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欲しいもの

 目を開けるとそこは見知らぬ天井があった。

 横を見るとカーテンが掛かっている。

 左腕を動かそうとするとコードが一緒に引っ張られた。

 体を動かそうとするとがとても重い。

 一つずつ確認しているとカーテンが開いて声をかけられた。


「沢村さん、目が覚めましたか?」


 僕はいまいち状況がつかめないまま瞬きを繰り返している。


「聞こえますか?」


 顔を覗き込まれて心配そうな声をかけられる。


「はい」


 僕は朦朧としながらも聞こえてくる声に返事をした。


「良かった。沢村さん、軽い脳梗塞で運ばれてきたんですよ。でももう大丈夫ですからね」


 あぁそうだったのか、頭の痛み、もやもやとした感じもそういう事だったのかと不可解な記憶のピースが繋がっていく。しばらく天井を見つめたまま考え事をしていた。

 今はいったい何時なのだろうか?

 動かない首を少しだけ傾けるとサイドテーブルに置かれた時計を見ることが出来た。


 朝6時20分……。もう次の日になってしまったのか。どれだけ眠っていただろうか?

 あぁ、そういえば志村さんはどうしただろうか? 目の前でピアノを弾いてくれていて、僕はうとうととしてきて、その後立ち上がった時に倒れてしまった気がする。

 という事は、志村さんが救急車を呼んでくれたのだろうか?


 少ししたらお医者さんが来て病状や今の気分はどうかなど話をした。看護士さんも隣に付き添っていてメモを取っている。この後の薬や点滴のことなどを言っているが、しっかりとは頭の中に入ってこない。

 促されるままに頷いたり「はい」と「いいえ」の返事を繰り返していた。

 症状は軽いという話が聞こえていたのは覚えている。こんな朦朧としているのに症状は軽いのかと感じる。すぐに良くなるという事なのか? 考えることは出来るがうまく考えが整理できない。ゆっくりと処理していかないとすぐに忘れてしまいそうだ。


 そして考えれば考えるほど眠気が強くなってくる。

 僕は目を閉じる。頭の中で何か考えを巡らせる時間を感じないくらいのスピードで意識が飛んでいった。



 僕ははっとして、上半身を起こした。

 隣を見ると志村さんが椅子に座って本を読んでいた。

 前髪が下に垂れると髪をかき上げる仕草が志村さんの可愛さを引き立てている。


「気づいた?」


 僕の眼が開いていることに気づいたのか、心配そうに顔を覗き込んできた。


「志村さんが運んでくれたの?」

「運んだというより救急車を呼んで運んでもらったの方が正しいかしら。ほんとびっくりしたわ。急に音楽室で倒れて……」


 志村さんは僕の眼が開いて喋ったのを確認すると「ほっ」と息をついて安心したようだった。


「ありがとう。志村さんは命の恩人だね」


 僕は志村さんに礼を言う。

 もし一人の時に倒れていたら……。どうなっていただろうかと思うとゾッとする。


「何か欲しいものはある?」


 志村さんが聴いてくる。

 別に志村さんが悪い事をしたわけじゃないのに。申し訳なさそうな声。

 病人には優しくという決まりをしっかり守っているような優しさも併せ持っている。

 僕は申し訳なく思ったが少し厚意に甘えさせてもらおうと思った。


「志村さんのピアノが聞きたいな」

「ここじゃピアノは弾けないわね。他にはないの?」


 志村さんはちょっと困った顔をして言った。


「そうだな……」


 僕は志村さんの後ろにリンゴが置いてあるのを見つけた。

 親が置いてくれたのだろうか?


「リングが食べたい」


 そう伝えると志村さんはにっこり笑って、

「ちょっと待ってて」

 と言ってリンゴを持って外へ出ていった。


 僕はその姿を見送った後に急に眠気に襲われた。

 あとちょっとでリンゴが……と思って堪えようとするが体はいう事を聞いてくれない。僕はリンゴを切り終わるのを待ちきれずに眠りについていった。

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