僕は死んだ
僕は死んだ。
なぜ死んだかは覚えていない。
ただ死ぬには安らかな死を望んでいたと思う。
でも死ぬには早すぎだ。
苦節何年というような時を過ごしてもいないし、何かをやり遂げたような達成感に浸った記憶も無い。
今までやって来た事を振り返ってみる。何かから逃げ出して死ぬという事でも無いはずだ。
何故死ぬのだろうか? という疑問もあったが、同時に思い残すようなことも無かったか? と考えていた。
「やり残したこと」あっただろうか?
やったことのない事、中途半端な事、もう一度やりったかった事、過去の後悔、記憶の引き出しを片っ端から開けて探していく。
捨てておいた方が良いものがあっただろうか?
恥ずかしい記憶。残されたら困るであろう物品達はどうだっただろうか?
そう言えば今日は何の日だっただろうか?
毎朝聴いているラジオで聞いていた。
体の体温が下がってゆくのが分かる。
寒気のようなゾクゾクとした感覚が体を襲う。
痛みがあるのだろうか、意識していないだけなのか、この意識はいつまであるのだろうか?
自分は泣き叫んだりはしないのだろうか?
何故死ぬことが分かるのだろうか?
体中の血液が体を巡っている。
心臓の鼓動、手首の脈。はっきりと感じ取れないが全身を流れている脈動は感じる。
それならば僕はまだ生きている。
死んではいない、そんな感じがする。
今、この瞬間に生の終わりを感じるには違和感を覚える。
しかし本能のようなものなのだろうか? これから自分が死ぬ状況にあることは頭の中でいくら否定しても消されることはなかった。
自分以外の感覚が何も分からない。
いろいろな疑問が残っている。
まだ目は開けられるのだろうか?
真っ暗な闇が前に見えているだけなのか?
何も聞こえないのか?
頭の中で知っている曲が流れているだけだろうか?
雑音が鳴っているのか?
世界の終わりを知らせるラッパが鳴っているのか?
傍に誰かいるのだろうか?
人知れず死んでいくのだろうか?
こんな時、何を考えればよいのだろうか?
テレビや映画で見るような水に身体が浮かんでいるようなそういうものなのだろうか?
三途の川は見えないのか?
走馬灯と呼ばれるような思い出は見えないのだろうか?
天国へ行くのか? 地獄へ行くのか? 極楽浄土というのだろうか?
本能で死を感じている。
しかし自分はただ気を失っただけという事は無いのか?
夢を見ているのだけではないのか?
眠りにつこうとして思考が曖昧になっているだけではないのだろうか?
胸が苦しいような気がする。
何が引っ掛かっているのだろうか?
息がだんだん荒くなる。
死の経験はない。
誰しも一生で一度しか経験することはできない。
ただ様々な思考をいくら巡っていっても明白になることは無かった。
眠りにつくように、深く目を閉じたまま考える力を失っていく。
そんな中で最後に一つ思った。
生まれ変わるという事があるのだろうか?