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第45話 後期生徒会メンバーの推薦

 生徒会室では主要メンバーを集めて会議が行われていた。

 会議の内容は先日の校外演習の一件以来、各地に異形種化した魔物が出現し始めたことについてだ。

 生徒会長を務めるハルバードは、机の上に異形種の出現ポイントをまとめた地図を広げて話し始めた。


「ここ数日だけでも異形種の発見数が爆発的に増えている。出現場所はどこも人の少ない魔物の生息地だ」

「まるで実験でもしているみたいですね……」


 異形種の出現ポイントをまとめた地図を見たマーガレットは神妙な面持ちで呟く。

 マーガレットの言葉に頷くと、ハルバードは話を続ける。


「マーガレット、君の言う通りだ。この騒動はおそらく複数人による組織的な犯行、そして何かの実験を行っている可能性がある」

「実験ねぇ。一体何の実験だって言うんだ?」


 いつもは会議中も退屈そうにしているルーファスですら、興味を持ってハルバードの言葉を聞いている。

 それだけここ最近起きた事件の数々は歴史上稀に見る異常事態だったのだ。


「蛇神竜ミドガルズオルムの復活」

「……そいつは笑えねぇ冗談だ」


 ルーファスは珍しくニヤけた笑みを引き締め、一瞬だけポンデローザへと視線を向けた。


「俺も半信半疑ではある。だが、滅多に現れない幻竜の出現、竜の特性を持った異形種、また調査班から入った情報によれば異業種の出現地には〝竜の紋章〟が刻まれていたとのことだ」

「竜王国ミドガルズが復活したとでも?」

「その可能性もあるということだ。可能性がある以上は調査も必要だ。ポンデローザ」


 そこで言葉を区切ると、ハルバードはポンデローザへと視線を向ける。

 ポンデローザはハルバードからの説明を引き継ぐように、そのまま話始めた。


「状況は切迫しています。そこでわたくしからある提案をさせていただこうと思いますの」


 そう前置きをすると、ポンデローザはある提案を持ち掛けた。


「まだ前期は終わってはいませんが、生徒会の皆様には一年の生徒会メンバーを選出していただきます」


 本来、二年生が一年生の生徒会メンバーを推薦するのは後期に入ってからだ。

 その予定を前出ししてでも、一年生の生徒会メンバーを決める理由がポンデローザにはあった。


「後期から生徒会に入るメンバーも我々の仕事を傍で見て早く覚えてもらう。異形種騒動で忙しくなる以上、生徒会の手は増やした方がいいと思いましたの」

「なるほどねぇ。そいつには俺様も賛成だ。使える奴は多いに越したことはない」


 書類仕事が減り、面白そうな事件に集中できるということもあり、ルーファスはポンデローザの提案に賛成する。


「そして、いくつかある異形種の出現予想地に、この長期休暇を利用してわたくし達も赴こうと思いますの」

「異形種の出現予想地、というと?」

「ドラゴニル領、ムワット森林に幻竜が立て続けに出現した以上、広大な土地には竜すら出現する可能性がありますわ」


 ここからが本題である。

 ポンデローザにとっては、長期休暇を生徒会室の書類仕事で終えるか、調査と言う名目で出かけることができるかがかかっているのである。


「一年生のステイシー・ルドエさんのご実家でもあるルドエ領ですわ」

「なるほど、確かにルドエ領の土地は広大ですよね」


 ステイシーの実家では、とにかく農業や酪農などが盛んだ。

 そこで魔物達が暴れれば、影響は領内に留まらない。


「それだけではありませんわ。ルドエ領では、牧場、農場が数多く存在しますわ。そこで異業種や竜が出現したら、国内の食料問題にも繋がる可能性がありますの」

「ルドエ領から出荷される穀物、食肉の量は膨大だ。ポンデローザの言う通り、あの領で異形種が暴れれば飢饉とまではいかずとも食材の値段が高騰することは間違いないだろうな」


 ハルバードは考え込むように頷く。


「そこでルドエ領の守護を目的として、戦力としてわたくしと推薦する一年生ブレイブ・ドラゴニル、マーガレットさんと推薦する一年生であるスタンフォード殿下の四名で向かいたいと思いますの」

「ちょっと待った」


 これまでポンデローザの案に肯定的だったルーファスが待ったをかけた。


「今の話ならルドエ領は最重要防衛拠点だ。しかも王族であるスタ坊まで行くんだろ。不測の事態に備えてもう一組戦力を連れていった方がいいと思うぜ?」

「もう一組、とおっしゃいますと?」

「ここにいるだろ。戦力としては申し分ない男がよ」


 ニヤリと笑うとルーファスは得意気に自分を指さした。

 予想外の提案に驚きながらも、ポンデローザは動揺を隠して努めて冷静に尋ねた。


「ちなみに推薦する一年生はどなたですの?」

「ステイシー・ルドエだ」


 その発言に、黙って成り行きを見守っていた他の生徒会メンバーが口を開いた。


「ルーファス! 生徒会は守護者の家系の者を選ぶのが暗黙の了解のはずだ!」

「そうだ! 特に優秀でもない生徒をお前の気まぐれで採用するなどあってはならない」


 生徒会メンバー達は口々にルーファスを非難する。

 歴代の流れを無視して、いきなり血筋も成績も優秀ではない生徒を推薦するなど、異例のことだったのだ。


「はっ、あの子は優秀だぜ。この俺が監督生をして間近で実力は確認した。何か問題あるか?」

「そこまで言うなら根拠を示せ、ルーファス」


 さすがにハルバードもルーファスを信用しているとはいえ、ステイシーを生徒会メンバーに入れるのならばそれなりの根拠が必要だった。


「あの子は魔力の量も質も三流だ。だが、魔物と戦う覚悟は誰よりもあった」


 ルーファスはハルバードの目を真っ直ぐに見据えてそう告げる。


「土属性魔法を使う奴はわかるだろうが、硬化魔法は自分と触れている物にしか発動させられない。だからこそ、大抵の場合は土を隆起させて防壁を作る」


 通常、土魔法は防御魔法として運用することが基本だ。

 敵からの攻撃を防ぐとき、多くの者は土魔法で防壁を作成し、自分自身が硬化して防ぐことはしない。

 何故ならば、硬化を破られた瞬間死に直結するからだ。


「あの子はそれができない。故に自身の肉体を硬化させて盾とする方法を選んだ」

「それのどこが優秀だと言うんだ!」

「おいおい、わかんねぇのか? 自分を殺そうと襲い掛かってくる魔物の攻撃を直接自分の肉体で受けるんだぞ。それができる奴がこの学園に何人いると思う?」


 ルーファスの言葉に、飛び交っていた批判の言葉が一気に収まった。


「あの子は肝が据わってる。だから気に入った。これが俺様の推薦理由だ」

「そうか。では、書類は用意しておくように」


 他人に興味がないルーファスが珍しく〝気に入った〟という評価をした。

 その事実に驚きながらも、ハルバードはステイシーの生徒会入りを容認したのであった。

 ちなみに、本人の意思はそこには介在していない。

 ポンデローザとマーガレットは、上級貴族から突然生徒会入りを強制されることになるであろうステイシーに同情するのであった。


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