第3話 俺の純情を弄びやがって……
悔しい……俺の純情な気持ちを弄びやがって。
その夜俺は気分が昂ぶりながらも泣く、という情緒不安定な状態に陥った。
初めてのキスがまさかあんなシチュエーションになるなんて誰が想像しただろうか。
「クソ……クソ……でへへへ」
枕を濡らしながらもニヤケが止まらない。
哀しいかなこれがモテない男に訪れた末路である。
そしてそんな情緒不安定の状態のままいたものだがら、翌日俺は体調を崩した。
澪ともどんな顔して会えばいいのか分からないし都合がいい。
俺は学校を休むことにした。
「一応伝えとくか……」
いつも一緒に登校している澪に義理として連絡は送っておくことにした。
『風邪ひいたから今日は休むわ』
ピロリン。
メッセージを送信して数秒で既読がついて、メッセージが帰ってきた。
『センパイ、お大事にしてくださいね。さすがに私も健康じゃない相手から血を吸うほど外道ではないので』
……思いのほか普通に心配されて再び情緒がぐちゃぐちゃになる。後半の言い分はおいておくにしても。
それから俺はゆっくりと眠った。
眠りから覚めるとだいぶ体調も元に戻っていたので俺は、これからのことについて冷静に考えてみる事にした。
改めて考えてみても俺の純情な気持ちを弄んだことは許し難い。
となれば取る結論は一つ。
「復讐だ……復讐してやる」
俺は腹の底から湧き上がる怒りに身を任せた。
だが復讐するにしてもどうすればいいのか……。
いわゆる「ざまぁ」みたいな復讐はできそうにない。
何故なら──俺が澪のことを好きすぎるから。
澪に対して酷いことをするなんて考えたくもない。
「ならどうすればいいか、だな」
俺は無い頭をこの時ばかりはフル稼働させて考えた。
まずは問題点を整理しよう。
この取引において何が問題かと言えば、需要のパワーバランスが全く釣り合っていないことだ。
つまりは『俺が澪を求める気持ち』が、『澪が俺の血を求める気持ち』を上回り過ぎているのだ。
要するに俺が澪のことを好きすぎるのがいけないのだ。
言うなればこれは貿易摩擦。このパワーバランスを変えてやればいい。
一番手っ取り早いのは俺が澪を嫌いになることだ。
そうすればそもそもの取引が成立しなくなる。
でも……俺はどうしようもなく澪が好きなんだ。
そんなことできるはずないだろう。
だとすれば取るべき手段は一つ。
こっちの出す商品の需要を向上させる……つまりは澪が俺の血なしでは生きられないくらいにまで俺の血を好きになってもらえばいい。
そして『俺が澪を求める気持ち』より、『澪が俺の血を求める気持ち』が上回れば……立場は逆転する。
決まりだ。それしか方法はない。
つまりやるべきことは『もっと俺の血を美味しくすること』だ。
澪がそもそもどんな血を好きなのかは分からないが、不健康な血を好むとはあまり思えない。
だったら血流をサラサラにするために適切な食生活を心掛けて、適度に運動をする方向性でいこう。
どうすればより美味しくて抗い難い美味さを持つ血になるのか……まずはその検証から始めよう。しばらくは澪の手のひらで踊ってやるが、覚悟しておけ……。
いつか絶対に立場を逆転させてやるからな!
純情を弄んだ罪は重い……