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第1話 『セーンパイ♪ 一緒に帰りましょ?』

長編(予定)の連載版開始します! 

良ければそちらもご一読ください!


「セーンパイ、一緒に帰りましょ♪」


 ざわめきたつ放課後の教室に鈴の鳴るような明るい声が響く。


「澪、わざわざ待っててくれたのか?」


 声の主は羽黒澪、一学年下の後輩。

 明るい金髪はふわりと内巻きにされていて、カラコンで青に染められたパッチリした目が印象的な生粋の美少女だ。

 その大きく丸い目と、少し丸みを帯びた鼻のせいか少し幼く見えるのでキレイ系の美人というよりはカワイイ系の美少女という言葉がよく似合う。


「はい! だって私センパイのカノジョですよ? カレシと一緒に帰りたいって思うのは当然じゃないですかぁ」


 人懐っこい笑みを浮かべながら、上機嫌に澪は答えた。

 クラスのあちこちから「どうして澪ちゃんがあんな男と……」とか「俺狙ってたのに……」とか呪詛のこもった言葉と視線が向けられる。


 どうして冴えない俺が超絶美少女な後輩と付き合うことになったのか。

 そのキッカケは澪が入学してからすぐに起こったことと関係している。


 その日は俺が高校二年になって、程なくしてからの……四月末の月曜日のことだ。

 忘れるわけがない。

 俺は少し寝坊してしまって駆け足で学校まで向かっていた。

 このままいけば何とかギリギリ間に合う……という時間帯。


 当然チラホラと見かける同じ制服の連中も一様に焦っていた。


 そのせいだろう。


 あと横断歩道を一つ渡れば学校はもうすぐそこ……という場所。

 赤信号みんなで渡れば怖くない理論が働いて、赤信号だというのに信号を無視するやつが多発していた。


「そこまでするかね……」とボヤきながら、信号が変わるのを待っていると後ろから一人の女子生徒が現れた。


 真新しい制服に金髪、それにとびきりの美少女、と一際目立つ彼女はスマホをいじりながら歩いていた。


 歩きスマホ、ダメ、絶対。


 彼女は他に信号を渡っている生徒がいたせいか、前を一切確認せずに横断歩道に足を踏み入れて……ちょうどそのタイミングで車がやってきた。


 危ない。


 咄嗟の判断だった。判断……というより体が勝手に動いた、という方が正しいかもしれない。

 気付いた時には運動不足の足をちぎれるくらい早く動かして、女子顔負けの細い腕で彼女を突き飛ばしていた。


「きゃっ!」


 よろめいた彼女は前のめりになって、フラフラした足取りで横断歩道を無事渡り切った。


──よかった。


 安心した途端、世界は減速する。

 やけに遠くに聞こえたクラクション。

 見ると目の前まで迫る車。

 運転手のおっちゃんが目をかっぴらいて驚愕の表情を浮かべているのがハッキリ見て取れた。


 そして俺は宙を舞った。

 意識はプツンとそこで途絶えた。


「うぐっ……」


 猛烈な痛みが全身を駆け巡り、強制的に意識が引き戻される。


「……パイ……センパイ!」


 目を開けば涙を浮かべて青色の瞳を潤ませる美少女が目に入った。

──ロクでもない人生だったけど最期をこんな美少女に看取ってもらえるなら悪くないか……

 赤く染まる視界の中で俺はそう考えて、再び目を閉じようとして……


「いってええええええええええええええええええ」


 叫んだ。

 それはもうみっともなく。

 呼吸をする度に右半身に燃えるような痛みを感じて、意識を失うことさえできない。


「っ……センパイ大丈夫ですか!? 今救急車呼んでますから!」

「しぬうううううううう……しぬううううう……?」


 痛みのあまりのたうち回る。

 それが更に痛みを加速させていく。

 捻挫すらしたことない俺にとっては人生でダントツ一番の痛みだった。

 長男じゃなかったら我慢できなかったかもしれない。


「血だぁあああ……血も出てるううううううう」

「大丈夫です、血は私が止めたのでそこまで大したことはありません」

「え? マジで?」

「マジです。ごちそうさまでした。ていうかセンパイ意識はハッキリとしてるんですね……よかった……」

「いやいや死ぬ、マジで死にそう、救急車はよぉ!」


 喚く俺をひたすら落ち着かせようとしてくる彼女。

 それが俺と羽黒澪との最初の会話だった。


 どうやら車に乗ってたおっちゃんの急ブレーキが間に合ったらしく俺の怪我はそこまで大きなものではなかった。

 肋骨一本と大腿骨の転子部にヒビが入ったのと、額を四針縫っただけ。

 俺からしたら大怪我であることには間違いないのだが、世間一般で見れば車に惹かれて骨折すらしていないというのは幸運だったと言えるだろう。


 俺に恩義を感じたのか、澪は俺が入院している間毎日お見舞いに来てくれた。

 最初は申し訳なさそうにしゅんとした表情で平謝りするばかりだったのだが、俺の調子がそこまで悪くないと知ると段々態度が軟化して、三日目には持ってきた見舞いの菓子を自分で食べるようになり、退院する直前ともなると学校での愚痴を聞かされるようになった。


 そして退院してからも都合のいい先輩だと目を付けられたのか、事ある毎に俺に絡んでくるようになったのだ。

 そしてそれからしばらくしたある日……。


「センパイの……が……好きです! 私と付き合ってください!」

「え!?」


 放課後、下校中。

残照が節くれだった木々を赤々と照らす頃。

それよりもさらに顔を真っ赤にした澪から告白された。


「どうして俺なんかを?」

「だってセンパイ、優しいですもん」

「……」


 面と向かって褒められると照れるのが陰キャの性である。


「それに……私を車から庇ってくれたあの時……私は運命を感じたんです。お願いします、私をセンパイのカノジョにしてください!」


 上目遣いで俺を見つめてくる澪の破壊力たるや。

 これで堕ちない男なんていないだろ、そう思わせるくらいには魅力的だった。


「えと……俺でよければ……はい」

「やったぁ♪ それじゃセンパイ、改めてよろしくお願いしますね!」


 祈るような澪の表情がぱっと華やぐ。

 コロコロと変化するその表情が愛しくて……。


 こうして俺と澪は付き合うことになったのだ。

 回想終了、妄想ではない。




 今となってはいい思い出とのなった横断歩道を澪と並んで歩いていく。

 横にいるのが入学から三カ月ちょっとにして早くも学校一の美少女、というポジションを盤石なものにしている澪ということもあって向けられる視線の数も半端なものではない。


 このくらいの視線の数は澪にとっては普通なのだろうが、誰にも見向きもされてこなかった俺にはまだ慣れない。


 しばらく歩いて人気のないところまでくるとようやく落ち着くことができた。

 ……それにしても今日はどうも澪の様子がおかしい。

 顔が少し赤いし、それにキョロキョロと落ち着きなく周囲を見渡している。

 

「センパイ……」

「なんだ?」

 

 躊躇いがちに澪が口火を切った。


「今日が何の日か覚えてます?」

「付き合って一か月の記念日だろ」

「意外です、センパイって意外とマメな所あるんですね」

「そのくらいは当然だって」


 忘れるはずがない。

 なんならバッグの中にはプレゼントが用意してある。

 雰囲気も出てきたし、そろそろ渡そうか……。


「デートにも、もう二回行きましたよね……」

「行ったな。二回とも楽しかったよ」

「なら……そろそろ頃合いですよね?」


 顔を赤らめながら、澪はもじもじと手を弄り始めた。


「センパイ……私のこと好きですか?」

「……当たり前だろ、多分澪が思ってるよりずっと好きだ」


 言ったのは自分なのにセリフの臭さに恥ずかしくなって体温が急上昇する。


「ならもう……我慢しなくていいですよね?」

「……何をだ?」

「センパイ……目、瞑ってください」

「え?」

「恥ずかしいから絶対に目を開けないでくださいね」

「あ、ああ……」


 これは!?

 もしかして、もしかするのか?

 キキキキ、キッスてやつなのか?

 男として自分から誘いたかった気持ちはあるが……この際どうだっていい。

 プライドなんてポイ、だ。


「センパイ……早く……。人来ちゃうかもしれません……」

「分かった……」


 俺は澪に言われた通り目を堅く瞑る。


 うわあああ、こんなんなら今日の朝血が出るまで歯を磨けばよかった。

 ニンニクは嫌いだから大丈夫として……昼何食べたっけ。

 口臭大丈夫だよな……。


 高速で頭の中を駆け巡る思考は、眼前に迫る澪の気配でフリーズする。

 吐息が首の辺りに当たるのを感じる……。


 いよいよなのか……。

 唇に来るであろう柔らかい衝撃に備えて……唇を少し突き出した。


 そして次の瞬間……。


カプッ


……

…………

………………カプッ?


 来るべきはずの場所に来るべきはずの見るからに柔らかそうな朱唇がこない。

 その代わりに首筋にチクっとした痛みが訪れた。

 チウチウ……不思議な音がする。

 その音がする度に体から力が抜けていくような気がした。


……あれ?


 俺は不可思議に思って、童話の決して覗いてはいけないと言われた部屋を覗いたおじいさんのようにおそるおそる目を開いた。


……なんだこれ。


 眼前には澪の頭が見えた。

 艶やかな金髪からはふわっと華の香りがする。


 そして肝心の澪の唇はと言えば……

 俺の喉元にあった。


 わけがわからない。

 チクっとした痛みがある辺りに何故か澪の唇が触れている。


 そんな俺の疑問を察したのか、澪が顔を上げた。


「あ~あ、センパイ。目を開けないで……って言ったのに悪い子ですね」

「澪これはいったい……?」

「センパイの血を吸ってました!」

「は?」


 何を言っているのかわけがわからない。

 頭の中に疑問符が数千個。


「バレちゃったのなら仕方ないですね」


 澪は赤く染まった鋭い歯を二ッと見せながら、笑って……口を開いた。


「私、実は吸血鬼なんです♪」


ラブコメ×ざまぁ=わからせ


その概念を広めたいがために書いた新作です。


同好の士がいましたら、是非ブクマや広告の下にある★★★★★から評価から応援よろしくお願いします。


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新作短編です! サクッと読める短編なのでこちらも是非ご一読ください!

ツンドラ令嬢と呼ばれていた氷上さんと同じ大学に進学したら飲み友になった
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