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第135話 正体


 世界樹ユグドラシル。

 それはこの国の成り立ちに関わる伝説の樹だ。

 レベリオン王国が魔導大国として栄えたのも、世界樹の巫女ラクリアがユグドラシルより魔力を授かったからとされている。

「世界樹は伝説には出てきていたけど、一度もその所在は明かされることはなかった……まさかこんなところに封印されていたなんて」

「原作だとミドガルズオルムの復活と同時に急に現れてたけど、ここにあったのね」


 実際に確認されたという記録は存在せず、あくまで伝説上の存在として語り継がれている。ポンデローザの先祖であるムジーナの話がなければ、実在すら疑わしい存在が今目の前にある。

 スタンフォード達は信じられない気持ちでその大樹を見上げた。


「世界樹、はじめて見た……!」


 一方、コメリナは突然現れた伝説の存在に目を輝かせている。

 伝説の存在だというのに、臆することなく樹皮や樹液を採取する姿は探求心の塊である。

 そんな彼女の様子にスタンフォード達は苦笑した。

 とはいえ、いつまでも感動しているわけにもいかない。

 スタンフォードはマーガレットに向き直り、本題を切り出す。


「ラクーナ先輩、どうして失われた原初魔法論を?」

「この体、やっぱり元々はラクリア様のものだったみたい。体に刻まれた記憶が蘇ってきて、ユグドラシルの封印を解く必要があるってわかったの」

「回復魔法をかけて苦しんでたのは、そういうことだったんですね」


 スタンフォードやポンデローザのような転生者は魂に宿った記憶を軸として過ごしてきた。

 それとは対照的に、セタリアは肉体に宿る自身の記憶と魂の記憶が不和を起こした結果、人格が分裂することになった。

 そして、マーガレットは魔法によって組み替えられたラクリアの肉体に他者の魂が入り込んだことで、肉体と魂が不和を起こしかけて苦しんでいたのだ。ある意味、セタリアの肉体にラクリアの魂が入り込んだのは幸いとも言えるだろう。

 そのことを理解したポンデローザは、はっとした表情を浮かべてマーガレットへと告げる。


「メグ、これ以上光魔法を使うと魂が消耗して消えてしまうかもしれないわ」

「どういうこと?」

「あなたの魂は本来その肉体に宿るはずのないものだった。魂と肉体が不和を起こしかけたってことは、力を使い過ぎれば魂が消えてしまうかもしれないの」


 スタンフォードとポンデローザは日本から転生して宿った魂が奇跡的に肉体と相性が良かったため、一度も不和を起こすことなく今日まで生きてこれた。

 ただマーガレットの場合は光魔法を使いこなせるようになり、ついには肉体に宿る記憶を復元できるほどになった。

 その反動で今度は魂と肉体が不和を起こしてしまっている。

 その状況が続けば、やがて偶然定着した魂は肉体に飲まれて消滅する危険性があると判断したのだ。


「そうも言ってられないよ。ミドガルズオルムは絶対に止めなきゃいけないから」

「それはそうだけど!」

「ポン子、熱くなるな。僕達がラクーナ先輩に頼り切りにならなければいいだけの話だ」

「回復、私いる。心配いらない」


 スタンフォードの言葉に頷くように、コメリナが胸を張る。


「そういうことです。完全に使わないようにするのが無理でも、できるだけ光魔法の使用は避けてください」

「……うん、わかった」


 マーガレットはスタンフォードの言葉に素直に従う。

 それからスタンフォードは改めて周囲の風景を観察した。

 魔法陣の内側では見たことのない植物や鉱物が生えており、世界樹の根も他の植物とは比較にならないサイズを誇っている。

 その世界樹に触れながらも、スタンフォードは近くにいるであろう存在へと語り掛ける。


「いるんだろ。そろそろ全部を教えてくれないか、ぼんじり」


『クルッポー!』


 スタンフォードの呼びかけに答えるように、鳩の鳴き声が聞こえてきた。

 全員が周囲を見回したが、どこにもそれらしい鳥の姿はない。


「それとも、ムジーナ様とお呼びした方がよかったですか?」


「「「えっ」」」


 スタンフォードの言葉に全員が疑問符を浮かべる中、ぼんじりが遺跡内部に溢れる魔力を得て真の姿を現した。


『お久しぶりね』


 その名はムジーナ・ヴォルペ。

 ポンデローザの先祖にして世界樹の巫女の妹、そして全ての歴史を知る者でもあった。


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