第47話 装備強化
郊外演習での事件もあって学園側は警備を強化した。
異形種騒動に続いて起きた二度目の事件。
重傷を負ったのが二回とも王子であるスタンフォードともなれば、事件の関連性を疑うのは当然のことだった。
「ブレイブ、君の剣が出来たみたいだけど、今日は空いているかい?」
「もちろん大丈夫だ!」
「じゃあ、行くよ」
マーガレットの回復魔法のおかげですっかり回復したスタンフォードはブレイブを連れ立って教室を出て行く。
珍しい取り合わせに周囲の生徒達は頭上に疑問符を浮かべていた。
ここ最近ブレイブはスタンフォードに積極的に話しかけていた。
共にライザルクを討伐した者として、ブレイブは一方的にスタンフォードに友情を感じていたのだ。
ライザルクの一件に関しては、残念ながら目撃者があまりにも少なかったこともあり、周囲からはスタンフォードがライザルクに敗れた後にブレイブが討伐したという認識をされている。
しかし、スタンフォードにとってあの一件は自分を変える大きなきっかけになったため、周囲の評価が変わらなかったところで差して気にはしていなかった。
「それにしても長期休暇前に出来上がると思わなかったぞ」
「何といっても王族お抱えの鍛冶職人だからね。仕事が早いし、質も良いんだ」
「いいのか? 俺の剣を作るためにそんな凄い人に頼んじゃって」
「王族の僕が王族お抱えの鍛冶職人に頼んだ。何か問題があると思うかい?」
スタンフォードも、今ではブレイブとの会話にも普通に応じるようになった。
本人は決して友人関係だとは認めていないが。
馬車を手配して、鍛冶職人のいる街へやってきた二人は、真っ直ぐに工房へと向かった。
道中、初めて見る景色にブレイブは大はしゃぎだった。
今まで領内で暮らしており外へ出たことがない分、それはもうすごいはしゃぎようだった。
あちらこちらへと立ち寄ろうとするブレイブを諫め、スタンフォードはやっとの思いで工房へと到着した。
「おお、スタンフォード殿下! 待っておりましたよ!」
工房に入ると、屈強な肉体をした髭面の男性がスタンフォードの元へと駆け寄ってくる。
「やあ、ガリウム。調子はどうだい?」
「はっはっは、殿下からの注文のおかげでうはうはですよ!」
「そいつは良かった」
豪快に笑うガリウムにスタンフォードも自然と笑顔を浮かべた。
ガリウムはスタンフォードが信頼できる数少ない人間だ。
スタンフォードは日本の知識を活かして様々な武器のアイディアをガリウムへと持ち込んでいた。
鍛冶の腕を極めたガリウムにとって、新たな挑戦ができるスタンフォードの注文は喜ばしいものだったのだ。
「それで、そこにいらっしゃるのが例の?」
「ああ、竜殺しのブレイブだ」
「初めまして、ドラゴニル辺境伯の嫡男ブレイブ・ドラゴニルといいます」
ブレイブはガリウムへと畏まった様子で自己紹介をする。
「がははっ! そう畏まらんでくだせえ! あっしはただの鍛冶職人ですよ!」
ガリウムは豪快に笑うと、早速完成した魔剣を工房の奥から持ってくる。
「では早速ですが、まずブレイブ殿の剣から」
ガリウムが魔剣を鞘から抜くと、鋭い輝きを放つ刃が露わになる。
「こちらは殿下から受け取ったライザルクの素材を使って仕上げやした。魔力を蓄積する力はもちろん、切れ味も相当なもんですぜ」
ブレイブの魔剣はライザルクから剥ぎ取った毛皮や骨を素材として作られた。
唾の部分には雷雲のような毛皮があしらわれており、その刃はどうやって鞘に収まっていたか不思議な程に大きかった。
「この魔剣は鞘から抜くと変化するんでさあ!」
「……相変わらずとんでもない剣を作るね」
謎の技術力にスタンフォードが苦笑していると、ブレイブは目を輝かせて魔剣を眺めていた。
「ほ、本当にこれもらっちゃっていいんですか!?」
「ええ、代金は殿下からもらってますからね!」
「ありがとうな、スタンフォード!」
「代金は戦闘力で払ってもらうから気にすることはないさ」
スタンフォードとしても今回の出費はかなりのものだったが、それでブレイブの戦力が強化されるのならば安い出費だった。
「それで、その魔剣の名前は何て言うんだい?」
「へへっ、よくぞ聞いてくださいました! こいつは魔剣ソル・カノル、殿下のルナ・ファイと同じで魔力を吸収して切れ味を増す魔剣ですぜい! さらに、光を吸収することで刃の大きさも自由に変えられるんでさあ!」
得意気にガリウムは魔剣ソル・カノルの効果を説明する。
従来のルナ・ファイと同等どころかそれ以上の性能に仕上がっていることに、さすがのスタンフォードも驚きを隠せなかった。
ガリウムの技術力にスタンフォードが戦慄していると、ソル・カノルを受け取ったブレイブは目を輝かせて礼を述べた。
「スタンフォード、本当にありがとう! これで俺はもっと戦える!」
「強い魔剣を手に入れたくらいで調子に乗るな。もっと強くならないとこの前のライザルクの二の舞になるぞ。ガリウム、ルナ・ファイの改良はどうなったんだい?」
スタンフォードは自分にも言い聞かせるように告げと、ガリウムにルナ・ファイの改良の具合を尋ねる。
それに対して、ガリウムは待ってましたとばかりに改良を加えたルナ・ファイを持ってきた。
「こちらが改良したルナ・ファイでさあ」
「ほう、随分と手に馴染むな」
「鍔と柄の部分を改良して、ライザルクの角も素材として使ってやす。以前よりは雷魔法に特化しやしたが、より殿下の専用武器となったのなら問題はないかと」
スタンフォードは軽く魔力を込めてみたが、少量の魔力でもかなり増幅されて刃に反映されているように感じた。
ルナ・ファイは稲妻のような形をした鍔の部分も相まって、まさに雷属性の武器という見た目になっていた。
「相変わらずいい仕事をしてくれるね。前払いの料金で足りるのかい?」
「ええ、十分でさあ!」
「そうかい。それじゃあまた仕事を頼むときは連絡するよ」
そう告げると、スタンフォードとブレイブはガリウムの工房を出るのであった。
帰り道、スタンフォードは今後の流れを確認するためにブレイブへと尋ねる。
「そういえば、ブレイブ。君も生徒会からの推薦を受けたんだろう?」
「ああ、何故か関りのないポンデローザ先輩から推薦もらったんだが……」
ブレイブは一度しか話したことのないポンデローザから推薦をもらったことに怪訝な表情を浮かべていた。
「あの方は純粋に今後を見据えて強い奴を推薦したんだろうさ。ありがたく受け取っておけ」
「それもそうだな」
スタンフォードのフォローに対し、ブレイブは特に疑問を持つこともなく頷くのであった。




