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俺の奏でる重低音は世界に響く  作者: 進堂賢介
第一章 始まりの歌
2/2

02 初めての出逢い

ちょっと急展開気味ですが、話が進みます。






「さぁ、着いたぞ。」



連れて来られたのは一軒の小屋だった。

森の中の少し開けた場所を少し整地したような立地に建っており、こじんまりとしたログハウスだった。窓の多く、開放感が満載の造りになっていた。

入り口のドアの傍には槇が山積みになっており、壁に掛かっている斧がキラリと光っていた。

家の隣に巡らされている柵の中には狼がリードで繋がれており、尻尾を振っていた。

あれ?狼って尻尾振ったっけ?ま、まぁ……一応イヌ科だから…振るの……か…?



「………。」



「おい、着いたぞ?」



「……あ、あぁ。ありがとうございます。」



歩きながらずっと考えていた。

まずはこの世界について。

にわかに信じ難いが、この世界はどうやら俺が元々居た世界とはまた違う世界らしい。

今現在、俺が居る場所はアランナ王国のスズラの森。アランナ王国という国は元居た世界の197つの国には入っておらず、母語もイズムゥ語という物で、聞いた事の無いワードばかりが出てきた。

それと自分の事について。

どうやら俺には記憶が無いらしい。

何故こんなに落ち着いてそんな事言えるか自分でも分からないが……自分の神経を疑うぜ…。

服装も携帯品も軽い物で、自分の身分も証明出来る物が無い。まったく…どうしたらいいんだ?

それと、失っているのは“記憶”だけで、“知識”は無くなっていないらしい。

例えばそこにペンがあったとする。それが“ペン”と言う道具で筆記用具という事は分かる。だがしかし、それを自分が何に使っていたか、どんな思い入れがあるかが分からない。

それが全てに置いて発動している。そんな状況に俺は立っている…。



謎だ………一体、俺は何者なんだ……。



「さぁ、入ってくれ。」



「あぁ、どうも……。」



家の中は意外にもしっかりしていた。

綺麗に整頓された室内。大きめのチェストの上には花瓶と金の置物。

部屋の隅には丁度良い大きさのシングルベッド。ベッドメイキングも丁寧にさせており、少女の性格が感じられた。

部屋の中央には木製のローテーブルにそれを囲むように置かれた四つの椅子。

台所のシンクには井戸水を汲み上げる為のポンプ。

どうやらかなり古い古民家を改築してこの家に住んでるらしい。こういった所にその名残が見られる。モダンチックで良い味が出ていて俺は好きだ。



「さぁ、お茶を淹れてやる。座って待ってろ。」



「あ、はい。お気遣いありがとうございます。」



少女の言う事に従い、椅子に座る。着ていたパーカーも脱ぎ、背もたれに掛ける。

しかし、どうも落ち着かない。思わず部屋の中をキョロキョロと見渡してしまう。



「フフッ、そんなに気になる物があったか?」



「あ、いえ。やっぱり落ち着かなくて…。」



記憶が無くなる前もこんな癖があったのだろうか。

もしかして俺って…コミュ障だったのか?いや、確実にそうだったのか…。何か淋しいな…。



「そうか…ダージリンでいいか?」



「はい。お願いします。」



そうだ、自分の事とこの世界について分かった事をメモしよう。さっき持ってた黒い手帳にボールペンで書いてみる。アランナ王国、イズムゥ語、窮奇。全ての事を簡素な説明を書いて纏めてみる。

まだ1ページにも満たない量だが、これから色んな発見をして、全てを埋めたいと思う。

丁度その頃、紅茶の芳ばしい匂いが漂ってきた。



「淹れたぞ。」



「ありがとうございます。」



目の前に透き通る赤茶色のダージリンが入った純白のシンプルなティーカップが置かれる。

少女も自分に対になる位置の椅子に座り、ティーカップを置く。



「あ、それと敬語使わなくていいぞ。年同じ位だしな。」



「え、あ、お、おう…。」



弱々しい声で応えると、少女は満足したように笑みを浮かべた。



「さて、詳しく話を聞こうか。」



「あぁ。まず名前、と言いたいんだが………。」



「ん?何か問題でもあるのか?」



問題大アリだよ…。でも…信じてくれるのか?突然記憶喪失って言って。

いや、信じてくれないだろうよ…。

でも、言わないと何も始まらないからな…。

いや、どうするべきか…!?



「えっとな…こんな事、急に言って信じてくれるか分からんないけどな…。」



こうなったらもう引き下がれない…………よし、言おう!



「……?」











「俺、実は_______________記憶が無いんだ!」



「ッ…何?」



「自分でも頭がおかしいかと疑っているけど、こう結論付けるしか辻褄が合わないんだ…。」



「……………



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



あれから、ティーカップのダージリンが冷えきるまで少女に話し続けた。自分に記憶が無い事からこことは違う世界から来た事から、何もかも、全て。

現在把握出来る事から話を広げて話を造っていた。

彼女は何も口に挟まず、無言で俺の話を聞いてくれた。

たまに相槌を打ったり、目を見開いたりすると「成る程……」と反応を見せてくれた。



「……まぁ、今言ったのが真実だ…。」



「…………あぁ…。」



少女は小さな声で言った。



「…………すまない、信じてくれないだろうけどな…話を聞いてくれてありがとう。お陰でスッキリしたよ…。」



「…………。」



少女は目を伏せ、悲しそうな表情を浮かべ、俯いた。

同情してくれているのだろうか。



「ッ、おいッ!!」



「紅茶、美味しかったぜ。」



ソッと席を立つ。少女は驚いたように目を見開き、此方の眼を見た。



「………………何処に行くんだ?」



「何処って、ここから出て行くだけだ。」



「なっ!ちょっと待て!」



俺は少女の制止を無視し、出口のドアへと向かう。



「あ、それとこんな俺を心配してくれて…



________ありがとう。」



そう言うと俺はドアノブに手を掛けた。

心がやや痛むがしょうがない。俺はどうせ記憶喪失の抜け殻のような存在。ゆったりと旅に出るのも吉だろう。

ドアノブを回し、ドアを開けようとしたその瞬間…



ドッ



背中に衝撃が走った。何かがぶつかったような衝撃だ。

背中に当たる柔らかい感触が何がぶつかってきたか何か、大体予想が付く。

俺は抱き着かれたのだ。

抱き着いてきたのは誰か分かっていた。

後ろからすすり泣く声と嗚咽が聞こえる。



「待ってくれ………!」



(…………本当はラッキースケベとか言って狂喜乱舞する所だけど、こんな状況ではそんな雰囲気じゃないな……。)



「お前……これから行くアテはあるのか……?」



考えて…なかった、な…。

まぁ、それはゆっくり考えて…いや、待て。何で俺はこんなに呑気に物事が考えられるんだ?



「図星だな……?大方分かる……。正体の分からない人間を雇ってくれる所なんて…どうせ無いだろう…。さっきの話、にわかに信じ難かったが私は信じる……!いや、信じたい…!」



「ッ…!!」



何て…何て親切な人なんだ…!

でも、………俺は、彼女を信じていいのか?こんなに…涙を流しながら言ってくれているんだ…!心を許していいと思う…!

いいや、許さなくてどうするんだ…!



「私は記憶が無くなった事なんか無いからお前と自分を重ねる事は出来ない…!代わる事も出来ない…!でも…お前に協力する事なら出来る…!」



「な…!?」



「だから……だがら”ッ!!」



すると、少女の眼からダムが決壊したように涙が溢れ出した。



「うっ…!………ぐすっ………すま…ない…。」



しかし、直ぐに少女は泣き止み、顔をブラウスの裾で拭った。

腕を顔から離すと、まるで何も無かったかのように落ち着きを取り戻した。



「………私は…お前を助けたい……!!だから……だから……!!」



この少女の厚意は同情による物じゃない。“この人の立ちたい”、“この人を助けたい”という善意の物だ。

間違い無い……この人は偽善者なんかじゃない……本物の善人だ…聖人だ…!



(俺は……どうすれ………)



その思考は少女の一言にて遮られた。





















「_________私と一緒に住まないか!?」









「な………





なぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!!!????」



驚き、その感情だけが心を満たした。

おいちょっと待て。今思考回路がショートしそうになったぞ?いや、今でもかなりピンチだぞ?

ていうか出会ってまだ一時間も経ってないぞ?あまりにも急じゃないか!?



「ちょっと待って?俺と一緒に住もうと?」



「あぁ。」



「こんな正体が分からない奴と?」



「あぁ。」



「もしかしたら、俺。肉欲が凄まじいかもしれないぞ?ノンケだろうと構わず喰っちまうかもしれないぞ?」



「私は男じゃないから大丈夫だ。それより、どうするんだ?ここに留まるか、ここから去っていくか…さぁ、どうする!」



「く、くぅ…!!」



究極の選択とはまさしくこの事だ。

自分が少女の所に居候するのにメリットは勿論ある。一つは安全を確保出来る事。

ここは窮奇といった幻想とされた生物が生息している。

そんな死が1~2mごとに落ちてるような世界で無知の俺が一人で生きていけれるか?答えはNo。

もし人を襲うような化け物に遭遇したらどうなると思う?

一瞬でTHE・DIED。

そしてもう一つはこの世界について知る事が出来る。

この世界では常識が通用しない。

元の世界の地理と文化、法律などもこの世界では通用しない。

文化と法律などは間違い無く知っておいた方がいい筈だ。

何気ない行動で強い公務員の方々に捕まったり、迫害される事もあり得るからだ。



(くそっ…どうすれば…!)



そしてデメリットは隠されてるであろう俺の性欲だ。

俺は自分を知らない。名前も自分の性格も、何もかも。勿論、若い気なども。

自分の肉欲がどれ程強大で、歪んでいるか全くもって分からない。

もしかしたら、彼女を襲ってしまう…という最悪の事態にもなりかねない。

苦渋の選択…これで今後の生活が決まる…!



「ほらほら、本当の事を言え。」



「んぐっ!?」



突如、頭痛がした。

そこまで激しくは無いが、何故か気味が悪い。まるで心を見透かされているような…そんな嫌な感覚だ…。



「……………本当は此処で住みたいんだろ?」



「はい、住みたいです!!………ハッ!」



な、何だッ!?自分の意思とは裏腹に言葉が出た!一体…どうなっているんだ!?



「ふふ……やっぱりな。」



少女はそう言うと満面の笑みを浮かべた。



「さて、気を取り直して自己紹介だ。私の名はスミレ・イベル。この森に住む人間だ。」



スミレか…あれ?どうしてイベルが外国のセカンドネームなのにどうして名前が日本名のスミレなんだ?ま、まぁ…ツッコまない方がいいのか……な……?



「スミレか…そのままで呼んでいいな?」



「あぁ。そうしてくれ。苗字で呼ばれるのはちょっと苦手だからな。」



ぶっちゃけ名前を知らないからこれから何かと困るな…偽名でもいいから決めとかないとな……それも、結構多めに。そうだな……72個くらいか?いや…多過ぎか……?



「さて、そっちの名前と行きたいんだが……名前が分からないからな…。」



「偽名とか使おうか迷ってるだがねぇ…?」



「いや、その必要は無い。」



「なッ…?」



「これを見れば分かる。」



そう言ってスミレが俺に見せたのは…ん?俺のバッグ!?

どうして俺のバッグなんかを?手帳とボールペンしか入って無かったと思ったんだけど…何か入っていたのか?それとも何かバッグに付いてたとか?



「え?何処を見れば分かるんだ?」



「コレの内側のポッケみたいなのがあるだろ?そこに付いてる白いのを声に出して読んでみろ。」



そう言ってスミレは白く細い指でバッグの内布に縫い付けられていん白い布を指差した。



「え?えっと……“名前 理宮瑠”? ……リキュール?」



理宮瑠…?それがバッグの持ち主の名……つまり……



「俺の名前?」



「あぁ、そう考えるのが定石だな。だが、このリキュールというのは苗字だと思う。だが、これだけだとファーストネームが分からないな…。」



スミレは小さな溜息を着いた。



「でも…別に俺はそれだけでいいと思うぞ。」



「ん?何故だ?」



「やっぱな、人生て長いだろ?別に急ぐ必要は無いと思うんだ。それに、この世界での驚きや発見、感動はまだ数え切れない程あるだろうよ。だから、ゆっくり考えて、知ればいいんだよ。別に俺は急ごうとは思ってない。だからな…俺はこの異世界ライフを十二分に満喫するぞ!此処に宣言します!」



別に急ぐ必要なんて無いんだ。

元の世界であった時間という概念に捉われる忙しい24時間なんてただの人が勝手に創り出したルールなんだ。

俺達は何も考えずその流れに水面を流れる落ち葉みたいに沿って流れていただけ。

俺は流れに逆らって上流に向かう鮭になりたい。

自分の意思を持って、自我を持って生きたい。

“時が進むと未来に、前の事は思い出になる”。こんな格言がある。

俺は今を精一杯生きていく。

この異世界で…!!



「………それじゃあ、お前の名は今から“リキュール”っていう事になる。異論はあるか?」



「あってたまるか。むしろ、大歓迎だ。リキュール……いい響きじゃないの!」



「よし、それじゃあ宜しくな、リキュール!」



スミレは手を差し伸べた。

俺はニヤリと笑うとスミレの手を握り、熱い握手を交わした。



「おう、宜しく、スミレ!」




俺は、この世界で初めて友人が出来た。



【スミレ】

この世界で初めて出来た友人。

男勝りの口調と容姿だが、涙脆い。

木登りが得意なご様子で。


【スズラの森】

俺が目覚めた場所。

スミレと出会った所からスミレの家まで鳥くらいしか野生動物が居なかった為、安全な場所と言えるだろう。

今度キノコ狩りとかしてみたい。


【アランナ王国】

領地にスズラの森が入っている国。

王国と言ってる限り君主制なのだろうか。すると国王がいる筈だ。一度お目に掛かってみたい。




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