(13)
言いたいことは、そういうことじゃない。
水沢さんは何か隠している。
「そうだ。俺の言いたいことも違う。いいか、良く聞け、これは水沢さんから聞いたこの自殺の連鎖のことだ。どうやら、エアコンが関係しているんだ」
「エアコン?」
「お前は液体生物だと言った。それはどうやらエアコンから出てくるもののようだ」
本当にそういうことを言いたいのか?
騙されていないだろうか。
「お前が聞いていた、びちゃびちゃという音。エアコンから出ているんだよ。部屋のエアコンでもそういう液体生物が出てくることがある。浴びれば大変なことになる……」
「?」
宮田の様子がおかしかった。
急にうなだれて、声がかすれた。
「どうした?」
「す、すまん……」
どうやら宮田は泣いているのだ。
「何故泣く?」
「いや、何でもないんだ」
なんでもないわけないだろう。何かを隠している。
「ちょっとトイレに行こう」
「……」
「お前も来い」
「なんでだ」
「(みせたいものがある)」
急に顔を寄せ、小声で言った。
水沢さんとヤッたお前のモノを見せるとでも言うのか。私は宮田の言葉を無視した。
「(さっき言ったろう)」
「見たくない」
「こっちが命をかけて伝えようとしているのに」
「?」
宮田に腕を引っ張られ、立ち上がった。
「何があったんだ?」
「これから見せる。見ればわかる」
二人でトイレに入った。宮田はトイレの真ん中小便器のところに立った。
「お前は誰かが入ってこないように入り口を抑えてくれ」
「ああ……」
ドアに背中を預けて入ってこれないようにした。宮田は上着を脱ぎ始めた。
「何を始める?」
「いいから見ればわかる」
異様に白い肌に、濃い胸毛が生えていて正直あまり見ていたくない姿だった。
「佐古田、いいぞ、灯りを消せ」
「……」
「俺とお前しかいない。消しても大丈夫だ。いいから消せ」
言われるまま、近くにあったスイッチを切った。
パッと暗くなったところに、宮田の体から蛍光が発せられ、その蛍光が模様のように浮かんだ。
「!」
「灯りをつけろ!」
私は宮田の体を見るばかりで、スイッチを探しあてられなかった。ようやくスイッチを入れた時には、宮田は服を着始めていた。
「(なんだよ今の)」
「(発光だよ。液体生物に侵された者の症状だ)」
「エアコンって、そこまで判ってて……」
「この季節…… 判っててもエアコンはつけるだろ?」
うなずいて答えた。
「エアコンつけたまま、うっかり寝てしまった。その時かららしい」
「……らしいって、本当はいつからか分からないのか?」
今度は宮田がうなずいて答えた。
「液体生物がどうやって俺に入り込んだかまでは分からない。けれど入り込んだらこうなることは分かっている。鷺沼も、鷺沼の母も同じ。そして俺も……」
「自殺するとでもいうのか?」
ドンドン、と背中の扉がノックされた。
「早くしてくれ」
トイレの外から声がする。個室形式のトイレだと思っているようだ。
宮田はそっと小さい声で言った。
「もう、ここを出よう」
そして二人でカフェを出るなり、宮田は言った。
「地下鉄の事件って何だったんだ?」
「知らないが、目の前で液体をまいたやつは、『除染だ、消毒だ』と叫んでいたよ」
宮田は黙っていた。
「ただ床に液体をまいてどうなるわけでもないのに」
宮田は立ち止まった。
「俺は『除染』とか叫んだというやつの気持ちがわかる」
「どういうことだ?」
「俺と同じ気持ちってことさ」
「だから、どういう……」
細い目で、キッと睨みつけると、いきなりまくしたてた。
「電車に飛び込むような奇怪な自殺者が、殆どこの液体生物のせいだとしたら、駅のエアコンから電車のエアコンまで、隈なく除染したいという気持ちは分かるって言っているんだ」
言葉は尽きない。
「電車にしろそこら辺のビルのエアコンにしろ、びちょびちょと変な音を立てて、液体生物が行ったり来たりする音をかき消している。のを手助けしている」
急に背中を丸めて、うなだれた。
「早く除染しないと大変なことになる」
「感染しない方法はないのか?」
「知るか」
と、ぼそっと言った後、こっちを向いてニヤリ、と笑った。
「エアコンをつけないことかな?」
電車やビルのエアコンであればつけない、という選択は出来ない。それがイヤなら自分の部屋に引きこもってろとでも言いたげだ。
「じゃあな。生きてたらまた会おう」
会話がいちいち痛いし、そのせいでこいつが真剣ではないのかと思ってしまう。
「ちょっとまて、お前、その、水沢さんとどこまで……」
宮田は細い目を更に細くした。
「怒ったのか?」
ニヤリと笑った。
「ご想像におまかせするよ」
「……」
こいつに聞く質問ではなかった、と後悔した。
宮田と別れ、精神科の医院へ歩いて向かった。
カウンセリングを受け、先生に会社に受診を伝える書面を書いてもらった。その書面は本社に送らねばならなかったが、近くにいるから届けてしまおうと思った。
連絡をして本社に向かった。
地下鉄の駅に降りると、地下鉄はまだ混乱していた。
事件のあった駅には止まらないとアナウンスがあった。それと運転本数を大幅に減らしている、とのことだった。
私は駅員に状況を聞いた。
「車両は止めたまま検査が続いています。その為、下り側車線を使って単線運転しています」
「下り車線側が使えるなら駅に止まってもいいのでは?」




