表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/10

第2話 『私実は吸血鬼なんです♪』


「あ、いいですねぇ、そのポカンとした顔。私結構好きかもです♪」

「えと……何言ってるんだ?」


 ありえない。

 澪が吸血鬼? 

 というかそもそも吸血鬼って実在するのか?

 

 思考がぐちゃぐちゃになってしまった俺はさぞかしマヌケな顔をしていたことだろう。

 澪も俺のそんな顔を見てニヤニヤと笑っている。


「この際なんでもう全部話しちゃいましょうか。私実はセンパイのカラダ目当てでお付き合いしてました」

「いや、言い方よ……」

「あ、エッチな意味じゃないですよ? 私、センパイの血が目当てでお付き合いしてたんですよぉ」


 澪は、驚きました? と悪ぶる様子もなくニカっと笑う。


「ああ、センパイの血、ごっくんしちゃいましたけどとっても美味しかったです♪」


 わずかに血のついた頬を手で拭って、その残った血をペロリと舐めた。

 澪は頬を緩ませて恍惚の表情を浮かべる。

 その姿は艶やかで妙に煽情的だった。


「……嘘だったのか? 俺を好きだって言うのも」


 血を吸われたせいで力が入らない体から更に力が抜けていく。

 カラダ目当て……つまりは嘘告白だったということなのか?


「好きなのは部分的に本当ですよ? 告白する時も言ったじゃないですかぁ? センパイの血が好きですって。まあちょっと都合の悪い部分はごにょらせましたけど」

「なんだろう……全然嬉しくない」

「いやいやいや、めちゃくちゃ褒めてますからね私? 事故の時……助けてくれたのは感謝してます。それは本当です。でもそんなのどうでもよくなるくらい……あの時舐めたセンパイの血の味が美味しすぎて忘れられなかったんです」

「どうでもって……」


 俺の命をかけたファインプレーがどうでもよくなるくらいの味っていったいどれだけ美味だったんだよ……。


「てことは騙したのか?」


 ようやく冷静になってくると怒りがふつふつと込み上げてくる。

 俺の……純情な気持ちを澪は……!


「はい、そうなりますね」


 事もなげに澪は断定する。

 そこはせめてもうちょっと躊躇って欲しかった……。


「センパイチョロかったので堕とすの楽勝でした♪」

「そんな……」


 血の気が引いていく。

 ていうかもう引いている。

 俺はきっとこの世の終わりみたいな顔をしていただろう。


 俺に向けてきたあの笑顔も、健気な姿も、全部血を吸うためだけの演技だったというのか?

 こんなのって……こんなのって……。


「騙してました。ごめんなさい。センパイといる時間はまあそれなりに楽しかったですけど恋人として──じゃなくて男友達として、です」

「男友達……」


 俺のドキドキを返してくれ。

 冴えない俺に初めてできたカノジョなんだぞ? 


 どれだけ大事にしようと思ったか……。 


 どうやって釣り合いの取れる男になれるか考えて……髪形も服装も変えたのに。


 新しい髪形が似合うって言ってくれたのも、その服似合ってるって笑ってくれたのも全部俺の血を吸うためだったのか……。


 こんなの……許せるわけがないだろう。


「許せないから別れます? 幻滅して別れます? でもセンパイもう私なしじゃダメですよね? だってセンパイもう私にベタ惚れじゃないですかぁ~」

「ぐっ」


 それは事実だ。

 今だって悔しいけど……カワイイと思ってしまう。

 その悪戯な笑みも……好きだ。


「だから取引しましょ♪」

「取引だって?」

「私はこれからもセンパイの美味しい血が飲みたい。センパイはカワイイ私と付き合いたい。私たちの利害は一致してるんですよ。ウィンウィンってやつです」


 こんなことを言われても……怒れない自分が悔しい。

 恋愛は好きになった方が負けというのはこのことか。

 こんなの実質一択しか選択肢のない脅しじゃないか。


「さぁ、センパイ♪ どうしますか? って言ってももう答えは決まってますよね。我慢しないでいいんですよ? さぁ、私に欲望をぶつけちゃってください」


──悪魔の囁き。


 耳元で吐息交じりに澪に呟かれると、背骨に電流が走ったようなゾワゾワ感が襲ってきた。

 カラダが……本能が勝てないと言っている。


「……これからも……よろしくお願いします……」

 

 悔しさに歯噛みしながら、屈服の言葉を口にする。


「センパイは物分かりがいいですねぇ。そういう所、好きですよ?」

「……もう騙されないぞ」

「本音ですよ、本音。いくら血が飲みたいからと言っても本格的にナシな人にはそんなこと言いませんからね? つまり、脈ありってことです♪」


 完全に主導権は握られていた。

 俺はもう澪の手の平で泳がされているだけに過ぎないのだ。


「でも……さすがに初めてのカノジョにこんな仕打ちされたら女性不信になっちゃいますよね。私としてもセンパイとは長いお付き合いをしたいので、それじゃ困るんですよ」

「既になりそうだよ……」

「それは困りましたね……そうだ♪」


 再び澪は小悪魔がイタズラを思いついた時のようなニンマリとした笑みをこぼした。


「これからも私はセンパイと仲良くしたいと思ってます。だからこれは……契約成立の証です。受け取ってください」


 唐突に澪が俺に顔を近づけてくる。

 逃げ道を拒むかのように、そっと澪の両手が俺の両頬を塞いでくる。

 ……また血を吸う気か?

 逃げようと思っても、艶やかな唇に魅了されて俺は動けないでいた。

 漏れ出た熱い吐息が俺の理性を狂わせる。

 そして俺が固まっている間に……。


 そっと唇に柔らかい感触。

 甘い匂いが鼻腔を抜け、脳からセロトニンが溢れ出してバカになりそうになった。


 そう、俺は澪に……唇を奪われた。


 クラクラと酸欠になりそうなほど長く唇を塞がれた。

 澪がようやく唇を話すと呪縛が解けたかのようにカラダに自由が戻る。

 俺は肺がはちきれそうになるほど大きく息を吸った。


「まあこれは……騙したお詫びと、初回サービスみたいなものです。ちなみに私、これがファーストキスなんですよぉ。私の初めてを捧げた意味……センパイなら分かってくれますよね?」

「……」

「ふふ、センパイ。顔、真っ赤です♪ 改めていい取引にしましょうね。セ・ン・パ・イ!」


 初めてのキスは──血の味がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作短編です! サクッと読める短編なのでこちらも是非ご一読ください!

ツンドラ令嬢と呼ばれていた氷上さんと同じ大学に進学したら飲み友になった
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ