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追い出されて

 志村さんが音楽準備室から持ってきたほうきを使って割ったマグカップを掃いている。

 僕が集めた破片を塵取りで受け取る。

 大きな破片は手で掴んで塵取りに淹れようとしたが

「危ないよ」

 と、少し大げさに注意されてしまったので僕は志村さんが破片を集めるのを待っている。


 何かしていないと落ち着かない空気だったが、何かしないといけない事案を起こしてしまった。

 でも物を壊してしまった罪悪感と、若干何かが起きてくれないかと願っていたことが後ろめたい。


「割っちゃったね。」


 志村さんが塵取りに入ったマグカップを見て言った。


「お茶飲めないですね」

「そうだね」


 そう言ってまたお互いの眼を見ていた。

 お互いに見つめるとなんだか複雑な気持ちになっていく。昨日の事を誤らないとという気持ちが残っていて、片付けをしながらも機会を伺っていた。

 集めた破片はビニール袋に入れて口を固く結ぶ。


「あの、昨日…」

「お茶が飲めないからマグカップ用意しないとね」


 僕が喋ろうととすると、志村さんは僕の言葉を遮った。

 その言葉を遮って話をするべきなのだろうか? 頭の中をぐるぐると思考を巡らせていくが、大した知恵も無く堂々巡りを繰り返す。僕はただ彼女の言葉に乗っかるしかできなかった。


「そうですね、どうしましょうか?」

「買ってきます、今から」


 今から? ただ外に出て僕と離れたいという事なのだろうか? それとも一緒に行くと誘ってくれたりしていないだろうか? と僕は微かに光る希望を勝手に願う。


「今からですか?」

「そう、今から」


 彼女は支度をして今にも教室を出ようとする。

 これは一人で行くというアピールなのだろうか……。微かに光る希望は敢え無く握る潰された。


「いや、僕がいきますよ」


 そう、希望が無くなったからと言って志村さんはピアノを弾くためにここに来ている。マグカップなんかを買いに行くのは僕の役割なんだ。彼女にはピアノを弾いていて欲しい。

 そういって今度は彼女の行動を僕が遮った。


「いや、私がマグカップ落としたのがいけないのだし、私が買ってくるよ」

「いえ、そんなピアノ教えてもらったりしてお世話になっていますし、自分のマグカップ買ってもらうなんて悪いです。」

「気にしないで大丈夫、私が好きで教えただけだから」

「気にしますって」


 志村さんは譲ろうとしない。

 どうしてそんなに頑ななのだろうか? 彼女の気持ちが分からない。自分がどうしたらいいか分からない。それでも志村さんに買いに行かせてはいけない気がする。僕のいつ目覚めたのか分からない第6感がそう囁いていた。


「あの~、二人で買ってきたら~?見ていてこっちが落ち着かないよ」


 フォニックがいつもの流し目でこちらを見ていた。

 今日は一段と冷たい気がする。


「いたんだ」

「いたよ! もう、さっさと二人で行く。二人で買ってくるまで二人とも音楽室入ったらだめだからね!」

 

 フォニックは怒るように僕体二人の背中を無理やり押して音楽室の入口へ導いていく。

 僕も志村さんも戸惑い、導かれるがままに音楽室から追い出された。

 

「追い出されちゃったね」

「そうですね」


 僕と志村さんはお互いに顔を見合わせてちょっと反省していた。

 どうしてだろうか? こんなにも志村さんを音楽室の中へ留めておこうとしたのに一緒に外に出ている。はじめは一緒に買い物なんて淡い期待もしたが、それが本当になってしまった。


「いこっか」


 僕と志村さんは音楽室の前で少しぼーっとしていたが、志村さんの一言で再び時が動き出す。


「はい、どこにいきますか?」

「とりあえず、駅前の雑貨屋さんでいいんじゃないかな」

「そうですね」


 他に思い当たる良い場所は思いつかない。わざわざ電車を乗り継いで連れ出すことも無いだろう。駅前の雑貨屋というのは妥当な線だと思う。そこまで彼女が考えているかは分からないが、否定する理由は見当たらなかった。

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