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第15話 鍛錬の合間に

 その日、スタンフォードは夢を見た。

 大歓声の中、王立魔法学園高等部の制服に身を包んだ自分と、もう一人の男子生徒が舞台の上で向き合っている。二人は何かの武道大会に出場しているようだった。

 やけにリアリティのある夢に首を傾げていると、唐突に試合開始の鐘が鳴る。

 慌てて試合用の剣を構えれば、対戦相手は剣を上段に構えて斬りかかってくる。

 鋭い攻撃の数々に対応するが、対戦相手はスタンフォードの技量をはるかに上回る剣捌きで、あっという間に追い詰められてしまった。

 喉元に剣を突きつけられ、試合終了の合図が鳴る。

 湧き上がる歓声は対戦相手を称え、スタンフォードを王家の面汚しだと蔑む。


 そこでスタンフォードは理解した。

 これは未来の自分。スタンフォードが主人公ブレイブに負ける学園祭で行われるトーナメントの決勝戦の光景だ。


『俺の勝ちだ』


「……はっ!」


 ブレイブが勝利宣言をしたところで目が覚める。

 ベッドから起き上がってみると、大量の汗をかいていたことに気がつく。

 ポンデローザに聞かされていた原作での未来。

 それはスタンフォードにとって、文字通り悪夢のような未来だった。


「もっと強くならないと……!」


 無様な思いをするのはもう懲り懲りだ。

 気がつけば寮を飛び出し、学園内にある鍛錬場へと足を運んでいた。

 スタンフォードは一心不乱に魔法と剣術の鍛錬を繰り返した。

 地面からは砂鉄が巻き上げられ、訓練用の的はレールガンで破壊し尽くされる。

 鍛錬場は嵐が過ぎ去った後のような状態になっていた。


「これでもブレイブには勝てないんだろうな……」


 半ば八つ当たり的に行った鍛錬だったため、頭が冷えたスタンフォードはため息をついてその場に座り込んだ。


「うひゃっ!?」


 地面に座り込んだ瞬間、頬に冷たい感触を覚えて慌てて立ち上がる。

 振り返ると、そこには飲み物が入った瓶を持ったポンデローザの姿があった。


「にひひっ、ビックリした?」


 スタンフォードの間抜けな声を聞いたポンデローザは、悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべた。よく見てみれば、目の下には隈が出来ている。

 不覚にも笑顔が可愛いと思ってしまったスタンフォードは照れ隠しとばかりに、露骨に不機嫌そうな声音でポンデローザへと話しかけた。


「ポン子……こんな朝早くから何の用だよ」

「鍛錬頑張ってるみたいだし、差し入れ上げようと思ってね」


 そう言うと、ポンデローザは持っていた瓶を渡した。

 瓶はポンデローザの氷魔法によって冷やされており、中身は白く濁った水のような色合いをしていた。


「これは?」

「あたし特製のスポーツドリンク」

「えっ、マジでスポドリ!?」


 この世界に転生してからというもの、スポーツドリンクを口にする機会は一度もなかった。

 この世界にも前世でも存在する料理はあったが、スタンフォードの口に合わないことも多かった。

 そんな中で、この世界に存在しない前世の飲食物を渡されれば誰でも嬉しくなるものだろう。

 スタンフォードは嬉々としてスポーツドリンクを呷り、そのまま固まった。


「どう?」

「……酸っぱい」

「えぇ!?」


 そんなバカな、とポンデローザはスタンフォードの持っていたスポーツドリンクを奪って口に含む。躊躇いなく自分が口を付けた飲み物を口に含んだポンデローザを見て、スタンフォードはどこか照れたようにそっぽを向いた。


「うっ……酸っぱいわね」

「一体何入れたんだよ……」


 ポンデローザの自作スポーツドリンクは、レモン汁をそのまま口に含んだような酸っぱさだった。


「まあでも、運動後にはちょうどいいよ。もう一杯くれないか?」

「えっ、青汁のCM的なやつ? ネタのために無理しなくていいのよ」

「違ぇよ! 普通にもう一杯飲みたいだけだ!」


 まずい、もう一杯。

 そんなキャッチフレーズが浮かんだポンデローザは、前世のネタで言っているのだと勘違いをする。

 スタンフォードはそれを否定し、改めてポンデローザへと礼を述べた。


「スポドリ、ありがとな」

「ふふっ、どういたしまして! 今日のデート頑張りなさい! あたしは一眠りするわ」


 最後にスタンフォードにそう告げると、ポンデローザは自分の部屋の方へと戻っていった。


「風呂入って準備するか……」


 今日はマーガレットとのデートイベントがある日だ。

 身だしなみをしっかりと整えたスタンフォードは、制服を着込んで学園街へと向かった。


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