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第4話 『センパイ、ちうさせてください』

今日は昼、夕方、夜に更新予定です。

「センパイ、おはようございます♪ 今日はお元気そうで何よりです!」

「ありがとう、おかげさまで回復したよ」


 翌日、いつもの待ち合わせ場所で合流した澪は驚くほどいつも通りだった。

 全部が全部悪い夢だったんじゃないかと思えるほど……。


 やっぱり昨日までのことは全部俺が見た悪夢だったのかもしれない。


「それでセンパイ……」

「ん?」

「この前言った取引のことについていろいろ話をまとめたいのですが……」


 うん、現実だった。

 現実は非情だね。


 にしても今日も今日とてカワイイなちくしょう……。

 申し訳なさげにおずおずと尋ねてくる澪はやはりかわいかった。


「いいよ。望むところだ」


 現実だと分かったなら気持ちを切り替えろ。

 これはいわば大事な商談だ。

 ここでいかにいい条件を引き出せるかで、今後のやりやすさが変わってくる。


 こほん、と大袈裟に咳払いをして澪が話を切り出し始めた。


「私としては、定期的にセンパイの新鮮な血が飲みたいのですが、あまり飲み過ぎるとセンパイの体調が悪くなってしまうのでそれは避けたいところです」

「俺もそれは困るな」


 ビジネスモードな澪もかわいい。


「ですよね? だから一日辺り『1ちう』でセンパイのカノジョになってあげます」

「なんだその『ちう』って単位は」

「一回センパイの首からちうって血を吸う事です。ちなみにこの前は美味しすぎて『4ちう』しちゃいました……」

「だいぶ吸ったなおい……」


 そりゃ体調も悪くなるわけだ。


「ごめんなさい……でもこれはセンパイの血が美味しすぎるのが悪いんですからね?」

「なんちゅう暴論……だが分かった。一日辺り『1ちう』だな。量はそれで問題はない。ただし、ちうするのは放課後、別れ際な。つまり何をするにも俺の後払いってことで。俺の出す条件はそれだけだ」

「むむ、センパイもなかなか商売上手ですねぇ……」

「吸い逃げされたら困るからな」

「それは確かにそうですね」


 どうやら納得してくれたようだ。

 つまりその日一日カノジョになるという要件を履行してもらうことを条件に血を吸うことを許可する、という図式になる。

 それはつまり俺が買い手で、澪が売り手になる、ということを意味する。

 この条件は俺の中では外せないものだった。


「じゃあ私からもう一つ条件をつけさせてください」

「なんだ?」

「他にカノジョらしいことをする場合、ちうする回数は要相談ってことでいいですか?」

「例えば?」

「そうですね……デートなら『2ちう』とか……」

「分かった、それでいいよ」


 具体的なレートを決めることができたのはありがたい。

 これならデート一回『2ちう』を基準にいろいろな要求ができるわけだ。

 ぐへへ……。


「よし、なら契約成立ですね♪ 記念にちうしてもいいですか?」

「別料金だぞ」

「ちぇ~、センパイのケチ」


 澪はぷくっと頬を膨らませて不満げな様子を露わにした。

 その仕草のせいか元々幼い顔立ちが更に幼く見えた。



 それからしばらくは毎日ちうされる日々が続いた。

 その間俺は俺の血を更に美味にするために肉体改造に励んだ。

 慣れない筋トレを頑張って、プロテインを飲んで……以前なら筋肉痛が辛くてすぐに辞めてしまっていたが、今回ばかりは毎日続けた。

 元の筋肉量が少ないこともあってか効果は割とすぐに表れた。


 その効果を自覚し始めたある日。


「センパイ……センパイの血が更に美味しくなってます! 何したんですか!?」


 澪が唇を血で汚して、目を輝かせながら問い詰めてきた。

 俺は、


「いや……別に何も?」


 と知らんぷりをしてみせた。

 俺の血に依存させるための第一歩が上手くいってきたらしい。


「これヤバいです! 止まらなくなりそうです!」

「具体的にどう変わったんだ?」


 サラリと俺は澪の嗜好を探ってみることにした。


「う~ん、何とも言い難いんですけど……センパイの血ってめちゃくちゃ濃厚だけど、くどくないっていうか……後引く味というか……そんな感じなんですよ。うちのパパのとは大違いです!」

「親父さんの血も飲むのか?」


 いくら親とはいえ、澪が他の人の血を飲んでいることに少し嫉妬してしまう。


「うちのパパの血はめちゃくちゃまずいんです。特にここ数年で一気におっさん化が進んで急激に不味くなった? って感じで。でもうちのママはパパの血が一番美味しいって言うんですよね……年取ると味覚も変わるんですかね?」

「吸血鬼の家庭事情って面白いな、なんか」


 というか代々吸血鬼の家系なのか。

 吸血鬼って思ったより身近な存在なんだな……。


「パパの血が不味くて血が欲しくて欲しくて……って時にセンパイと出会えて本当にラッキーでした。最近うちのパパったら『昔はあんなにパパの血美味しい!って飲んでくれたのに……』って嘆くんです。ママも『思春期だから恥ずかしがってるだけなのよ』っていうけど本当に不味いんですよ? これ新手のハラスメントですよね?」

「普通の人でいう『パパの服と一緒に洗濯しないで!」って感じなのかな?」

「あ~、感覚的にはそれが近いかもです」


 吸血鬼の家庭あるある、聞いてて面白いな……。

 とにもかくにも筋トレや食生活の改善で血が美味しくなるという仮定は正しいのかもしれない。

 これならもっと肉体改造を頑張れそうだ。


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新作短編です! サクッと読める短編なのでこちらも是非ご一読ください!

ツンドラ令嬢と呼ばれていた氷上さんと同じ大学に進学したら飲み友になった
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