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第6話 『センパイ、私もう我慢できないんです……』

「センパイ……私もう我慢できないんです」

「はは、澪はせっかちだなぁ」

「センパイのイジワル!」

「嘘だよ、ほら……来て」

「いきます……センパイ!」

「澪……!」


ちう。


「ぷっは~、今日もごちそうさまです」

「それはいいんだけど、最近『1ちう』で吸う量が少しずつ増えてないか?」

「ギクっ! センパイ鋭いですね、まさかバレるとは思いませんでした」

「毎日のように吸われてるから感覚で分かるんだよ。次誤魔化したら翌日のちう禁止するからな」

「それは……それだけは……」


 初夏。


 制服はすっかり夏服に変わり、夕方になっても纏わりつくような暑さが拭えない。

 澪はいつもの通り俺の血を吸い終わると、再び柔肌をギラつく夕陽から守るために日傘を差した。

 やはり吸血鬼ということもあって日光にはそこまで強くないらしい。


 前に聞いた話だが、吸血鬼も現代社会に対応するのに何かと苦労したようで、今となっては吸血衝動が残っている以外ほとんど物語に出てくるような吸血鬼的な特徴を備えていないらしい。

 ニンニクは苦手だけど、出されたら食べられるみたいだ。

それに銀のアクセも付けると多少かゆくはなるが、オシャレは我慢だから、という理由で問題ないらしい。


……問題ないのかそれ?



 いつもの下校際のちうを終えると、満足そうな澪が何かを思い出したのかげんなりとした表情に変わった。


「どうした?」

「いや、もうすぐテストじゃないですかぁ……」

「期末試験な。もう来週だぞ」


 この期末試験さえ乗り越えれば夏休みだ。

 俺は夏休みを澪と過ごすために、今回の試験対策はバッチリだ。

 どの教科も八割は間違いなく超えるだろうという自信がある。


 取引とはいえ、澪のカレシでいるために俺は必死に何か誇れるものを作ろうと頑張っている。

 勉強もその一環だ。


「私テストやばいんですよぉ……」


 澪はがっくりと首をもたげると金髪がさらっとなびいた。

 ふわりとシャンプーの甘い匂いが鼻腔に届く。


 何となく察してはいたが、澪はあまり勉強が得意ではないらしい。

 

……となれば。


 俺はずっと憧れていたことを提案してみることにした。


「なあ、今週末二人で勉強会をしないか?」


 カノジョとのテスト勉強。

 男子高校生が憧れるシチュエーションベスト10には入るであろう、その提案を。


「教えてくれるんですか?」

「ああ、任せてくれ」

「さっすが! センパイならそう言ってくれると思ってました♪」


 顔を上げた澪はニヤリと人の悪い笑みを浮かべていた。

 計算ずくだったらしいが今回ばかりは利害が完全に一致していた。

 当然その反応も予想済み。


 手のひらで転がしていると思っている澪に対して俺は反撃をしかけることにした。


「なら場所だな……場所どうしようか」

「無難に図書館とかでいいんじゃないですか?」

「でもこの時期だと混んでるし、うるさくできないしな」

「じゃあファミレスとか?」

「すぐに追い出されそうだな」


 意外と二人で勉強会をできる都合のいい場所はない。

 二人でいれてかつ、澪に教えるためにある程度声を出しても大丈夫な場所と言えば……。

 俺には心当たりがあった、というか心当たりを作って置いた。


「……俺の家」

「え? 何か言いました? センパイ」

「俺の家とかどうだ? 今週末ちょうど親いないし」


 泊り……とまでは行かないが両親は日帰りで温泉旅行に行くことになっている。

 元々アウトドア好きな両親のことだ。

 都合をつけて追い出すのは比較的容易なことだった。


「わお、センパイさらっと女の子を家に誘いましたね。その誘い文句に警戒しない女の子がいるとでも思いました?」

「大丈夫、何もしないから」

「怪しさ満点じゃないですか!」


 実際何もする気はない。というかする勇気はない。

 普通のカップルの場合だったら付き合ってどのくらいでその……するんだろうな。

 俺には未知の世界だった。


 この感じだと断られそうだが、それも予想済み。

 俺は切り札を使うことにした。


「3ちう」

「え?」

「分かった、家で勉強会をするなら『3ちう』だそう」

「くっ……なんて魅力的な提案を……!」


 澪の青い瞳が揺れる。

 どうやら心も揺れているらしい。

 さあ堕ちてしまえ……欲しいんだろ? 俺の血が?


 好機と見た俺は更にトドメの一撃を繰り出すことにした。


「あ~、せっかく勇気出したのにな~。早くしないと決心が鈍ってしまいそうだなぁ~」


 チラチラと澪を見ながらそう言う俺はさぞかしムカつく顔をしていたことだろう。


 澪のカラダがふるふると震える。

 葛藤しているようだ。

 しばらくの葛藤の後、澪はガクッと肩を落とした。


「分かりました! 行きます! センパイのおうち行きますから!」

「よし!」

「でも、条件があります」

「なんだ?」

「その日は会ったらすぐに『1ちう』分前払いしてください……」

「そのくらいお安い御用だ」

「くっ……センパイのくせに! センパイのくせに!」


 地団太を踏んで悔しそうにしている。

 よっしゃ!

 初めて澪に対して主導権を取れた!

 ざまぁ! ってやつだ。


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新作短編です! サクッと読める短編なのでこちらも是非ご一読ください!

ツンドラ令嬢と呼ばれていた氷上さんと同じ大学に進学したら飲み友になった
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