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第145話 臣下の思惑

 ルドエ領にて工房の整備を行っていたガーデルは黙々と作業を進めていた。


「ガーデル、工房の調子はどうですか?」

「いつでも使える状態には戻しましたぞ」

「さすが、魔導士としての腕だけは一流ですね」

「ええ、ええ、そうでしょうとも」


 ステイシーの皮肉にもどこ吹く風といった様子で、ガーデルは自分の与えられた命令を淡々と遂行している。

 だが、その表情が突然険しくなったかと思うと、魔導書が収められている本棚へと視線を向けた。

 そして、しばらく一点を見つめた後、眉間に深いシワを寄せて呟くように言った。


「……それが俺の存在価値だからな」


 その声色は普段の彼からは考えられないほど、暗く低いものだった。

 スタンフォードを衝動的に殺そうとしたとき以来に見せたガーデルの素の姿。

 あの一件を個人的にまだ許していないステイシーからすれば、彼ほど忠誠心に疑問を持つスタンフォードの臣下もいない。


「ガーデル、あなたはスタンフォード君に本気で忠誠を誓っているのですか?」

「ははっ、愚問ですな。それよりも、ステイシー殿もご自分の役割を全うしてくだされ」


 しかし、素の一面を見せたのも一瞬のこと。

 再びいつもの慇懃無礼な態度に戻るとガーデルは会話を打ち切った。


「わかりましたよ。またご飯の時間に来ますから、頑張ってくださいね」


 これ以上何を言っても無駄だろうと判断したステイシーは踵を返し、その場を後にする。


 しかし、彼女は気づかなかった。

 既にガーデルは工房に保管されている禁書の魔導書を読み解き始めていた。


「さて、邪魔者はいなくなったか……」


 誰も見ていないことを確認した後、ガーデルは再び元の態度に戻る。

 そして、不敵に笑いながら手元にある古びた本を捲り始めた。

 禁書に書かれた魔法。それを読み解くことができれば、自分自身の価値が計り知れないほどに上がる。

 だからこそ、彼は何を犠牲にしても成し遂げたいことがあった。


「本家にもそろそろ伝書鳩は届いた頃か」


 誰に言うわけでもなく独り言ちると、ガーデルは静かに工房の中に設置された装置を起動させる。

 その足取りはどこか軽やかで、これから起こる出来事を心待ちにしているようでもあった。


 幼少期より、ガーデルは守護者の家系にも並び立つほどの魔法の才能があるとされていた。ウインス家は代々続く風魔法の名門。それが魔導士の始祖とされる家系に並び立つほどの魔導士を排出すればその栄光は計り知れない。

 嫡男として家の期待を背負っていたガーデルは自分が歴史に名を遺す魔導士になることを疑わずに成長していった。


 だが、ある日を境に彼の人生は180度変わることになる。

 王立魔法学園に通い出してから、出会ったこの国の第二王子スタンフォード・クリエニーラ・レベリオン。

 天才と名高い彼との出会いはガーデルの自尊心を著しく傷つけた。


『君の魔法は確かに練度が高い。でも、それだけだね』

『応用力が足りないねぇ。守護者の家系に並び立つなんて夢のまた夢だよ』

『この程度、君レベルの魔導士なら理解することは難しくないと思っていたんだけど』

『僕如きに理解できるというのに、こんな簡単な魔法すら理解できない君が名門の出とは嘆かわしいね』


 スタンフォードの言葉は的確だった。

 ガーデルの魔法の才能は本物であり、魔導書さえあればどんな魔法だろうと使うことができる。

 しかし、それはあくまでも魔導書に記載された魔法だけだ。

 ガーデルは魔法を読み解き、それを実用する能力こそあれど創造性に欠けていたのだ。

 さんざんスタンフォードにその部分を指摘され、ガーデルの評判は地に落ちていった。

 ウインス家からも恥さらしと罵られ、彼の居場所はもはやどこにもなかった。

 だというのに、スタンフォードは改心して段々と周囲から評価されるようになっていた。それが過去の罪をなかったことにしているように感じられて許せなかったのだ。


 だからこそ、校外学習でライザルクの騒動が起きた際に、自分の存在意義を著しく貶めたスタンフォードを激情に駆られて殺害しようとした。

 その結果、スタンフォードは殺害未遂の件を不問にし、ガーデルを臣下とすることで、名誉を回復させた。


 ガーデルにはその行動の何もかも気に入らなかった。

 罰として憎んでいる人間の臣下にするという最もらしい理由を並べ、露悪的に振る舞うことでその場を収める。

 あとはガーデルが改心するのを待つ。そんな魂胆もガーデルには理解できていた。


「俺は俺のやるべきことをやる……臣下としてな」


 ガーデルは薄気味悪い笑みを浮かべると魔導書を閉じ、事態が動き出すのを待つのであった。


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