ネズミ色にくすんだセダン
都市高速の料金所。助手席の「オッチャン」から渡された千円札で、通行料を払った。
左足はクラッチを奥まで踏み込んだまま。セカンドに入っていたシフトノブをローに送り込むと、手の平にコクッという軽い感触が返ってくる。
アクセルペダルをそっと踏み込んでエンジンの回転数を一千回転強にキープ、奥まで踏み込んだクラッチペダルをスパッと戻して……
ガクンッ。エンストした。
「なにやってるんだ、お前」
「うるさいな。ここ、ちょっと上り坂になってるから……」
「クラッチはな、半分まで戻して、エンジンの音聞きながら丁寧に繋げ。半クラだ、半クラ」
「それくらい知ってるって」
「ホントに免許取れたのか、それで」
「無免でバイク乗り回してた暴走族に言われたくない」
「ほら、後ろの車が待ってる。舐められる運転するなよ」
「だから、焦らすなって」
免許を取ったばかりのオレに、車の走らせ方を教えてやると告げたオッチャン。
教習車はオッチャンがずっと乗ってる、ネズミ色にくすんだセダン。今日のメニューは高速教習だった。
教習所で習った手順を思い出す。
左足でクラッチを切って、右足はブレーキペダルへ。シフトノブをニュートラルに戻して、キーを捻る。セルモーターが作動して、低いエンジン音が戻ってきた。
シフトノブをローに入れて、さっきより少し高めのエンジン回転数でクラッチをミート。
アクセルペダルをグッと踏み込むと、車体をガクガク揺らしながら加速し始めるオッチャンのフォードアセダン。助手席のオッチャンの首もガクガクと揺れている。
上り坂の先にちょうど夏の太陽が輝いていて、眩しいことこの上ない。
「もっと加速しろ。そんなのじゃ、流れに合流出来ないだろ」
サングラス越しにメーターを睨みながら、助手席のオッチャンが不機嫌そうに呟いた。