表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
除染沿線  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/16

(12)

 きっとバリバリ働くことを期待されるのではなく、政府からの補助金の為に雇用されるのだろう。

 だったら、もとの仕事の方がましだった。

 まだ実力を評価してもらえる(かもしれない)からだ。




 転勤直後に梅雨があけた。

 転勤して、良かったことは地下鉄に乗らなくてよくなったことだった。

 べちょべちょした感じのコケやカビや、ホームの天井やレール間際の水の流れ、大勢の乗降客を見なくて済むことが、私の心を落ち着かせたようだった。

 もう精神科に行かなくてもいいだろう、と思っていた。

 しかし、本当に精神が除染されたのかは分からなかった。

 そうおもっていたから、転勤と同時に精神科からはしばらく遠ざかっていた。

 精神科に行くには、都心にもどらねばならない。

 その時には、一番キライな地下鉄にも乗ることになる。

 精神科に行く途中で、精神が汚されてしまうような気がした。

 だが、会社から指示が出て、期間内に精神科に行くことになってしまった。おそらく社員のだれかが自殺したのだ。

 以前、こういう話を聞いたことがある。社員へ相談室へ電話しろ、だの、精神科に通ったことのあるヤツに再受診の指示が行くときは、誰かが自殺して会社が対策をしなければならなくなったからだ、と。

 だから今回もそうだったのだろう。

 もしかしたら、鷺沼の死に対して、ようやく会社がアクションをとったのかもしれなかった。

 とにかく、理由は分からなかったが、会社の指示で都心の精神科の先生のところに行くことになった。

 新幹線を使って都心の駅に着くと、そこから地下鉄に乗り換えた。

 地下鉄に乗っていると、斜め向かいの優先席に白衣を来た男をみつけた。

 雨も降っていないのに百均で売っているような傘を持ち、白衣と対照的な黒い大きなカバンをひざに抱えている。

 左右をキョロキョロと、必要以上に確認しており、手や身体も震えているように見えた。

 私はあえて見なかったフリをしようと、スマフォを取り出した。

 宮田の作り話が分かった時から、存在すら忘れていたメッセージアプリを開くと、まさにこのタイミングで、メッセージを受信した。

『悪かった』

 鷺沼の母の通夜に送られたメッセージだと思って、何度か送信の時刻を確認したが、やはり今受信したものだった。

『お前に謝りたい』

 宮田は立て続けにメッセージを送ってきた。まるで私が都心に来たのが分かっているような感じだった。

 何かゾッとした。

 どうやら、その感じは宮田のメッセージから感じたのではなかった。

 視野の隅に映った、優先席の白衣の男の表情だった。

 追い詰められたように床をじっと見つめ、エアコンの効いた車内でダラダラと汗をかいている。

 見ていると、優先席の男は黒いカバンをひっくり返し、透明なビニールに入った液体を床に置いた。

 男は靴のまま椅子の上に乗り、ビニールを傘の先で突き始めた。

 私以外にも気づき始め、騒ぎ始めた。

「車掌を呼んでこい」

「お前何をしている!」

「早く逃げろ、毒ガスだっ!」

 気づくと、白衣の男はガスマスクをしていた。

 まずい……

 あの液体がなんであれ、どんなガスがでるとしても、この狭い車内では致命的だ。

 幸い、駅が近かったようで、電車は減速を始め、ホームに停車した。

 ドアが開き、乗客が一斉にホームに出ようとした瞬間、つついていたビニールが破けた。

 床をサァーと音を立てて広がる液体。

 何かに反応してか小さな泡が出ている。

 ガスマスクの男は足を滑らせながらホームへ出て行く。

「除染だ、消毒するんだ」

 電車の方を向いて、そんな事を言っていた。

 こっちのドアの乗客はドアでひっかかりながらも外へ出て行く。

「乗ったら駄目だ、変なガスが出ている!」

「液体を撒かれた、液体を撒かれた」

「毒ガスだ、逃げろ」

「離れろ危ないぞ」

 駅は火災警報がなり、駅員が地上へと誘導した。

 私が地上に出た時は、地下鉄への入口付近に消防車や救急車、警察車両が止まっていた。

 気持ちが落ち着かず、クスリを探して飲もうとしていた。

 駄目だ、クスリを飲んだらまた……

 スマフォが震えて宮田からメッセージが入る。

『なんか事故があったみたいだな』

「!」

 さすがにこれだけ騒ぎになればニュースにもなっているかもしれないが……

 あまりに早すぎる。

『おまえ、どこにいる?』

「ここだよ」

 声とともに肩を叩かれ、慌てて逃げ去ろうとして転んでしまった。

「み、宮田?」

 細い目の男が立っていた。

「(仮名だから大きな声で呼ぶな)」

 痛い感じも変わっていない。

「いつからそこにいた?」

 私は少し足が震えていて、スムーズに立てなかった。

「今、たまたまここにいたんだよ」

「……」

 このホームから避難してきた乗客、消防車や救急車をみて集まってくる野次馬。そんな大勢の人でごった返しているところで、たまたま見つけたとでもいうのか。

「お前に言っておきたい話がある」

 宮田の顔つきに真剣さを感じた。

 私は医者に電話して、地下鉄で事故に巻き込まれたから到着が遅れると伝えた。

 近くの喫茶店を探して入り、この騒動を見下ろせる二階席に並んで座った。

「何が言いたいんだ。もうカビの話はなしだぞ」

「お前の言ったとおり、液体生物がいるって」

「……」

「後で見せたいものがある。今は話を聞いてくれ」

 宮田の真剣な表情に不安がよぎる。

「笑わないで欲しい。俺はお前の会社の人とお付き合いさせていただいた」

「はあ?」

 ふざけてやがるのか。

「……ふざけたり、自慢したい訳じゃない。カビのことが想像の話だ、と言ったあの後、お前の会社の水沢という女性が俺のところに来た」

「何がいいたい?」

 水沢さんがなぜこんなヤツに……

「俺に興味があったのではなく、鷺沼のことを調べていたような感じがする」

「鷺沼のことだって?」

「とにかく、はじめて女性と付き合ったから、色々とまどうことも多かった」

「……」

 鷺沼の死をどれくらい調べられているか知りたかったのだろうか。

 水沢さんと付き合ったあたりで、鷺沼は発光のことを書いている。鷺沼の母も水沢さんと……

「水沢さんは……」

「お前の言いたいことはわかる」

「じゃあ、何故」

「すえぜん食わぬは…… って昔からいうじゃないか」

「違う」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ