始まり《ニューゲーム》
「うっ、うーん?うん?どこだここは?」
目がまぶしさを訴え、瞼を開ける。眼下に見えるのは清清しいほどの晴天であり、小鳥のさえずりさえ聞こえる、木下の斜陽のあたるところに仰向けになる形で俺は寝ていた。
「先ほどまで見ていた悪夢とは大違いだ。」と何かを懐かしむようにポツリとつぶやく。
そして、立ち上がり体が動くことを確認し、心臓がある部分に手をやる。
やった、動いているぞ、俺は死んでいない。まあ、厳密に言うと生き返ったぞ。と心の中で歓喜の上げつつ、深呼吸を行い、落ち着いて状況の判断に取り掛かる。
「スー、で、ここはどこだ?そして、いつだ?電車やバスは通ってなさそうだな...」
それに、なぜスーツを着たままなんだ?ご丁寧に退社した日の黒いスーツに赤いネクタイまでしてある。これは、もしかするとタイムスリップして、座標軸がズレとかのなんとかの映画で見たあれなのか?うーん?考えていてもしょうがない。自分の足が動くのだから、ここから移動してここがどこなのかを調べなくてはならないな。山道でも1時間も歩けば、町か村ぐらい見つかるだろうし、その前に人にあうことができるかも知れない。そうときまれば、行動あるのみだ。
ここに来てからはじめて見た大きな木をあとにしあてもなく移動を開始することにした。
そこまでは、よかったものの、本当にここはどこだ?1時間以上歩いても人っ子一人あわないし、ましてや森をぬけることもない。もしかしたら、あの時代じゃないのか?それとも日本ではなく、外国?どこなんだ?
「それにしても何もないところだな。見渡す限り木、木、木!足元は芝生みたいな小さな雑草が生えているだけ!。鳥もちゅんちゅんとぴーちくぱーちく五月蝿!本当にここはどこなんだ?」
誰もいない森の中、一人キョロキョロと挙動不審に辺りを見回しながらボソボソ独り言を呟いて徘徊を続ける。
「本当に誰っもいっまっせんかー!居たら出てきて下さーい!何もしませんよー!怪しいものじゃありませんよー!誰かいませんかー!」と黒いスーツを着た男が回りに呼びかける。
すると、後ろの茂みからガサゴソと音が聞こえた。パッと振り向いて見ると茂みが揺れていることが確認できた。茂みに近づこうと体を捻り、音の方へ歩みを寄せようとしたが、今の状況に気づいてしまった。
何が音を出しているんだ?
人なのか?ウサギなどの小動物なのか?熊みたいな大型の動物か?どれだ?第一、こんな山奥に人間の可能性は低いだろう。じゃあ、小動物か?いやいや、茂みを確認したじゃないか、揺れたのは数秒だったが、あの揺れ方は小動物の大きさ以上だったじゃないか!どうする!どうする!一握の望みにかけ近づくか。いや、やめよう。やめよう。もう死ぬのはこりごりだ!
となればゆっくりと後ろに後ずさりし、気づかれないように逃げるしかない!そうだ、そうしよう。
顔だけは茂みを注視しながら、少し脂汗をかき、体はゆっくりと動きはじめる。
だが、そんな配慮もおかまいなしに茂みの動きからこちらに徐々に近づいてくることがわかる。
やばい!やばい!急ぎながらゆっくりと移動するんだ!だが、どんどん近づいてくる。
心臓が早鐘を打ち、たいした運動もしていないのに汗が吹き出てくる。茂みは音を立てながらこちらに迫ってくる。ガサガサ、サッササーさっきよりも近づいてくるもののスピードが増す。
もう限界だ!そう思い全力疾走の準備に入る。ザザーと大きい音が来る。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
一人で雄たけびを上げ、涙目になりながら走り出す。
「死んでたまるかぁぁぁぁぁ!絶対逃げ切るぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
前しか見ずに脱兎のごとく、走る走る。走る。走る。走る。木を避ける。走る。高速で移動する移動する水色の物体を見る。走る。走る。高速で移動する水色の物体を横目で見る。走る。木を避ける。走る。高速で移動する水色の物体を見る。見る?確認する。もう一度見る。二度見する。
「何だこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!このアメーバ(巨大)みたいなものはなんだぁぁぁぁぁぁ!、こんな生物見たことないぞぉぉぉぉぉぉぉ!」
思わず歩みを止め、ツッコミを入れる。アメーバ(巨大)もびっくりしたのか歩みを止め、こっちを見るしぐさをとる。それにしても、このアメーバ(巨大)?ミカヅキモ?クラゲ(髭なし)みたいな生き物?はなんだ。
近づいてみるか。それに触れる位置まで近づいて行く。そして、右手を出しそれに触れる。
ぷにゅ、イメージどうりぷにゅぷにゅとした触り心地がある。ゼラチンに似ているような、くずきりを触っているような感触である。それでいて、半透明上の水色をしており、動いている。
こいつはなんだ?軟体動物か?こいつが茂みの揺れの正体か?このくずきりおばけがさっきまで茂みを揺らしていた正体?........................?
あまりに多すぎることが起こりすぎたため、頭が今起こったことを受け入れることを拒否した。
「まあ、さっきの茂みの揺れがこいつだったら死にはしないだろう。一安心だ。ふー。」
汗を拭い、当初の目的である散策に戻るとするか。
「じゃっ、くずきりおばけじゃあってイネェー!まあいいや散策に戻るとするよ!」
一人捨て台詞を吐く。後ろを向く。
ボゴォっと鈍い音が聞こえ、目の前の世界が急速に回転する。
そして、二足歩行で棍棒を持った豚が見えた後、自分の体が写り、青空が見えた。
今はの際で理解することができた。くずきりおばけはスライムだ。それを追いかけていたのはオークだ。ゲームで見たことがある。そして、ここは元いた世界じゃない。異世界だ。
そして、俺は死んだ。
ボッ
「…………98…………」
シュッ