第147話 久方ぶりのルドエ領
スタンフォード達がルドエ領に着いたとき、まず初めに感じたのは安堵だった。
ドラゴニル領と違い、ルドエ領には襲われた形跡がなく、平和そのものだったのだ。
「良かった。ここはミドガルズオルムの魔の手が伸びてないみたいだ」
ホッとした様子を見せるスタンフォード。
しかし、すぐに気を引き締めると、ポンデローザ達を率いて領内の調査を開始する。
「あっ、スタンフォード様!」
領内を警戒しながら馬車を走らせていると、ステイシーの妹であるミガリーが話しかけてきた。彼女もまた、襲撃に遭わなかったようで無事な姿にスタンフォードは胸を撫で下ろす。
スタンフォードは立て続けに起きた各地の襲撃の対象にルドエ領も含まれていると思っていた。
今回の襲撃について、ミドガルズオルムの分体が他にもいる可能性が高い。
油断はできない。そう思いつつ、スタンフォードは努めて明るく振る舞った。
「ミガリー、ステイシーはどこに?」
「ステイシー姉様は千年樹の工房にいらっしゃると思います。先日ルドエ領に戻って以来、ずっと忙しそうにしていまして……」
「そうかい。ありがとう」
スタンフォードは礼を言うと、ステイシーがいるであろう千年樹の工房を目指した。元よりブレイブの肉体の修復を行わなければならない。
ステイシーが千年樹の工房にいるのは渡りに船だった。
本来ならば、領主であるステイシーの父に挨拶しなければいけないのだが、今はマナーなどを気にしている時間はなかった。
一刻も早くステイシー、ガーデルと合流してブレイブを治し、マーガレットも救わなければいけない。攫われたセタリアのことも気がかりだ。
先手を打っていたはずのミドガルズオルムの後手に回ってしまい、集めた戦力は半壊状態。はっきり言って状況は最悪である。
「スタン、あまり気負い過ぎないでね」
馬車の手綱を握る手に力が籠る。そんなスタンフォードを心配するようにポンデローザが声をかける。
「大丈夫だ、ポン子。僕は冷静だ」
「嘘おっしゃい」
「あいたっ」
スタンフォードの言葉に対してポンデローザは呆れたようにデコピンをする。
普段のスタンフォードならもう少し余裕があっただろう。しかし、今の彼は明らかに焦っていた。
それも仕方がない。ポンデローザのために原作知識というアドバンテージを捨てた今、こうして原作終盤までのイベントが全て襲い掛かることになってしまったのだ。
焚きつけた当人が責任を感じるのは当然のことだった。
「あんたは何でも一人で抱えすぎなのよ。今はあたしがいる、コメリナちゃんがいる。復活すれば、ブレイブ君やメグだって力になるわ」
そう言うと、ポンデローザは優しく微笑んだ。
「そうだったね……ありがとう、ちょっとは落ち着いたよ」
スタンフォードは彼女の笑顔を見て、ようやく落ち着きを取り戻した。
自分は一人じゃない。改めてそう自覚すると、自然と力んでいた拳が緩んだ。
「コメリナ、ブレイブの容態はどうだ?」
「ひとまず適当に足作った。意識、時期戻る」
「助かるよ、コメリナ。君のベスティアが覚醒してくれて本当に助かった」
スタンフォードは心の底からコメリナの存在の偉大さに感謝した。彼女がいなければ原作改編の結果、生じた困難を乗り越えることは不可能だっただろう。
「ふん、それほどでもある」
スタンフォードに感謝されたことで、コメリナは誇らしげに胸を張った。
「ねぇ、あたしは?」
「ポン子はムジーナ様に感謝しとけよ。自分じゃ覚醒させられなかったんだから」
「使いこなせてないあんたに言われたかないわよ!」
素直に褒めてもらえなかったポンデローザは頬を膨らませて拗ねるのであった。




