第167話 正妻戦争
世界樹とミドガルズオルム。
レベリオン王国に牙を剥いた邪悪な存在は完全に消え去った。
王都は半壊し、今も復興作業が続いている。
王国の中枢もセルペンテ家を中心としてミドガルズに組みした大勢の貴族達が粛清され、混乱状態。
国を脅かす脅威は去ったものの、いまだ予断を許さない状況だった。
王立魔法学園は今も休講状態だが、近いうちに再稼働の目途も立っている。
「あの、コメリナ……?」
そんな学園の生徒会室でスタンフォードは戸惑ったようにコメリナへと声をかける。
「どうして、僕の膝の上に座っているんだい?」
「私、殿下の嫁」
「よーし、ちょっと落ち着こうか」
コメリナはスタンフォードの膝の上に座って、その胸に体を寄せている。
その目はとろんと蕩けており、恋人に甘えているかのような表情だった。
「言質、取った」
「いや、確かに了承したけどさ!」
スタンフォードは往生際悪くバタバタと暴れるが、コメリナにがっちりと抱き締められており叶わない。
「ピピーッ! イチャイチャ警察よ!」
「まーた面倒なのがきた……」
そこで勢いよく生徒会室の扉が開いてポンデローザが入ってきた。
「コメリナちゃん! 分家から本家に出世したからって浮かれすぎ!」
コメリナは先の最終決戦を含め、王国への多大なる貢献が認められてベルンハルト家は本家であるリュコス家から独立して新たな守護者の家として認められることとなった。
もちろん、それは既存の守護者の一角が取り潰しになったことも影響しているのだが。
「ポン様、うるさい。私、正妻」
「まだ婚約もしてないでしょうが! セタリアの後釜決めるにしてもいったん国が落ち着かないと決められないでしょ!」
「かー、ぺっ」
「ムキー!」
「いや、あの……二人共落ち着いて。溜まった書類仕事ができないから」
バチバチと火花を散らすコメリナとポンデローザに挟まれ、スタンフォードは狼狽えてばかりである。
「まったく、主様の周りは相変わらず騒がしいね」
仲睦まじいやり取りを見てアロエラは苦笑する。
アロエラもまた最終決戦を経てその立場は大きく変わった。
彼女は本家であるサングリエ家に戻ることになった。やはり王国を救う戦いに貢献したことは大きかったのだ。
兄であるセルドもアロエラが本家に戻ってこれると聞いて、珍しくはしゃいでいたくらいである。
「ブレイブ、セタリア……」
アロエラは、この場にいない友人達へと想いを馳せる。
世間的にはこの国を救った英雄はスタンフォードだ。それは当然間違っていない。
しかし、その仲間に含まれている者が平和の道を進んでいるレベリオン王国にもういないことをアロエラは嘆いていた。
「また会いたいよ」
窓を開ければ穏やかな風と共に桃色の花びらが飛んでくる。
彼女、アロエラは窓からその花びらを摑み、そして風に乗せて空へと放った。




