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除染沿線  作者: ゆずさくら


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13/16

(13)

 言いたいことは、そういうことじゃない。

 水沢さんは何か隠している。

「そうだ。俺の言いたいことも違う。いいか、良く聞け、これは水沢さんから聞いたこの自殺の連鎖のことだ。どうやら、エアコンが関係しているんだ」

「エアコン?」

「お前は液体生物だと言った。それはどうやらエアコンから出てくるもののようだ」

 本当にそういうことを言いたいのか?

 騙されていないだろうか。

「お前が聞いていた、びちゃびちゃという音。エアコンから出ているんだよ。部屋のエアコンでもそういう液体生物が出てくることがある。浴びれば大変なことになる……」

「?」

 宮田の様子がおかしかった。

 急にうなだれて、声がかすれた。

「どうした?」

「す、すまん……」

 どうやら宮田は泣いているのだ。

「何故泣く?」

「いや、何でもないんだ」

 なんでもないわけないだろう。何かを隠している。

「ちょっとトイレに行こう」

「……」

「お前も来い」

「なんでだ」

「(みせたいものがある)」

 急に顔を寄せ、小声で言った。

 水沢さんとヤッたお前のモノを見せるとでも言うのか。私は宮田の言葉を無視した。

「(さっき言ったろう)」

「見たくない」

「こっちが命をかけて伝えようとしているのに」

「?」

 宮田に腕を引っ張られ、立ち上がった。

「何があったんだ?」

「これから見せる。見ればわかる」

 二人でトイレに入った。宮田はトイレの真ん中小便器のところに立った。

「お前は誰かが入ってこないように入り口を抑えてくれ」

「ああ……」

 ドアに背中を預けて入ってこれないようにした。宮田は上着を脱ぎ始めた。

「何を始める?」

「いいから見ればわかる」

 異様に白い肌に、濃い胸毛が生えていて正直あまり見ていたくない姿だった。

「佐古田、いいぞ、灯りを消せ」

「……」

「俺とお前しかいない。消しても大丈夫だ。いいから消せ」

 言われるまま、近くにあったスイッチを切った。

 パッと暗くなったところに、宮田の体から蛍光が発せられ、その蛍光が模様のように浮かんだ。

「!」

「灯りをつけろ!」

 私は宮田の体を見るばかりで、スイッチを探しあてられなかった。ようやくスイッチを入れた時には、宮田は服を着始めていた。

「(なんだよ今の)」

「(発光だよ。液体生物に侵された者の症状だ)」

「エアコンって、そこまで判ってて……」

「この季節…… 判っててもエアコンはつけるだろ?」

 うなずいて答えた。

「エアコンつけたまま、うっかり寝てしまった。その時かららしい」

「……らしいって、本当はいつからか分からないのか?」

 今度は宮田がうなずいて答えた。

「液体生物がどうやって俺に入り込んだかまでは分からない。けれど入り込んだらこうなることは分かっている。鷺沼も、鷺沼の母も同じ。そして俺も……」

「自殺するとでもいうのか?」

 ドンドン、と背中の扉がノックされた。

「早くしてくれ」

 トイレの外から声がする。個室形式のトイレだと思っているようだ。

 宮田はそっと小さい声で言った。

「もう、ここを出よう」

 そして二人でカフェを出るなり、宮田は言った。

「地下鉄の事件って何だったんだ?」

「知らないが、目の前で液体をまいたやつは、『除染だ、消毒だ』と叫んでいたよ」

 宮田は黙っていた。

「ただ床に液体をまいてどうなるわけでもないのに」

 宮田は立ち止まった。

「俺は『除染』とか叫んだというやつの気持ちがわかる」

「どういうことだ?」

「俺と同じ気持ちってことさ」

「だから、どういう……」

 細い目で、キッと睨みつけると、いきなりまくしたてた。

「電車に飛び込むような奇怪な自殺者が、殆どこの液体生物のせいだとしたら、駅のエアコンから電車のエアコンまで、隈なく除染したいという気持ちは分かるって言っているんだ」

 言葉は尽きない。

「電車にしろそこら辺のビルのエアコンにしろ、びちょびちょと変な音を立てて、液体生物が行ったり来たりする音をかき消している。のを手助けしている」

 急に背中を丸めて、うなだれた。

「早く除染しないと大変なことになる」

「感染しない方法はないのか?」

「知るか」

 と、ぼそっと言った後、こっちを向いてニヤリ、と笑った。

「エアコンをつけないことかな?」

 電車やビルのエアコンであればつけない、という選択は出来ない。それがイヤなら自分の部屋に引きこもってろとでも言いたげだ。

「じゃあな。生きてたらまた会おう」

 会話がいちいち痛いし、そのせいでこいつが真剣ではないのかと思ってしまう。

「ちょっとまて、お前、その、水沢さんとどこまで……」

 宮田は細い目を更に細くした。

「怒ったのか?」

 ニヤリと笑った。

「ご想像におまかせするよ」

「……」

 こいつに聞く質問ではなかった、と後悔した。

 宮田と別れ、精神科の医院へ歩いて向かった。




 カウンセリングを受け、先生に会社に受診を伝える書面を書いてもらった。その書面は本社に送らねばならなかったが、近くにいるから届けてしまおうと思った。

 連絡をして本社に向かった。

 地下鉄の駅に降りると、地下鉄はまだ混乱していた。

 事件のあった駅には止まらないとアナウンスがあった。それと運転本数を大幅に減らしている、とのことだった。

 私は駅員に状況を聞いた。

「車両は止めたまま検査が続いています。その為、下り側車線を使って単線運転しています」

「下り車線側が使えるなら駅に止まってもいいのでは?」

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