第9話 『私もうおかしくなりそうなんです……』
短めです。
翌日、昼過ぎに新幹線に乗ることにした俺は早速澪に連絡をとる事にした。
「あ、センパイだぁ~」
「おはよう澪」
「おはよーございまーす」
「早速なんだがな、澪に会いたくて……早めに帰ることにしたんだ」
「ホント……?」
「ほんとだ」
「……もう、仕方ないんですからぁ、センパイは。甘えんぼさんですねぇ♪」
吹けば飛んでいきそうな灰になっていた澪の声に急に生気が戻る。
いつもの自信タップリな澪だ。
やはりこの澪が一番カワイイ。
「ああ、帰ったらすぐに会いたい」
「全くぅ、仕方ないですねぇ♪」
ビデオ通話ではないが、画面越しに澪が小躍りしてることが分かった。
さて、人が一番絶望する時はいつか。
答えは簡単。
上げてから落とされることだ。
俺は最大級の爆弾を投下した。
「あぁ、今日の夜にはそっちにつくから明日には会えるな」
「明日……」
蘇りかけていた澪が再び地獄に落とされる。
どうだ、俺と同じ気分を味わった感想は。
「どうした澪? 我慢できないのか?」
俺は人の目があるというのに、とんでもないニヤケ顔をしていたことだろう。
数舜の沈黙が訪れたのち、うぅ……と葛藤するような声が聞こえてきた。
「はい、我慢できません! 私もう……センパイの血が欲しくて欲しくておかしくなりそうなんです!」
「それじゃ、明日まで待つのは辛いなぁ。俺も出来れば今日会いたいなぁ。そうだ、なら今日の夜俺の家に来るのはどうだ?」
「いいんですか?」
「ああ、もちろんだ。一人で先に帰るわけだから今日は親もいないしな」
「センパイ……まさか」
ここからはずっと俺のターンだ。
なあ今どんな気持ちだ?
ずっと手のひらで転がしていたと思っていた相手にいつの間にか転がされるようになってしまった気分は?
「夜遅くに返すのは危ないし、泊っていくのがいいんじゃないかなぁ」
「ケダモノ……」
俺の意図を察して澪が後退っていくのを感じる。
「ん? どうした? カノジョしないのか?」
ここで効いてくるわけだ。
最初に決めた条件──『俺の後払い』という条件が。
俺の血が欲しければ澪は俺に従うしかないのだ。
「くっ……センパイ謀りましたね?」
「澪が嫌なら仕方ないなぁ。でも明日まで血はお預けだなぁ」
聞こえた。ココロの折れる音が。
「分かりました……センパイの家に泊りに行きます……」
弱々しい声で澪が囁いた。
やった──ついに澪が堕ちた。