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七日目

 自分が倒れてからどれくらい経ったのだろうか? 自分の姿を見ている自分に気付いた。

 何故か自分の姿を上から見ている。空中に浮いている。そして見ているだけでなく自由に動き回れていた。自分の体からどれだけでも離れることができそうだったが、離れると戻って来れなくなりそうで怖かった。

「幽体離脱か?」

 ちょっと自分でも苦笑いになりながら自分の姿を見ていた。


 自分の顔には白い布がかけられていた。始めは誰の死体だか分からなかったが、誰かが顔を確認しようと布をめくった時に自分の顔だと確認することが出来た。

 あぁ、死んだのか。

 実感が無い。そういば階段から落ちて随分と頭が痛かったのは覚えている。思い出せるのはそこまでだ。あれからどれだけ日が経ったのだろうか?


 よく思い出せないが、体感的には音楽室に行ってから七日目だ。

 まだそれしか経っていない。

 満足に彼女の演奏を聴くことが出来なかったのが悔やまれる。

 まぁ短い期間でよくあれだけ触れ合えたものだと、そこは自分でも感心してしまう。志村さんはどうしているだろうか? 気にはなったが自分の死に顔を見ているとまだここから離れる気持ちにはならない。


 葬式と呼ばれる儀式、家族が泣いている姿が見える。

「ごめん」

 いくら言っても伝わらない。


 式は淡々と進んでいく。

 一人ひとりが僕の周りに花を置いて行っている。

 花か……、アラベスクを思い出す。

 あれは模様だったな。誰も見ていないのに一人で笑っていた。


 そして自分の体が火葬場へと運ばれていく。

 自分の姿が無くなる。見送る車を見ながら人の一生の儚さを感じていた。不思議な感覚だったが、特に動揺もすることなくただ静かにその光景を見ていることができていた。


 そういえば何か大切なことを忘れているような……、目を閉じて考えてみる。

 思い出せない。なんだったか? 思い出せないのなら大したことでは無いのかもしれない。

 志村さんはどこにいるだろうか?

 ここには姿は見えない。まぁ親族しかいないのだから当然か。

「ありがとう、さようなら……」

 僕は家族に別れを告げて学校の方へ向かった。

 後ろ髪を惹かれる想いはある。ただ自分が燃やされる瞬間というのはやっぱり見たくない。そういう思いもあった。火葬場へ運ばれていく自分を見ると、もうどうしもできないという気持ちがはっきりした。


 学校の方へと移動すると音楽室でうつ伏せになっている彼女を見つけた。

 目を真っ赤に腫らして力なく机にもたれかかっている。

 僕はその隣に座って様子を見ていたが、動く気配は無かった。

 僕のために泣いてくれているのだろうか? さっきまでの光景を思い出しているとそう思えてくるる。彼女の口からは何も発せられないし葬式に来ているわけでは無い。もしかしたら全然違う事で泣いているのかもしれない。

 それでも、彼女のこんな姿は見ていて辛かった。


 ふと、心の中に悪魔が芽生えてきた。

 こんな時に何を考えているのか、不謹慎だな。そう思ったが、不謹慎の元がそう言っても何が不謹慎なんだか分からなくなりそうだ。

 志村さんの泣きっ面は心苦しい。

 頬にキスをした時の顔を真っ赤にして照れていた時のような感情に包まれた顔の方が好きだ。

 どうせ志村さんからは見えていないのだろうかと思い唇にキスをした。


「沢村くん?」


 志村さんの口がそう言った気がしてドキッとする。瞬きをして顔を上げて周りを見渡している。僕は動けずに隣で志村さんの顔を見つめていたが、志村さんからは分からないようだった。

 唇に手当てて何か考え事をしているような仕草をしているのを見るとドキドキした。


 志村さんが席を立ち窓を開けた。爽やかな風が音楽室の中をかけていく。

 風で髪がなびいているのがきれいだった。


「そっちにはいないよ」


 僕はピアノの前に座ってメヌエットを弾く。

 鍵盤を叩けないけれどカラフルな色が周りに溢れているようだった。

 フォニックの魔法がまだ残っているのだろうか?

 あぁ、もっと弾きたかったなという気持ちになる。

 でも、もうお終いだ。

 僕は鍵盤から手を放してピアノの前から離れた。


 志村さんがこちらを見ているような気がする。

 窓際に立ってピアノの方をずっと見つめていた。

「次はボッケリーニのメヌエットね」

 目に涙を浮かべながら笑っていた。

 何も見えていないし聞こえていないだろう。

 それでも何か通じたような気がして胸がぐっとなった。

「ボッケリーニ知らないです」

 そう言って僕は苦笑いをして返事をした。


 志村さんはしばらくピアノの方は見つめていたが、ピアノの前に座り、鍵盤の上に手を置いた。

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