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第164話 乗っただけ融合

 世界樹の根元へと飛ばされたことで、周辺への被害を気にせずに済む。

 そんな中、感心した様子で拍手をしている者がいた。


「おやおや、まさか最終決戦の地にここを選ぶとは……いらっしゃい、守護者の皆様」


 そこにいたのはヨハン・ルガンド。

 ミドガルズオルム本体の精神を残したまま長いときを経て現代まで生きている分体だ。

 ヨハンがこの場にいることはある程度予想できたことだ。

 しかし、スタンフォード達にも予想できないことが起きていた。


「リオネス!?」

「は、はは……まったく、アタイも焼きが回ったのかねぇ、ごぼっ」


 胸を貫かれ、口から血を吐くかつての従者。

 その姿に呆気にとられるも、抑えていたミドガルズオルム本体が暴れ出したことでそれどころではなくなる。


「コメリナ! リオネスの治療を頼む!」

「りょ!」


 リオネスを救うというスタンフォードの願いをコメリナは二つ返事で了承する。


「ちょ、そいつは裏切り者よ!」


 ポンデローザが戦いながら抗議の声を上げるが、コメリナはリオネスを抱えて戦線を離脱してしまった。

 コメリナの治療を受けながらリオネスはどこか穏やかな表情を浮かべていた。


「……クソ王子はまだアタイのことをリオネスって呼ぶのか」

「裏切られても殿下にとって大事な存在。思い出、嘘じゃない」

「そうかい……」


 コメリナの言葉に笑顔を浮かべると、リオネスは霞む視界の中に、かつての主人とその仲間達の勇姿を収める。


「本当に、立派になっちまって……」


 毒竜として生まれ、竜毒洞で兄弟達の屍を食らい、ミドガルズオルムを復活させるための駒として今日まで生きてきたはずだった。


「おコメちゃん、アタイの〝共犯者〟の想いを無駄にしないためにも、世界樹について聞いてくれるかい?」

「ん、任せる」


 コメリナは短く頷くと、リオネスの言葉に耳を傾けた。




「さあ、せっかくの舞台なんだ! 存分に戦おうじゃないか!」

「チッ、本当にねちっこくて面倒な奴だね、お前は!」


 一方、ミドガルズオルムと対峙するスタンフォード達はミドガルズオルムだけでなく、ヨハンとも戦っていた。

 ミドガルズオルム本体と戦おうにも、やたらとスタンフォードを狙い撃ちにしてくるため、スタンフォードは仕方なくヨハンとの一騎打ちを受け入れることにした。


「デカブツの相手は任せる! 僕はヨハンと決着を付ける!」


『了解!』


 仲間達の返事を聞くと、スタンフォードは雷神挙兵を解除して剣を構える。

 青白く輝く雷を身に纏い、魔法で底上げした身体能力で一気にヨハンの間合いに入り込む。


「〝迅雷怒涛!!!〟」

「〝韋駄天!!!〟」


 振り下ろされた剣と神速の剣が激突する。

 魔法の余波でヨハンの服が切り裂かれ、二の腕に刻まれた紋章が露になる。


「お前、その紋章は……」

「蟒蛇のベスティア。おかしな話じゃないでしょう? ボクだって守護者の血を引いているんだから」


 元々ヨハンの肉体の先祖は初代守護者ヘラ・セルペンテだ。

 その中身もミドガルズオルムだったわけだが、肉体的にはベスティアを保持していてもおかしくはない。

 以前、彼の言っていた〝守るための力〟という言葉が思い浮かぶ。


「お前が一体何を守るっていうんだ!」

「自分の誇り、ですかねぇ」


 鍔迫り合いを嫌い、ヨハンがバックステップで距離を取る。

 即座に距離を詰めようとして、スタンフォードはその場に膝を付く。

 決して肉体的に疲労したわけではない。

 ヨハンと剣を交えたことで、ベスティアの影響を受けて体が言うことを聞かなくなったのだ。


「ったく、厄介な力だ」

「お互い様でしょう」


 スタンフォードのベスティアもヨハンに影響を与えていることもあり、ヨハンも口から血を流しながら膝を突く。

 互いに睨み合いながら呼吸を整えていると、ミドガルズオルムの雄叫びが響き渡る。その様子にヨハンは表情を険しくさせる。


「いよいよ、不利になってきましたか」

「いい加減諦めろ!」

「いえいえ、蛇はしつこくねちっこいんですよ……もはや出し惜しみは必要ない」


 ヨハンはニヤリと笑いベスティアを魔物を操る魔法で暴れさせていた本体へと向けた。


「蟒蛇のベスティアよ! 我に力を!」


 ヨハンはボロボロの身体でベスティアを発動させると、ミドガルズオルムへと吸い込まれていく。


『さあ! 最後の戦いを始めようじゃないか!』


 まるで操縦席にでも乗るようにミドガルズオルム本体の頭上に立つヨハン。

 世界樹の枝葉を破壊しながら暴れるミドガルズオルムを前に、スタンフォードとポンデローザは叫ぶ。


「「合体するんじゃないのかよ!」」


 彼らの頭の中では、カードゲームでありがちな乗っただけ融合が思い起こされるのであった。


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