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第161話 蟒蛇のベスティア

 ブレイブがセタリアのいる部屋に入ると、そこは思ったよりも快適そうな部屋だった。


「セタリア、無事か!?」

「ブレイブ、私は大丈夫です……それよりもラクリア様はどうなりました?」

「今はマーガレット先輩の体を間借りしてる。ちゃんと俺達の元へと来てくれたよ」

「よかった……」


 地下牢から軟禁に切り替えられてからは拷問されることなく過ごしていたとはいえ、それまでが毒による壮絶な拷問だったため、セタリアは憔悴していた。

 それでも、その瞳からは輝きが失われることはなく、意志の強さは健在だった。


「さて、お二人さん。こうして囚われの姫は助け出されたわけだが……何か芽生えるものの一つくらいあるんじゃないかい?」


 部屋にヨハンが入ってきたことで二人の間に緊張が走る。


「悪いが、ヨハン。お前の期待しているようなことにはならない」

「ええ、あくまでも私は私。ブレイブも聖剣ではなく、ただのブレイブです」

「前世や過去の意志は関係ない、と」


 思い通りにならなかったというのに、ヨハンの顔に落胆の色はない。ただ純粋に二人の関係性に疑問を持っていた様子だった。


「ああ、俺がセタリアに抱いていた感情はあくまでも聖剣が巫女に抱いていた恋慕だ。今の俺がセタリアに抱いているのは恩義と友情だけだ」

「私も同じです。ラクリア様が独立した以上、私はただのセタリア・ヘラ・セルペンテです」

「ははっ、こんな状況になったも尚、まだその名を背負うつもりかい?」


 ヨハンは理解できないとでも言いたげな笑みを浮かべる。しかし、セタリアの目は真剣そのものだった。


「こんな状況だからこそ背負うのです」


 そこには意志を持たず巫女の器として育てられた少女はいなかった。

 いるのは、貴族の誇りを持ったセルペンテ家令嬢セタリア・ヘラ・セルペンテだけだった。


「なるほど、よくわかった。それが聞ければ君達に用はない」

「随分と素直に通してくれるんだな」

「ボクだって無駄な消耗は避けたいのさ。何せ強敵に手駒を大幅に減らされてしまったからね」

「スタンフォードしか眼中にないってことか。ま、せいぜい首を洗って待ってろ」


 ブレイブは最大限警戒しつつ、セタリアを連れてセルペンテ家本邸を後にする。

 そして、セタリアが連れ出されて誰もいなくなった部屋を眺め、ヨハンは穏やかな笑顔を浮かべていた。


「ラクリア、ブレイブ、君達の長年に渡る想いは潰えたよ。それを成したのがボクじゃないのが残念だったが、少しは溜飲も下がるというものさ」


 誰に聞かせるでもなく、どこか寂し気な声音でヨハンは呟く。

 ミドガルズオルムとしての妄執。正確には人間へと転生し、ヘラ・セルペンテとして抱えてきた妄執。それが薄れていくのをヨハンは感じていた。

 スタンフォードの獅子のベスティアによって、彼を縛り付けていた運命の鎖は千切れてなくなった。

 人間のヨハン・ルガンドとして、彼は自分の意志で悪を成そうとしているのだ。


「竜の軍勢は全滅。まだ使えるのは転生体の失敗作達だが……」


 国崩しは既に成功したようなもの。そこからどう自分が王として国を支配していくかの参段を立てていると、強大な魔力の流れをヨハンは感じ取った。


「なるほど、ガーデル・ウィンス。それが君の選んだ役か」


 唐突に主を裏切って自分についた男の行動を理解したヨハンは、堪え切れずに笑い声を上げる。


「スタンフォード、君の臣下は優秀だ。おかげでボクも全力で君を叩き潰しにいける」


 どのような手で挑んでこようとも、その盤上ごと叩き潰すのが悪役たる自分の在り方だとヨハンは腹を括った。

 だからこそ、転生者が生み出した〝どんな魔物でも使役する魔法〟を使うことに躊躇いはなかった。


「できれば、本体の封印は解かないつもりだったけど、世界樹に害がなくなったのならば話は別だ」


 本体が復活すれば分体である自分は取り込まれる。

 だが、本体を逆に乗っ取ってしまえば強大な力が手に入る。


「出し惜しみなく力を使っているようだが、切り札は最後まで取っておくものさ」


 ヨハンは手の甲に浮かんだ文様を眺めて不敵な笑みを浮かべる。


「ベスティアを使えるのは君達だけじゃない」


 魔力を解き放つと、守護者の一角セルペンテ家が代々保有していた蟒蛇のベスティアを発動させる。

 その力に呼応するように、王国の中心部から地響きと共に巨大な蛇が姿を現すのであった。


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