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第8話 『くっ……センパイのイジワル』


 計画の最終段階──それは究極の焦らしプレイだ。

 夏休みすぐ、俺は両親の実家に帰省することになっている。

 つまりその間澪とは会えない……澪は当然カノジョすることができないので血が吸えない。


 その間澪に会えないのは辛いが……澪はもっと辛いはずだ。

 お盆になる頃には家に帰る予定なのだが、その頃にははたして澪はどうなっているのだろうか?

 禁断症状でも出始めているかもしれない。



 期末試験も無事に終わりついに夏休みがやってきた。

 終業式の帰り道、急に帰省しないといけなくなったと伝えた時のあの澪の顔たるや。

 この世の終わりみたいな顔をしていたな。


 そして夏休みは順調に過ぎ去り、八月に入った。

 澪とはちょいちょい連絡を取ってはいるのだが、まだ限界そうには見えない。

 もっと焦らさなければ……


 八月に入ってすぐのとある日、澪からビデオ通話しないか、という連絡が来た。

 もちろん、と俺は快諾した。

 だがしかし……澪らしくないな、と俺は思った。

 ビデオ通話をしたところで俺は澪成分が摂取できるからまた澪に会いたいという気持ちを抑えることができるようになるが、澪はどうやっても画面越しに血は吸えない。

 俺だけが一方的に得できるシステムになっている。

 インターネット社会万歳。


 約束の時間になって、俺は意気揚々とビデオ通話を付けて……そして絶句した。


「センパーイ、お久です」

「ななな……なぁ!?」


 澪は水着姿だった。

 眩しいくらいの白い素肌をわずかに隠す純白のビキニ姿の澪が画面に突然映し出されたのだ。


「顔赤くなってますよ~、大好きなカノジョの水着姿を見た感想はどうですかぁ~?」

「最高……ただ、感謝を」


 語彙力はどこかに消え去ってしまった。

 ただ日頃の訓練の成果か冷静なままの俺はわずかに残っていた。

 そして澪が何かを仕掛けて来るであろうことは予想していた。

 それが勝敗を分ける大きな原因となった。


「ふふ、私の水着姿を見て興奮してますね? これ、生で見たいとは思いませんか?」

「思う」

「そうですよねぇ~、だからセンパイ……一緒に海行きませんか?」

「行きたい」


 行きたいに決まってる。

 澪の水着姿……画面越しでも最高だが、やはり実際の目で見てみたい。

 揺れて既に堕ちかけている心。

 だがそれに歯止めをかけるのは物理的な距離。


「でも……いけないんだ」


 俺は血の涙を流しながら澪の誘いを拒絶する。


 澪は「え……」と戸惑ったような声をあげた。


「前にも行ったけど、俺は今帰省中でさ。その流れで海外に行くことになったんだ。だから……今はどうしても会えない」


 そう、会いたいけど会えない。

 物理的に絶対会えない状況を作ってしまえば俺は絶対に屈しない。

 ココロは自由にできても、カラダまでは好きにできると思うなよ! というやつだ。


 これが俺の取った最終計画。

 名付けて『く……会わせてくれ』だ。

 

 肉を切らせて骨を断つというのは正にこのこと。

 俺は胸を締め付ける痛みに必死に耐えて、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 このくらい身を切らないと……澪には勝てない。


「え……じゃあ帰ってくるまでセンパイの血はお預けって事ですか」


 震えた声に絶望したような顔。

 それもまたカワイイ。


「俺も澪に会えなくて本気で辛いよ。だからビデオ通話してくれて助かったなぁ~! でも仕方ないよな。本当のカレシカノジョじゃないから、俺も親についていくしかなくて……」


 澪の顔から更に生気が無くなっていく。


「本当のカノジョがいたら迷わず家に残ることにしたんだけどなぁ~」

「くっ……センパイのイジワル! 性悪! ナルシスト! ここ最近でカッコよくなったからって調子に乗ってますね! ばーかばーか」

「悪いな……帰ったら……すぐに連絡するから」

「そんなぁ……」


 悲痛な声をあげながら、罵倒の限りを尽くす澪。

 冷静さを失っているせいか後半は若干褒め言葉になっていることにも気づいていないのだろう。


 俺はこの時、ボロボロになりながらも確信した。

 ──勝った。

 と。


 それから毎日のように澪から電話がかかってくるようになった。

 センパイ……センパイとうわ言のように繰り返しながら。

 どうやら禁断症状が出始めたらしい。

 

 どうだ、澪。

 これが弄ばれる気持ちだ。

 少しは理解できただろう。

 あの時の俺がどれだけ絶望したかを。


 そしてその翌日、再び電話をかけてきた澪は


「わ~、センパイだ~。センパイとお話してるとねぇ、ちょっと血のことを忘れられるんだぁ」


 幼児化していた。

 

──堕ちたな。


 俺はニヤリと微笑んだ。

 

 実はもう俺は昨日の段階で海外旅行からは帰っている。

 今はまだ帰省先にいるが、帰ろうと思えば一日で実家には帰れる。


 ……そろそろ限界だな。


 俺は両親より一足先に実家に帰ることにした。

 計画は大詰め、だがもう勝ったも同然だ。

 澪は俺にもう……逆らえない。


今日はこのあと、17時と20時に更新します!

20時の更新分が最終回となりますので、それまでお付き合いください。


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新作短編です! サクッと読める短編なのでこちらも是非ご一読ください!

ツンドラ令嬢と呼ばれていた氷上さんと同じ大学に進学したら飲み友になった
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