卒業検定
「あー ちょっと、オッチャン。起きてくれるかな」
助手席に左手を伸ばして肩の辺りを叩くと、いびきが止まった。
「お? おぉ、どうした」
「この分岐、右で良かったよね」
「んー あぁ、ここは右で良いぞ」
「ゴメン、いま地図見れなくて」
「高速道路走ってるんだから、当たり前だろ」
「もう少しで着くから。休んでて」
「そうだな。しかし、お前の運転で寝られる日が来るとはな」
「一言多いって」
初の単独事故の後、オッチャンの追加補修レッスンを乗り越え、修理から返ってきた銀色のセダンでさらに自主練に励んだ。
そんなオレを待っていた卒業検定。
オッチャンと母を乗せて、一泊二日の温泉旅行。
これに合格したら、晴れて自分の車を持てることになっている。そして、どの車を買うか、オレの心はとっくに決まっていた。
序盤こそ助手席で目を光らせていたオッチャンだが、二日目の帰路ではついにうとうとし始めた。後部座席からも、母の静かな寝息が聞こえてくる。
高速出口の看板を確認したオレは左ウィンカーを点滅させながら、四速へシフトダウン。少し高くなったエンジン音が、静かな車内に反響した。






