第40話 ようやく友達へ
「ラクーナ先輩。一体いつからそこに?」
完全に思考停止して固まっているポンデローザに変わって、恐る恐るスタンフォードがマーガレットに尋ねる。
人差し指で頬を掻きながら、困ったような笑みを浮かべると、マーガレットは言葉を選びながら答えた。
「えーと、その、ポンデローザ様がスタンフォード君が無事だったことを、こう、喜んでたところからかな?」
「それ最初からじゃないですか……」
ポンデローザとのやり取りを全て見られていたことに、スタンフォードは気まずさを覚えた。
ようやく思考が回り出したポンデローザは居住まいを正すと、いつものように尊大な口調でマーガレットへと話しかけた。
「こほん……ラクーナさん。部屋に入るときはノックをするのが礼儀というものですわ」
「いや、ノックはしたんですけど……」
「あ、う……」
いつもマーガレットに注意するときの勢いで乗り切ろうとしたポンデローザだったが、あっさりと撃沈する。
そこには貴族令嬢の鑑と呼ばれる公爵令嬢の姿はどこにもなかった。
「ポン子、もうラクーナ先輩の前で取り繕うこともないだろ」
「そうは言っても……」
「周りには誰もいないんだし、この機会に仲直りしとけって」
「はぁ……わかったよ」
スタンフォードに窘められ、ガックリと肩を落とすとポンデローザは素の口調で話し始めた。
「話を聞いてたのなら今更かもしれないけど、こっちがあたしの素なの。何ていうか、今まで迷惑かけちゃってごめんね。特にぼんじりのこととか」
「その件についてはもう気にしてませんよ。まあ、糞を落とされるのは勘弁してもらいたいんですけど」
マーガレットはポンデローザの謝罪をあっさりと受け入れた。
スタンフォードから話を聞いていたこと、ライザルク戦で命を懸けて戦ったこと、そして先ほどの心からスタンフォードを心配する様子を見ていたため、ポンデローザが根は優しい人間だということを理解できたからだ。
しかし、ようやく和解できるという空気の中で救護室に乱入者が現れた。
「クルッポー!」
「ぼんじり!?」
それはポンデローザの飼っている鳩のぼんじりだった。
ぼんじりは敵意を剝き出しにしてマーガレットへと襲い掛かる。
「はい、ストップ」
「クルッ!?」
今まさにマーガレットへと襲い掛からんとした瞬間、スタンフォードがぼんじりを取り押さえる。
「絶対仲違いさせるマンもほどほどにしておけよ?」
「クルル……」
スタンフォードの手の中でぼんじりは不満げにしながらも、大人しく唸るだけだった。
「嘘、ぼんじりが大人しくなっちゃった……」
「前に会ったときに何か知らないけど懐かれたんだよな」
「あたしの言うことなんて聞いたことないのに!」
ポンデローザは大人しくなったぼんじりの様子を見て、納得いかなさそうに頬を膨らませた。
「何で私この子に嫌われてるんだろう」
マーガレットは怪訝な表情を浮かべてぼんじりの瞳を覗き込む。
そこには、いまだにマーガレットに対する敵意が見て取れた。
「「さ、さあ?」」
たぶん原作主人公だからとは言えず、スタンフォードとポンデローザは目を泳がせた。
「そうだ! スタン、普段はぼんじりのこと任せてもいい? スタンには懐いてるみたいだから、あんたの傍にいれば今度はマーガレットに攻撃とかしないと思うの」
「いいのか? こいつが傍にいないと寝れないんじゃないのか」
「なっ、誰から――って、ビアンカしかいないわよね……」
深いため息をつくと、ポンデローザはスタンフォードに告げる。
「あたしはもう大丈夫、今はスタンがいるから孤独感もそんなに感じないし」
「そういうことなら、引き受けるよ」
「クルッポー!」
二人のやり取りを理解しているかのように、ぼんじりは嬉しそうに鳴き声を上げた。
「それじゃ、ぼんじりちゃんの件も解決したことですし、改めてよろしくお願いします、ポンデローザ様」
「人前じゃなければ、敬語はなくていいって」
苦笑交じりにポンデローザがそう告げると、マーガレットは一瞬虚を突かれた表情を浮かべた後、満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ、これからよろしくね、ポンちゃん!」
「何でスタンといい、マーガレットといい、変なあだ名をつけるのかな……」
口ではそう言いながらも、ポンデローザはどこか嬉しそうに笑った。
「あっ、私のこともメグって呼んで」
「メグ?」
ポンデローザをあだ名で呼んだこともあり、マーガレットは自分のこともあだ名で呼ぶように促した。
「うん、街で暮らしてた頃は周りにそう呼ばれてたから」
「……すごい偶然もあったものね」
複雑そうにそう呟くと、ポンデローザは笑顔を浮かべてマーガレットをあだ名で呼んだ。
「わかった。これからよろしくね、メグ」
「うん!」
こうして二人は晴れて友人関係となった。
これで少しでもポンデローザの孤独が埋まればいい。
微笑ましい二人の様子を眺めながら、スタンフォードは心からそう願うのであった。




