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青の証言


認識したくない何かから必死に逃げている。

捕まってしまえば確実に何かが壊れる。オレの本能がそう察知していた。自分がが今何から逃げているのかさえ理解してはならない気がして、ずっと走っている。同じところを、ぐるぐると。

声がするんだ。聞き慣れた、しかし知らないはずの声。


夢をみる。

楽しかったあの頃の夢。


顔がぐちゃぐちゃに塗りつぶされた二人を、オレは大きな声で呼んだ。


記憶を逆走していく。始まりは、何だっけ。

行き着いた八月。その前後。

幾度となく繰り返された映像が、また勝手に脳内で再生を開始してしまう。


それは高二の夏のことだった。


「「赤」?どした、お前今日なんも喋んねえじゃん」


小さな違和感だった。普段からよく喋るってわけじゃないけど、その日、どうも黙り込んで何かを考え込むような仕草が目立つ「赤」に、オレは心配になって声をかけた。

その時は適当に誤魔化されたけど、オレの中に少しづつ疑念が溜まっていくのを心の底で感じていた。


実はその日だけではない。ある時からオレが「赤」に声をかける度にその表情に何か普段と違う色が滲む気がして、でもそれがなんなのかは全然わからなくて。

ちなみにそれは少しだけど「黄」にも見られた。「黄」はあまり上手に嘘はつけないはずだから、何かよっぽどの事情があって隠しているようだった。


不服だった。


オレは隠し事が昔っから嫌いだ。何故なら隠されても大抵わかってしまうからだ。

小さな頃から周りばっかり気にして生きてきた。そのせいで、他人の顔色を窺うのが異様な程得意に育ってしまったのだ。

中途半端な嘘をつかれるとすぐに違和感に気づいてしまう。

いいことなんてなかった。人に知られれば疎ましがられるような体質だった。嫌われるのは嫌だから隠した。孤立したくなかったから更に周りを気にするようになった。ひとりにならないように動くように心がけた。結果誰にでも好かれるようになった。周りにはオレの作り笑顔に惹かれた人間が集まっていた。でもオレは、そんな不自然な振る舞いを続けることに疲れてきていた。

だが奇妙な縁があって、「赤」や「黄」、「緑」と仲良くなってから、それが少し変わった。

ここだけの話、最初は「赤」に嫌われてたんだ。オレが「黄」に無駄なこと言ったせいで。

だからオレは焦って、仲良くしないとと思った。「黄」の体質を理由にしたけど、ほんとの所は嫌われたままじゃだめだって、半ば脅迫的に思ってたから。いつもあいつらの近くにいるようにして、危なそうな気配があったらそれとなく注意して。他人より周りが見えるらしいオレが「黄」の隣にいることで、随分と「黄」の危なっかしさが軽減されるらしいと知った。「赤」の態度も時間が経つうちに柔らかくなっていて、どうやらこいつは「黄」が大切すぎるだけで普通に優しくて気を使えるいい奴だったってこともわかった。「黄」も穏やかで生真面目でドジだけど憎めない、魅力的な奴だった。

そして、いつの間にか、あいつらの前にいるオレはいつもの取り繕ったオレじゃなくなってた。こいつらなら大丈夫なんだって思った。信頼、してたんだよ。

それは「緑」も同じだ。小学校の時に通ってた塾が一緒で仲良くなった。部屋の隅で一人だった「緑」にオレが声をかけたのがきっかけ。付き合ってみると「緑」もオレと似たような奴で、嫌われるのが怖くて、嫌なことを押し付けられても断れず、怒らず、へらへらと笑っているような、そんな奴だった。だから、オレは「緑」の前では素でいたいし、「緑」も素でいてほしいと思った。「緑」と約束をしたのは確かそんな時だ。「緑」をひとりにしないという約束。「緑」が覚えているかどうかはわからないが、オレが中学に入って「赤」「黄」と「緑」を引き合わせたのはそれが理由だ。オレが信頼する人間と「緑」が仲良くなってくれれば嬉しいし、「緑」にも頼れる人間が多い方が心強いだろうと思ってそうした。

オレの目論見は成功して、いつも四人で行動するようになってからこれまで何年もずっと一緒だった。隠し事は原則しない。オレが嘘嫌いなこともわかっているはずで。


だから不服なのだ。

今更何を隠すことがあるだろう。


ある日の朝、オレは部活をするために家を出た。そして道中で制服を着た「黄」と出くわした。夏期講習を受けに学校に行くと言うので、行先が同じだから一緒に歩いて行った。

しかし、あと少しで学校に着くという所で、「黄」に電話がかかってきた。


「黄」の表情に、例の色が色濃く滲んだ。


急用ができたからと言って走り出した「黄」を引き止めようとしたが間に合わず、オレは「黄」の後を追いかけた。

ただならぬことが起きようとしているような気配がした。

「緑」に電話をかける。出ない。

確か「緑」も講習だったはずだ。真面目な「緑」のことだ。携帯を切っているらしい。

しばらく追うと、「黄」は慣れた行先へ向かっているようだと気がついた。

「赤」の家だ。

やっぱりか、とひとりで納得する。

家の手前で追いついて「黄」の肩を掴む。


「何しようとしてんの」


息を詰まらせた「黄」は一言、いえない、と零した。

ああそうか。じゃあ「赤」に直接聞いてやる。

そう思って、オレは「赤」の家のインターホンを押した。出てきた「赤」は少し驚いたような顔をして、オレの後ろの「黄」を見た。


「「赤」。何隠してる」


「・・・入んなよ」


「赤」は苦い顔をして振り返り、奥のリビングへと消えていった。オレと「黄」は靴を脱いで、その後に続く。家の中はクーラーで冷やされていて、オレは今更外が蒸し暑かったことに気付いた。


「赤」が麦茶の入ったコップをテーブルの上に置きながら口を開く。


「「青」、隠し事をしてたことは謝る」


「や、それは別にいいけどさ」


正直不服であったが、今それは問題ではない。


「オレはお前らが何しようとしてたのか知りたいだけだし」


本題はそれだ。オレに隠し事をしてまでやりたかったことって何なの?

黙りこくる二人。空気が重すぎて、オレはつい癖でそれの軽量化に努めてしまう。滑稽だな、なんて思う。よもや親友との会話でそうする日が来るなんて、とも思う。口元が勝手に笑みを浮かべるのをオレは止められない。なに笑ってんだろ、オレ。


「赤」は、しばらくの沈黙の後、重たい口を開いて、次のように発言した。


「お前を巻き込みたくなかった」


そしてそれに続いたのは、オレに対する感謝と謝罪。今まで見たことがないくらいの不穏に振り切った色で、「赤」は一連の長台詞を次のように締め括った。


「恩を仇で返すようなことしてごめん」


怖くなった。


「・・・は?なん、なんで今そんなこと、仇って何、お前ら、何しようとしてんの」


「赤」は答えなかった。オレに向けてではなく、明らかに他のものに向かって、小さく小さく、もういいんだ、と呟いた。


視界が揺らいだ次の瞬間から、しばらく記憶は飛んでいる。


ふと水音が耳元で鳴った気がして目が覚めた。二人はリビングにはおらず、キッチンにも人の気配はない。

オレは嫌な予感がして風呂場へと急いだ。


そして一番に目に飛び込んできたのが、一面の赤色だった。


もうどうしようもない程溢れ出したその色を、「黄」は黙って見つめていた。


駆け寄る。肩を揺する。ぴくりとも動かない「赤」。

認めたくなかった。なんで、オレ、すぐ近くにいたのに、何も出来なくて、少し眠っていた間にこんな、何でこんなことに。

「黄」は、「黄」はなんで、お前は、こいつを見殺しに?

訳がわからなくて、「赤」からの帰ってきそうもない返事を期待して、そして。


「無理だよ「青」。戻ってこないよ」


「黄」が近づいてきて、そっと「赤」の頬を撫でた。


「「青」」


あまりにも感情の読めないその声に驚く。そして、抱いたことのない種類の恐怖を覚えた。

こいつはどうしてしまったのだろう。そしてオレは何故反故にされてしまったのだろう。そんな数々の疑問が、小さく口から漏れた。


「黄」は、学校行こう、と言って立ち上がった。

びしょびしょの靴下を気にする様子もなくさっさと歩いていこうとする。

オレは蒼白の「赤」の手に触れて、冷たいそれを再確認した後、「黄」を振り返って、わけもわからないまま頷いていた。


「黄」が向かったのは、オレらがいつも昼食を食っていた屋上だった。

生徒が変な気を起こさないようにとフェンスが一周ぐるりと張ってある。


しかし、一箇所緩い部分があることは一部の生徒には知られている事だった。それは例えば、毎日ここに来ていたオレたちのような。

そして「黄」はそこに向かって歩いていく。


「飛び降りるとか、言わないよな」


それはひとつの願望だった。そうであってほしい。何かの間違いであってほしいと本気で願った。


しかし言葉は帰ってこなかった。

ちょっとだけ俯いて、笑っただけだ。

それが答えだった。


「なんで、」


「今は、教えられない」


今は?そんな、先なんてあるのか?お前は今から、いや、だめだ。そんなこと認めたくない。どうして、なんで。


「やめて」


「黄」は笑顔で振り返った。


「「青」も、後でおいで。待ってる」


全てを照らす光のような笑顔で、


「約束だよ」


オレに呪いをかけたんだ。


晴れやかで簡潔な別れの言葉と共に、「黄」は視界から消えていった。

下を見る勇気はなかった。しかし、断片的に届く悲鳴と怒号が、否が応でも今の状況が白昼夢でないことを指し示していていた。


「約束・・・」


約束だと、あいつは言った。

後でおいで。待ってる。


「約束」


「緑」をひとりにしないという約束が頭をよぎった。


屋上に向かってくる人の気配がする。

オレは面倒事に巻き込まれないように、その人影から逃げた。

校舎から出る時に後ろをちらっと見ると、教室の窓から乗り出す「緑」の姿が見えた気がした。

きっと、「緑」はこの後「赤」の家に行くだろうと漠然と思った。そこにいれば、「緑」と自然に会えるだろうと、オレはその時何故か確信していた。


電気が消えたままの家の中。真っ暗ともいえる風呂場で、オレはただ、流れ出る水音を聞いていた。

今まで築いてきた大切なものが一瞬にして崩れ去る様を、目の前で見せつけられて、わけがわからなくて、考えることも放棄して、ただオレは、約束という言葉を咀嚼していた。

「黄」と「緑」、両方の約束を果たすにはどうしたらいいか。空っぽの頭には何も案が浮かばなかった。


どれくらいの時間そうしていただろう。


音も拾わない程霞みきった思考。目に映る黒の中の「赤」。動く気配はない。

おもむろに、「赤」の足元に落ちたナイフに目がいく。「赤」はこれで死んだのか、なんて独りごちて、何の気なしに拾い上げた。

これ、オレが死ぬのにも使えるな。


床板が軋む振動がオレに届いた。

扉がゆっくり引かれて、電気が着く。

後ろで息を呑む気配。

オレの名を呼ぶ声。

ああ、こいつが来るまでに、答え、出したかった。オレほんと考えんのおせぇな。


マジで、なんもできねえんだな、オレは。


ここで何かが破綻した。


あ、そうだ、なら根本的に発想を変えて、できることからやってみよう。

グズで無能なオレでも今すぐにできること。

手に持ったナイフで自分を刺すこと。

じゃあ、実践。


狙うは急所。首、頸動脈。


さて。さっさと「黄」との約束を済ませてしまおう、としたところで「緑」はオレの手を弾いて、?、ナイフが飛んだ、ので、オレは死ねません。しくった?いや待て待て、今これ、「緑」の約束どうなんだろ。死ん、おっと待てよ、あー、オレの馬鹿野郎。なにやってんだグズ。ちょっと考えりゃわかんだろうが。つくづく無能だな。死んじまえ。


ああ、「黄」、「緑」、ごめん。


「緑」、ありがとう。止めてくれて。今度こそ、オレ、自分のこと呪うとこだった。


「黄」、約束、遅くなりそうだ。わすれないように、しないとな。とりあえず、今は無理だったわ。オレ、馬鹿だから、ちゃんと、メモしとかないとわすれそう。そうだ、目印、目印つけよう。


ナイフを拾い上げて手に持ったまま、不安そうな顔をする「緑」に、オレは言った。


「なあ、せめて、どっか、ちっちゃいのでいいから、傷、つけていい?」


あいつとの約束を、馬鹿なオレがわすれないように。


左の掌におおきく目印。

これだけはわすれないでいなきゃ。


それからは、色々と曖昧だ。「緑」と一緒にいた気がする。「緑」はオレと毎日会ってくれてた。優しい奴だ。これは約束だからだろうか。オレがひとりにならなかったのは、オレが昔した「緑」への約束がちゃんと成立するように、「緑」が気を使ってくれているからだろうか。なんて、想像だけど。でもここで「緑」がいなかったら、オレ、完全に機能停止してたかも。

指の隙間から水が漏れていくように、頭の中身が零れ落ちて、どんどん空っぽになっていく。あることもないこともわからなくて、でもそれでいい気もして。


掌の印。

ずくずくと痛むそれ。

約束の印。


誰との?


誰???


約束は覚えている。が、いつの間にか、誰とのものかは忘れていた。オレの頭が狂ったのか、それとも。いや、きっと狂っているんだ。


記憶の中の赤色を、真っ黒で塗りつぶしていく。光のような黄色も、真っ暗で。


消して、消していくと、オレの存在まで一緒に消えていくようだった。

でも消さないと、約束以外を忘れないと、オレが壊れて約束が果たせなくなる。そう思った。

しかし、眠ると自分の強迫観念が暴走して、あいつらに呼ばれる夢を見る。

悪夢だ。毎晩、夢見は最悪。オレは怖くて眠れなくなって、夜でもずっと起きているようになった。どんどんやつれて不健康になって、動く気力もなくなって、学校にも行けなくなって、外にも出なくなって。

そんな日々がしばらく続いた。


そして、ある時ついに白昼堂々現れるようになってしまったそいつらの影。怖くなったオレは、それを振り払うように半狂乱になって逃げ出した。


やだ。やだよ。お前ら誰だよ。


適当な刃物で掌を切りつける。

ほら、わすれてないからさ、どっか行ってよ。なあ、なあってば!!


そんな時に、影は言ったのだ。


「おちついて、「青」」


まさか口がきけるとは思わなかったから、オレは思わず誰かと問いかけた。

そいつは自分のことを死神だと言った。


それを聞いたオレはやっぱり怖くなって、逃げて、いつの間にか必死で「緑」に助けを求めていた。

「緑」は何かを知ってるはずだ。オレが忘れようとしたこと、こいつらが誰かってこと。


すぐに駆けつけてくれた「緑」に、さっき起きたことを話した。死神と名乗る影はいつの間にか居なくなっていた。


殺されんのかな。


怖くて怖くて仕方がなかった。その日、オレは家にひとりきりで、頼れる人がいなくて。

「緑」がいてくれて助かった。

オレは眠った。「緑」がオレの隣で小さく何かを口ずさんでいる気がした。


それから、時々影が現れるようになった。

みんなに言っても信じてくれなくて、オレにしか見えないのかなって不安になって、いつしか病院に入れられて、オレ病気なんだってどこか諦めたようなことを考えながら、でもそうじゃないって思いたくて。

でも間違いなくあいつらは現れる。


死神は時々オレに言った。


「約束、覚えてる?」


オレはその度掌に印をつけ直して、もうなにも感じない程肉が抉れたそれを眺めながら、でもまた現れる死神を怖がって、幻覚だって言われても治んなくて、病院を移動して、でも治んなくて、病院を移動して。


いつの間にか長い時間が経っていた。


毎日のようにオレを訪ねてくる「緑」も高校を卒業して大学生になって、オレの転院生活もやっと落ち着いて、幾分か居心地のいいそこで、オレは変わらず日々を過ごして。


ただただ、オレは、忘れたかった。

そしてそれは成功して、そのうち約束という言葉だけがオレを支配して身体を動かすようになっていた。


病棟に友達もできた。みんなどこかしらのねじが致命的に緩んでいて、空っぽのオレでも過ごしやすかった。決して楽しいわけではなかったけど、随分気が紛れる気がした。

今思えば、みんな何かに縛られていたんだと思う。オレとおんなじだ。


とある日、友達が二人死んだ。自殺だった。オレの主治医が頭を抱えてオレに言った。君は、君だけはって。


その日、死神が現れた。オレはいつも通り怖くて逃げ出そうとしたけど、その日の死神は何かが違った。いつもの奴と違ったのだ。


「代わりに迎えに来た。ごめん、待たせて」


続けてそいつの口元が、やくそく、と声に出さずに言ったように思われた。


「思い出してくれるか?」


忘れようとしていた記憶。忘れていた記憶。

お前らが誰なのか。オレが誰なのか。


ごめん。ごめんなさい。オレは。

記憶の蓋が緩んだような感覚がした。臆病なオレはそれを抑え込もうとするけど、赤っぽい風と黄色っぽい光が小さく首を振って、その必要はないよって、優しくオレの手を包んで笑った。


「三日後。待ってる。今度こそ、約束」


そして風のように消えた。


思ったよりも穏やかに、その蓋は開いた。

なんでこんなこと忘れてたんだろうって、約束が叶うことが保証された今だから思えるのだろうか。それらの記憶はどうしようもなくあったかくて、心地よくて、オレは幸せになった。そして、オレがやることはその時決まったのだ。


そうだ、「緑」。そういやお前も連れてかないとね。


待っている。そう伝えれば来てくれるだろう。あいつはそういう奴だ。オレと同じ。

ひとりにはしないよ。やくそく、だもんな。

「緑」、お前のことも、先行って待ってる。約束。


三日後のこと。深夜、オレは起き出して、知らなかったはずの名前を呼んだ。

ゆらりと現れた影は目の前で人の形に収束して、オレの手にいつものナイフを置いた。そして、今から何をするかをあいつらしい簡潔な言葉で説明してくれて、最後に付け加えるようにこう言った。


「「緑」になんか言うことある?」


オレは頷く。そいつはオレの頭をくしゃりと撫でて、いいよ、と合図した。


オレが目を閉じると、真っ白い空間に「緑」がいた。


きょろきょろと周りを見渡していた「緑」はオレを見つけて名前を呼ぶと、少し息を飲み込んで目を泳がせた。

オレは手を振って、「緑」に叫ぶ。


「オレ、やっとわかったんだ。間違ってたって。」


お前は何も知らなかったんだよな。ごめん。オレが弱かったせいだ。オレは何も知らないふりして、お前に迷惑かけてばっかりだったって、こないだやっと気付いたんだよ。


「先に行って待ってるからオレ。お前のこと。」


「緑」は不安と困惑が入り混じった顔をしてオレの言葉に答える。


「待てって「青」、意味わかんない」


「大丈夫!「赤」がちゃんとやってくれるって、言ってたから!お前のことも、「黄」がなんとかしてくれるよ。」


そろそろ、終わりだ。視界が揺らいでいる。時間がない。


「ごめんな「緑」!後でちゃんと説明するから!」


暗い病室に意識が戻る。手に持ったナイフを視界の端でとらえて、あの日果たせなかった約束を。


「緑」の悲痛な声が聞こえた。


「ほんとごめん」


お前のこと待ってるから。


最後の視界は自らの赤色。

磨りガラスのような意識の中で、黄色が笑う。


「待ってた」


オレはただただ、幸せだった。



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