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サイコ

作者: 十一六

教室が真っ赤に染まっていた。僕が学校に遅刻して、慌てて2年A組の教室の扉を開けたときのことだった。


「……なんだ、これ」


教室の中を見回す。目に入るのは、真っ赤な机、真っ赤な黒板、真っ赤な窓と真っ赤に染まった人間たちだ。暫く思考が停止して、僕はようやく事態を認識した。


「……血?……これ、死んでるの? えっ……なんなの? あれ……雄太……雄太!!」


僕の親友の雄太が、全身を赤に染めて倒れていた。もはや、どこから出血しているのかも把握できないほど雄太は血塗られており、見覚えのある顔の形と髪型でかろうじて雄太だとわかった。


「けいさつ……。警察!連絡しないと!携帯!」


僕は慌てて背負ったリュックを下ろし、チャックを開けて携帯電話を取り出そうとする。何も考えられなかった。雄太が生きているかとか、原因は何なのかとかそんなことは一切考えられなかった。震える手で携帯を取り出して、番号を入力し電話をかけようとしたその時、不気味な声が僕の前方から聞こえた。


「あー。どーも……。まだいたのか。いや、予想外。あ……君、さては遅刻してきたね。道理で席が1つ開いてたわけだ。なるほどねー。それにしても、運が悪い。うーん。残念だったね」


僕と同じ制服を来た男が、周囲の景観を乱すことなく赤色で教卓の前に立っていた。


「何言ってんだよ! 何があったの……ここで何があったのさ!? いや、そんなことより警察だ! 警察に連絡しなきゃ!」


「そんなことはどうでもいいよ」


赤い男が右手を前に出すと、僕が手に持った携帯が軋みをあげながら捻り折れた。


「うあああ!……なんだ。あれ?……もうなんなんだよ!!」


「もうなんなんだよ。じゃあないよ。警察なんて連絡しなくていい。そんなのはもっと後でいいんだ。てか、しなくていいよ。しなくてもいずれは気付くんだから。そんなことより、俺の話を聞いてくれよ。もうっ、誰も聞いてくれないんだもんなー」


赤い男はそう言って、少し拗ねた態度を見せた。僕は、警察への連絡手段が絶たれたことと、彼がおそらくやって見せた恐ろしい力にただただ震えるだけだった。


「聞いてくれる、俺の話?」


赤い男が不敵な笑みを僕に向ける。僕は抵抗などできるはずもなく、ただゆっくりと首を縦に振る。


「ありがとう。まず自己紹介からなんだけど、俺はこの学校のこのクラスの生徒の唐川って言うんだ」


「唐川……」


知らない名前だった。僕はこんなやつの顔を、唐川の顔なんて、クラスでなんか見たことがなかった。


「まあ、一年生のときから不登校だったから、君が俺を知らないのも無理ないよ。ほら、いっつも休んでる奴いただろ? 休みすぎて出席とるとき名前すら呼ばれないやつ。それが俺」


唐川。そういえば一度だけ名簿で見たことがあったかもしれない。でも、何も気にならなかった。いつも席が一つだけぽっかりと開いていたけれど、クラスの全員がその話題に触れることなく、当たり前のように日常を過ごしていたから……。


「大丈夫だよ」


僕が唐川を警戒しつつ、雄太の容態を気にしていると、唐川が不気味な笑顔でそう言った。僕は何が大丈夫なのか全く理解出来なかったが、唐川にその意味を聞くのはやめておいた。

唐川は、学校の先生のように真っ赤な黒板の前をゆっくり往復し始めると、笑顔を崩すことなく、語りだした。


「ひーどいよなー。あんまりだよ。俺はね、別に学校に来たくなかったわけじゃないんだ。ただ一年生のときに同じクラスの奴に苛められちゃってさ……。原因は、苛められてた人を俺が助けたから。そこまでならわからなくもないんだけど、いつの間にか助けてあげた奴も参戦しちゃって、そいつ主犯核みたいになってんの。なんだか俺が物凄い悪い奴みたいになっちゃっててさ。あっ、俺、昔はもっと正義感があってもっと真面目そうなしゃべり方してたんだよ。普通の奴だったんだよー。でも、そんなの関係なかった。あいつらは俺を寄ってたかって苛めだした。もちろん、なんで俺が苛められるんだ、ふざけんなって感じで、精一杯反抗したよ。けど……止まらなかった。みんなが苛めるんだよ。みんなが……。おかしくないか?普通苛めない、傍観者の奴いるよね。でも……いなかった。クラス全員で俺を袋叩きにしやがった。ベタなんだけどさ。教科書に落書きは当たり前、机の中にカミソリ、上履きに押しピン、暇があれば腹殴ってくるし、金もアホほど脅しとられた。もうね。そりゃやめるよ。学校行くの。先生に言ってもさ、あいつら上手くやるんだよー。絶対ばれないように、ぎりぎりで見つからないように、みんなで隠すんだ……。先生ね、俺がクラスの人気者だって勘違いしてたみたい。ほんと、やんなっちゃうよ。まあ、そんなこんなで当然不登校になったんだけど。俺、ちょっと気になってたことがあったんだ。俺が行かなくなったら、次は誰が苛められるんだろうってさ。正直ワクワクしてた。だって、俺をボコボコにしてた内の誰かが、今度は苛められるんだぜ。だから、ちょいちょい、クラスの奴のブログとか、学校の裏掲示板とか見て楽しみにしてたんだよー。……でもさ、だけどさ!……そんな日は一度も来なかった……。何でだと思う?……あいつら、待ってんだよ。俺が戻ってくるのをずっと、ずっと待ってたんだよ!もちろん、誤りたいからとかじゃないよ。俺がいないとこでも、俺をひたすら中傷して、俺が学校に来るまでの間、意味不明な一致団結をして俺が帰ってくるのを待ってんたんだ。俺、怖くなっちゃってさ。それから一年くらい学校行けなくなったんだ……。そして、決定的な出来事がおこった。一年生最後の月になって、俺、久しぶりにクラスの奴のブログを見たんだ。そしたら、あいつら本当に仲良くなっちゃってて、いつの間にか人が変わってた。それで、俺のことなんか完全に忘れた顔して、一年間で最高のクラスになりました、なんて笑顔で集合写真撮ってやがった。なあ、おかしくないか?苛めして仲良くなったんだぜ、あいつら……。俺はさ、悔しくてさ、たまたま相談に乗ってくれる人がいたからその人に相談したんだ。そしたらその人が、おかしいって、そいつらに間違ってることを教えなきゃいけないって泣きながら言ってくれたんだよ。それで、この力を使えって、これをもらった。で、久しぶりに学校に来たんだけど、2年だから、クラス変わってんだよね。いろんなとこ回っちゃったよ。はっはっ……あっそうだった。安心してくれよ。やったのは、俺が一年のときのクラスの奴だけさ。他は気絶させただけだから。真っ赤なのは、血が大分飛び散ったから、それでだ。だから、そこの雄太君もいずれ気がつくと思うよ」


唐川は、すごく満足した表情で僕にやさしく微笑んだ。そして、大きく息を吸ったかとおもうと天井に向かって大声で叫ぶ。


「ああーーーっ。スッッッキリしたーーーーー。ありがとう。最後まで話を聞いてくれて。じゃあ俺は行くよ!」


そう言って唐川は僕の横を通りすぎて教室を出ていった。僕は何も出来なかった。ただ彼の話を聞いて、彼を少し可哀想だと思い、彼のした行為にも理由があったのだと変な安心感だけを抱いた。


その後、気絶していたみんなが目覚めるとともに、学校は大パニックになった。警察がすぐに駆けつけ、翌朝にはテレビ、新聞が謎の大量殺戮事件として大々的に取り扱った。42名の死者を出したこの大事件の犯人は、いまだに見つかっておらず、殺害方法も犯人の手掛かりも何一つわかっていないらしかった。

結果的に、僕が警察の事情聴取を受けることはなかった。僕は、みんなと同じように気絶して起きたふりをして、警察官の目を誤魔化したんだ。たぶんだけど、僕は今後も犯人を目撃したことを誰にも言わない。なぜなら、唐川の力の説明をしたところで誰も信じてはくれないだろうし、この不思議な力の存在を知っていると周りに知れたら僕の身が危なそうだからだ。唐川は力を誰かにもらったと言っていた。つまり、唐川以外にもああいう力を使える能力者がいるということだ。だから僕は力のことは心のうちに伏せておく。そして、もし自分が何か絶対に超えられない壁にぶつかったとき、僕は力を探し求めることにしようと思う。

押し入れにしまってある、唐川を使って。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 唐川のセリフにどんどん引き込まれました! この作品は、スティーヴン・キングの『キャリー』(主人公が不思議な念動能力(テレキネシス)を持って、苛められた主人公がクラス全員に対して復讐する)の…
2017/05/22 17:50 退会済み
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