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俺の奏でる重低音は世界に響く  作者: 進堂賢介
第一章 始まりの歌
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01 まさにテンプレ通りの展開のプロローグ

昔投稿したっきりの作品を大幅リニューアルして投稿する事になりました!

宜しくお願い致します!






「ん……。」



眼が覚めると、其処は知らない場所だった。



「こ……此処は……?」



此処は…何処だ?

辺りを見渡してみる。360度広がっているのは木、木、木。

どうやら俺は森の中に居るらしい。

俺の身の丈の何十倍もある針葉樹が空を隠しており、木々の間から漏れ出す木漏れ日が暖かかった。

地面は枯れ落ちた落ち葉と腐葉土で生成されており、クッションのように柔らかかった。



「…………?」



ゆっくりと視線を下に落とす。着ている服装はいたって平凡な紺色のパーカー。下半身もそれに合わせたジーンズ。靴も白いスニーカー。どう考えても森をハイキングするような服装では無かった。

持っている物も小さなポーチ一つで、その中にはハイキングには必要不可欠であろう水や携帯食料なども、外部との連絡手段でもある携帯電話も無かった。

代わりにあったのは一冊の黒い手帳と黒のボールペン。

手帳をパラパラとめくってみると、全てのページに何も書いてなく、ボールペンもインクの消費は無に等しく、新品同様だった。





ここでとある一つの疑問が頭のよぎった。





何で…俺は此処にいるんだ?

脳に刻まれている情報を全てひっくり返して思い出そうとするが…




全く持って何も思い出せない。



此処に来た理由も、昨日の夕飯の事、自分の家族についても………



自分の名前すらも。



「落ち着け、落ち着け。x-19=8の方程式の解は27、信者と書いて“儲”と読む!よし、頭は正常だな…。」



本来特例無ければ人間誰もが自分の名前を記憶しているだろう。

だが……何も…思い出せない。

自分の名前は?自分がどんな人間か?自分の生い立ちは?思い出せない。

何故なんだ?

何故俺は何も覚えてないんだ?



「うぅ…!?」



駄目だ…頭が混乱して来た…激しい頭痛がする…頭がカチ割れそうだ…。



「痛ッ……!!」



頭を抱え、地面に倒れ込む。

駄目だ、意識が混濁して来た。世界が歪む。

この苦痛から逃げようと、意識を手放そうとしたその時だった。



ガサッ



周りの木々が揺れた。

一気に意識が覚醒する。

木が揺れたのは風の所為では無い。まるで人に押されたかのようにグラグラっと揺れていたのだ。

しかも、その揺れは移動している。

ジャングルの木々を跳び回るサルのように。



「なっ、何だ…!?」



無意識に立ち上がり、揺れの動きを眼で追っていた。

気配がする、何か出会ってはいけない、何かの気配を感じる。

淡い緑色をした葉がパラパラと落ちて、地面に音もなく落ちる。

今すぐにでも逃げたい。だけど、逃げない。いや、逃げれないんだ。

やっべ、俺ってこんなにチキンなのか……。



「お、おーい…?誰か…居るんですか……!?」



不覚にも声が震えてしまったその次の瞬間!


ドサッ


何かが背後に降り立った。恐らく木々の間を飛び回っていた張本人だろう。

振り向くべきか?いや、確かサルと目を合わせたら喧嘩を売られたと思って襲ってくるって何処かで聞いた事がある…。

いや、待て。何でサルと決めつけるんだ?もしかしたらゴリラに育てられた少年とかトリッキーな他の動物でもあるという可能性もある筈だ…。

しかも、この状態だと動く事も出来ない。

つまり、俺に残された選択はただ一つ。“振り向く”という選択だけだ。まぁ薄々勘付いていたけど。

よし、俺も骨無しチキンじゃない筈だ。記憶を失う前の人格は知らないけど。

3まで数えたら振り向こう。


1……


2……


3ッ!!


首と身体を捻り、気配のする後方を振り向く。



「…………。」



眼前、目と鼻の先にあったのはエメラルドグリーンに輝く澄んだ両眼だった。



「ファッ!?」



驚いた俺は思わず後ろに飛び退いてしまう。コミュ障と思うかもしれないが、これは不可抗力。

突然目の前に人が現れたら驚く。誰だってそうなる、俺もそうなる。

もう一度少女をまじまじと見つめる。

鋭く尖ったような目つきのエメラルドグリーンの瞳に肩まで伸びている木漏れ日を反射して金色に輝くブロンズの髪。

白いブラウスの上に革製のジャケット、そして紺色のジーンズを着ており、動き易さを追及した服装となっていた。

人形のように整った顔は凛としており、外見からは想像出来ないような妖艶な雰囲気が漂っていた。



「……大丈夫か?」



少女がおもむろに口を開く。

どうやら俺の身体の事を心配してくれているらしい。



「はい…大丈夫です…。」



「そうか…地面に倒れてたから心配したぞ。本当に大丈夫なのか?」



赤の他人の事をこんなに気遣ってくれるなんて、何て親切な方なんだ…。



「取り敢えず、これを飲め。」



少女が腰に付けた水筒をベルトのフックから外し、目の前に差し出した。



「あ、ありがとうございます…。」



俺はそれに手を延ばし、受け取った。

水筒の中にはたっぷりと水が入っており、飲むのが申し訳無くなった。


「この森に生えている薬草で作った青汁だ。飲めば落ち着くだろう。」



「はい…。」



水筒のキャップを外した瞬間にして辺りに充満した刺激臭。

例えるなら雑草を切断した時に出る汁の臭いを何千倍にも増強し、圧縮したような臭いだった。

あれ?青汁って何だったか。



「これ……飲むんですか?」一気に飲む気が失せた。駄目だ、死の危険を感じてしまう。



「当たり前だ。飲めないとは言わせない。」



この“危険液体X”を飲む運命からは逃げられないようだ。

なんて残酷な現実なんだ。手を差し伸ばされる事は無い。諦めるしか無いのか…?

くそっ…どうしたらいいんだ…!?



「いいから早く飲め!」



「んぐっ!?」



アームロックをされ、飲み口を無理矢理口に突っ込まれる。

口膣にあの“危険液体X”が発射される。

意地でも飲みたくないと身体をバタつかせ抵抗しようとするが、しっかりと身体を固定され、思うように動けない。

そして…



ゴクッ



「ッ!!」



遂に飲んでしまった。

慌てて吐き出し、自然にリリースしようするが少女に首を上に上げられ、無理矢理喉に押し込まれた。



「いいから飲め飲め。」



津波のように襲いかかるであろう最悪の苦味を覚悟したが、それは間違いだった。



「う、美味い…だ…と…!?」



青汁は途轍もなく美味かった。

薬草特有の苦味は牛乳やレモンの果汁のような物でマイルドに仕上げられており、市販の青汁では味わえない程の美味だった。



「どうだ?美味いだろう?」



「は、はい!こんなに美味い物は初めて飲みました!」



「ふふふ…嬉しいねぇ。」



少女は嬉しそうにニヤニヤと笑っていた。



「あの、これってどんな物で作ってるんですか?」



これ程までの物を作るなんて、一体どんな食材を使っているのか気になった。



「12種類の薬草と少量のミルクだ。ミルクが多過ぎると甘ったるくなるから少なめでいいんだ。」



成る程…ん?ミルクって何のだ?別に卑猥な意味じゃ無いと思うけど…。



窮奇キュウキのだ。見た目はちょっとアレだが、ミルクはとても美味なんだぞ。」



へぇ…ん?窮奇って……中国の妖怪じゃなかったか?

ハリネズミのような毛が生えてる牛で、犬みたいな鳴き声を上げる人喰い妖怪だったはずだ。

…………え?



「あの…窮奇って…空想上の生物じゃないですか?」



「は?おいおい、馬鹿言うなよ。窮奇の肉は普通に市場で出回ってるぞ?」



「え?」



どういう事なんだろうか。

空想上の生物が何故現実で存在しているんだ?

肉を食べる?ミルクが美味い?

一体…俺の記憶が無くなったのと関係しているのか?

待て待て、もしかしたら、もしかしたらだ。

窮奇は実際に存在していて、世界の何処かで少なからず生息しているだけかもしれない。

いや、馬鹿か?俺は馬鹿か?脳が腐ってるのか?人格も腐ってるのか?腐兄なのか?

でも……窮奇は中国の古文書に出てくる。という事はここ中国か?

だけどなぁ…この少女が発している言語は日本語だ。

…俺に合わせて日本語にしているのか?



「………Thank you kindly.Excuse me, where am I?I, the here neighborhood without from a share….」



「え?何を話してるんだ?」



なるへそなるへそ……言語は英語じゃないか…。それなら……!



「…担心,谢谢。对不起这里…。」



いやいや、中国語じゃないだろ。

顔立ちから見るとヨーロッパ近辺出身と見た。

あれ?でも、どうしてこんなに言語が出てくるんだ?

記憶が無くなる以前に勉強でもしていたのか?それともそれを専門とした仕事をしていたのか?う~ん…分からん。




「なぁ…普通に喋ってもいいんだぞ?」



少女は苦悶の表情を浮かべている。

どうやら日本語を喋った方がいいらしい。



「あ、日本語でいいんですね?」



「え?日本語って何だ?」



え…日本語を喋っているけど、“日本語”という単語を知らないだと?

おかしいぞ。何かおかしいぞ。



「………………今、僕が喋っている言語は何と言うんですか?」



「ん?普通のイズムゥ語だろ?」



イズムゥ語?

そんな言語は聞いた事が無い。

日本語がイズムゥ語という謎の名前に置き換えられているのか?

つまり、俺の日本語はこの少女からするとイズムゥ語という事になるのか…。



「さっきの言葉をイズムゥ語に戻すと?どうなるんだ?」



「お気遣い、ありがとうございます。失礼ですが、ここは何処ですか?僕、ここ近辺の事が分からなくって…、という意味です。」



母語ってやっぱりいいね!

やっぱりこっちの方が言いやすいや!



「そうか…。ここはアランナ王国の領地、スズラの森だ。私は森の外れにある村に住んでいる。」



アランナ王国…スズラの森…また新たな言葉が出てきたな…。

スズラの森という言葉もアランナ王国も俺は勿論知らない。

王国と付くのなら、王が国を統治しているのだろうか。



「取り敢えず、私の家に来い。そこでゆっくりと話そう。」



「は、はい。」



少女は俺に背を向け。歩き出す。



「付いてこい。」



少女の後ろを歩きながら俺は考える。

現在の状況を整理してみよう。



目が覚めると謎の場所に俺は居た。それも記憶喪失になって。この事実は受け入れるしか無いらしい。

そして、ここはアランナ王国というらしい。そして、ここには幻想とされた生物が生息しており、俺から言う日本語がイズムゥ語という言語に置き換わっている。

そう考えると…もしかしたら………いや、そんな事馬鹿げている。

だが、そう考えないと辻褄が合わない。

自問自答を繰り返しても何にもならない…!結論を…!

……うん、今の状況から察するに俺は………































以前居た世界とはまた違う世界に居るという事だ。








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