったくらいです」

「僕が言えたことじゃないが、貴族としちゃかなりヤバイ奴だな」


 貴族社会では、人脈がモノをいう。

 いくら国内でも力を持つリュコス家の分家の出とはいえ、コミュニケーション能力がない者は将来的に良い地位につける可能性は低くなってしまうだろう。


「マーガレット先輩が現れる前、彼女は数少ない治癒魔法の使い手でした。この学園でいえば、使い手は彼女しかいません」

「治癒魔法は光魔法、水属性の二属性しか扱えない上に、習得には血の滲むような努力が必要だ。広範囲の治癒が可能なラクーナ先輩に、自己回復が可能なブレイブが現れたとなれば……」


 努力家で周囲より秀でていると自負している人間。

 そんな人間が自分の上位互換のような人間と出会ったとき、どんな気持ちになるかはスタンフォードには痛いほど理解できた。


 そして、打ちのめされているところに起きた《《自分だけが生徒会メンバーに推薦されなかった》》という現状。

 そこに追い打ちをかけるように、お情けのような処置で追加された生徒会調査班という役職。


「結構メンタルやられちゃってるんじゃないか?」

「おそらくは。ですが、私はまだ彼女と信頼関係を築けておりません」


 原作の時間軸的にも、セタリアと原作ヒロイン達は打ち解けてはいない時期だ。

 ブレイブ周辺のことにはほとんど干渉していなかったこともあり、ブレイブ周辺の人間関係はほぼ原作通りになっていた。


「生徒会に協力する立場が彼女を苦しめることになる以上、このまま彼女を放っておくのはよろしくありません」

「同感だ。だが、君が励ましたところで彼女の心には響かないだろうな」

「ええ、それは私もわかっております……」


 スタンフォードの指摘に、セタリアは心苦しそうに歯噛みする。

 成績優秀で誰からも慕われ、現生徒会長直々に推薦されたセタリアにコメリナが心を開くことは考えにくい。

 持っている者が優しく接したところで、持たざる者は惨めさを感じてしまうからだ。


「それじゃ、生徒会としての初仕事でもするか」

「殿下が、ですか?」


 言外に自分が動くと言ったスタンフォードに、セタリアは驚いたように目をしばたたかせる。


「生徒会長の補佐は副会長の仕事だろう? 候補ではあるけど、兄上は君を次期生徒会長に据えようとしていることだしね」


 そう言って、スタンフォードは紅茶を一気に呷って去っていった。

 はためく外套の中心で輝く獅子の刺繍を眺め、セタリアは呟く。


「今の殿下の方が私などより何倍も生徒会長に相応しいと思いますけどね」


 その頼もしい背中を眺めていると、何故だが懐かしい気持ちになる。

 スタンフォードに助けられたことなど一度もないはずなのに、絶対に何とかしてくれるという安心感を抱いたのだ。


 セタリアは不思議な感覚に怪訝な表情を浮かべながら、残った茶菓子を片付けるのであった。


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