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除染沿線  作者: ゆずさくら
5/16

(5)

 腹がテーブルに食い込んで痛かった。

「逆の立場なら、その言葉を信じられたのかよ」

「……そうだな」

 急に手を離したせいで、勢い余って席の仕切りに頭をぶつけた。

 男は急に自身のスマフォを触り始めた。

 相手が話し始めるかと思って、ずっと待っていた。

 こっちもスマフォを取り出して、何か見ようかと思った頃、男が言った。

佐古田(さこた)

 そうだ、こっちだけ一方的に名前を知られている。

「……不公平だな。名前を教えろ」

「メッセージアプリに出てるだろう?」

「あんなの読めない」

「あれは、エンダーって書いてあるんだ」

「だとしたら、ここでは言えない。何か普通の名前を教えろ」

 痛い奴と関わると自分まで痛いと思われてしまう、私は呼び方にこだわった。

「仮名だぞ。あくまで仮名…… 宮田」

「宮田、さっきから何でスマフォを見ていた」

「今からそれを話すところだったのに、変な名前のことにこだわるからだ」

「じゃあ、そっちの話しを進めろ」

「そう、スマフォでこのメッセージアプリを眺めていると、鷺沼を死なせた『モノ』の目撃が投稿される。今からそこに移動してお前にみせてやる」

「死なせた『モノ』?」

「さっきみせた模様のようなものだよ。実際に見れるなら、説明するより理解が早いだろう」

「本当にみれるのか?」

 宮田はうなずいた。

「行こう」

 半分ぐらい残っていた残りのコーヒーを一気に飲み干した。

 まだ金が掛かるのか、と少し思った。

 都心方向への電車に乗り、乗り換えで駅からでてシャッターが閉められた地下の商店街を抜けた。ものすごい腐臭が時折ながれてきて、私は思わず鼻をつまんだ。

 地下鉄の駅の方へ曲がる角から、酔っぱらいがふらっと現れた。

「クロサングラスなんかして、見えんのか」

 宮田の肩がピクッと動いた。

 地下鉄駅の方に曲がって、酔っぱらいの姿が見えなくなった途端、大声で叫んだ。

「うるせぇっ、ばーーか」

 笑いそうになったが、さっきの喫茶店で首を締められている為、見られないように口元を抑えた。

「で、どこまで行くんだ」

「さっきの目撃情報と結ぶと、次はxx町だと思うんだ。路線と方向から考えれば間違いない」

 xx町の駅まで行くとなると…… 気が滅入って行きた。時間がかかりすぎる。

「大丈夫、もしかしたら途中駅で情報が入るかもしれんからな」

 地下鉄に乗って椅子に座った。

 宮田からそのメッセージアプリでの検索方法を聞いた。

 どうやらメッセージとともに写真を載せているその写真で一致するものを探すらしい。私も写真をもらい、同じように検索をかけた。

 結果を表示して一枚一枚投稿した写真を見てみる。どれもこれも地下鉄の駅が映し出されているばかりで、言うような模様ーーカビの写真は見つからない。

 同じような画像を見ているはずなのに、宮田とは結果が違う。

「そんな写真の結果は出てこないぞ」

「佐古田、これはある程度経験と勘をようする」

 宮田は自身のスマフォを見せた。

「例えば、この写真。ただホームを地下鉄のホームを撮ったもののように見える」

「ああ」

「しかし、写真編集をしてコントラストを変えると……」

 スマフォのアプリ側で何か濃淡や色をいじっていると、模様が浮かび上がった。なんとなく、さっきのカビのようなものと同じに見える。

「そ、そんなの変だろ?」

「画像検索で一致するのは、この目に見えないが、検索アプリでこの模様の一致を検出しているからに他ならない。だからこうやってあぶりだしているだけだ。カビに見えるように加工をしているわけではない!」

 車両内の何人かがこっちを睨んだ。

 車内は静かだったし、ウトウトと寝ている人も多かった。そうでなくともヒステリックな大声は、人の気をひく。

「(おい、宮田。声が大きい)」

「お前が疑うからだ」

「すまん」

「もしかして、お前も……」

「なんだ?」

「鷺沼の死は、お前が原因じゃないかってことさ」

 鷺沼を殺害したとでもいうのだろうか。

 そんなことはありえない。

 鷺沼が自殺した、その後の時刻につく電車に乗っていたのだ。だから会社に着くのが遅れ、そこで鷺沼の死を知った。俺が殺せる訳がない。

「まあ、いい。後でちょっと試させてもらう」

「?」

「そろそろ乗り換えの駅だ」




 乗り換えてしばらくすると、宮田が言った。

 宮田というのは相手が告げた仮名で、本当に宮田なのかどうかは、実は今もはっきりしていない。

「次で降りるぞ」

「もう二つ先じゃないのか?」

「状況が変わった」

 もう時刻は十二時を過ぎていた。

 そろそろ帰りの路線を検索しないと、家に戻れない。そういう意味ではこのあたりで決着が着けばそれにこしたことはない。

「わかった」

 地下鉄の駅に降りると、宮田はそのままホームの端まで歩いていった。

 この駅に降りたのは二人だけだったようで、見失うこともないので、ゆっくりと後を追った。

「はやくこい」

 電車が抜けていった方の闇を見つめながら、宮田が手招きする。

 小走りで追いつくと、宮田は線路方を指差した。

「見えるか?」

 サングラスをしているこいつの頭を疑った。

「宮田は見えるのか?」

「あそこの、赤い光の辺りだ」

 確かに赤い光がゆらゆらと動いている。だが、それは信号機の灯りが、溝の水たまりにでも反射しているのではないか。そう思えた。

「赤い光が不自然に揺れている?」

「違う!」

 宮田はサングラスを外して、怒りをあらわにした。

「これをかけてみろ」

 宮田のサングラスを渡された。

 グラグラしていたが、それをつけてその暗がりの方を見た。何も見えない。サングラスの汚れのようなものだけが気にかかる。

「何も見えない」

「光が見えないか?」

「光? 何色の?」

「黄緑色の、蛍光」

 じっと見るが、見えない。

 ふと気づくと、大きなサングラスの端には、ホーム側の光が写り込んだり、そういった後ろからの反射光が多いことに気付いた。

 私は後ろを指さして、言った。

「あれの写り込みをみてるんじゃないのか?」

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