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いいお父さん

 朝、頭痛と共に目が覚める。昨日の夜より頭が痛みが酷くなったような気がする。

 今日は一日休んでいた方がいいんじゃないか? そんな考えが頭をよぎる。

 それでも志村さんに会いたい、志村さんの弾くピアノが聴きたいという想いが強かった。

 僕は痛みをこらえてしかめっ面になりながらも薬箱に入っていた頭痛薬を飲んで家を出た。


 学校に行く道を歩きながら、昨日の事は夢だったんじゃないか? 頭の痛みを抱えているとそんな風に思える。現実と妄想の境界線が曖昧になっている。夢で見た内容なのに本当に合った事のように感じてしまっているだけなのでは?

 夢で見た話なのにそれを現実にあった事のように話をしたら相手は「?」という顔になるだろう。まして内容が昨日のような内容だと、とんだ妄想野郎だと軽蔑されるだろう。志村さんにそんな風に思われたくはない。

 昨日、本当は志村さんとちゃんと話ができてなかったんじゃないか? 本当に志村さんからキスしてもらったのか? そもそもキスしたことも妄想だったのではないか? いろいろ考えが堂々巡りしている。

 しかし頭が痛い。もし全てが妄想だったとしたらこの頭の痛みもただのもうそうであって欲しいと願う。記憶に頼っている限り、僕には本物と偽物の区別がつけられなかった。


 放課後、音楽室へと向かっていく。

 志村さんはもういるかな? 志村さんの方が早く来ている時の方が多い。僕は放課後すぐに向かっているのに、なんで彼女の方が早いのだろうか?

 学年が違うと終わる時間が違うのか? 距離が違うのか? 今日はどうなのだろうか? 窓から見えなくても音楽準備室にいるのかもしれない。窓から覗いて確認するような無粋なことはもうやめよう。僕は頭の中がふわふわになりつつも、音楽室の扉を開けて中へ入った。


「こんにちは、調子はどう?」


 志村さんが出迎えてくれた。

 あぁ、今日も志村さんの方が来るの早かったんだ。

 いろいろ考えていた割にはあっさりとしたお出迎えに僕はほっとする。


「ん~、大丈夫ですけど、絶好調では無いですね……」


 後ろめたい気持ちで話をするのは気持ちは良くない。

 僕は心配させないように、嘘をつかないように返事をする。


「大丈夫? 家で寝てた方がいいんじゃないの?」

「大丈夫です、お茶淹れますね」

「ありがとう、無理はしないでね」


 棚を見ると昨日買ったマグカップが置いてある。それを見て、昨日の事は夢じゃなかったんだと心の中で確認する。そればこの頭の痛みも僕の妄想では無くて本物という事も意味していた。今はまだ頭痛薬が抑えてくれている。しかめっ面にはなっていないはずだ。


 マグカップを取り出しお茶を注ぐ。

 テーブルに2つ並べて置く。彼女に選んでもらったマグカップというだけでお茶が美味しく感じてしまう。そしてそのマグカップを持ちながら彼女のピアノを聞いている。こうして放課後に音楽室にやってきて志村さんのピアノを聴いている。自分の行動もさながら僕の気持ちは志村さん中心に動いているだなぁと自覚する。

 志村さんが指の練習を終えるとこちらを振り向いた。

 

「何か聞きたい曲はある?」


 リクエストを聞かれたので


「志村さんの好きな曲ならなんでも」


 と、答えた。


「そういうのが一番困るんだよなぁ、そんなだと沢村くんいいお父さんにはなれないよ」


 僕は苦笑いをした。そう言われても知っている曲なんてほとんどないし、どうしたものか?

 そして「お父さん」という単語にピクリと反応してしまう。自分の将来、お父さんと呼ばれる人に慣れるだろうか? その時に隣にいる人は誰なのだろう? 僕は彼女の姿を隣に立っている「お母さん」と呼ばれる人と重ねてみる。ふっくらとした滑らかな肌と細い体に小さい子が手を握っている……。って何を考えているんだか。身近な人で想像するのは危険だ。

 曲だよ、曲。気持ちを取り直して考える。あぁ、良い曲があった。初めて会った時に志村さんが弾いていた曲。彼女が作った曲をもう一度聞きたいと思った。


「そしたら、志村さんが作った曲をもう一度聴きたいですね」

「えっ、それは恥ずかしいなぁ」


 彼女は僕のリクエストが意外だったのかちょっと苦い顔になっている。


「自分で聞きたい曲って聞いてきたんじゃないですか」


 僕はちょっと意地悪っぽくいう。


「やっぱりいいお父さんにはなれないね」


 彼女は唇をアヒルみたいに尖ららせてすねて見せていた。

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