蠱毒
さまざまな機器が並ぶ研究室と思われる部屋で、ひとりの人物がスコープを覗いていた。
そこへ、もうひとりが部屋に入ってきて、いった。
「その後の経過はどうかな」
スコープを覗いていた人物が会釈をして答えた。
「おはようございます博士、順調に進んでいるようです。先ほどまたひとつ淘汰されました」
ふたりは博士と助手の関係のようだ。
博士はいった。「ふむ、結構けっこう。今度こそは成功させなければな」
「そうですね。前回はいいところまでいったのですが……」
ふたりは『蠱毒』の研究を行っていた。『蠱毒』とは呪術の一種で、壺やかめなどの容器に何匹もの虫をいれておき、争い、共食いをさせ、生き残った一匹を呪いにもちいるというものだ。
「もうひと息というところまでいったのになあ。大きく強く育ち、他を圧倒し、頂上に君臨するものだと思っていたが」
「まさかアクシデントで一気に全滅するとは思っていませんでしたね。残念です」
「なにが起こるか分からないね」博士はため息をついた。「だが今度こそは期待できそうなんだろう」
「はい。順調にすすんでます。ご覧になりますか」助手は博士に席をゆずった。
「どれどれ」博士はスコープを覗いた。
「ほう、これはたまげた。短い間にずいぶんと淘汰したものだ。しかも道具を使っているではないか、あれならば効率よく他種を排除できる」
「非常に速いペースで他を排除していってます。まさに、驚きというしかありません。しかも彼らは他種を排除するのにあきたらず、同種までをも手にかけています」
「なんと。それはたまげた。これならば予想よりも早く蠱毒が完成するかもしれないね」
博士はスコープを助手に返すと、いった。
「それじゃ、私はちょっと出かけるが引き続き観察をたのむよ。この前のようなアクシデントが起こらないようにな」
「お任せください。よい報告をたのしみにお待ちください」
博士はにこにこ顔で部屋から出ていった。
博士のうしろ姿を一礼しながら見送ると、助手はまたスコープを覗く作業にもどった。
スコープ越しの視線の先には、星々が浮かぶ宇宙空間があった。そして、その中心には青く輝き、水と空気に包まれ、ところどころに白い雲が漂う、美しい惑星がゆっくりと回りながら浮かんでいた。




