#21 監禁
セーマの両腕の拘束具が外される。
さすがにそれは解いてくれた。
でないと用も足せないからだ。
「セーマ殿、大変申し訳ありませんが、事情が事情ゆえ、しばらくここでおとなしくしていて下さい」
そういうと、中年の守衛が扉を閉じ外から鍵を掛けた。
そこは牢屋というよりはホテルの一室という感じだが、外部と一切連絡の取れない隔離部屋であった。
セーマは式典会場で、突然、ユニに魔王と宣告されてしまい、その後ワラワラ登場した警備兵たちに拘束されてしまったのだ。
武器である剣は、スカーレットらと約束したのでホテルに荷物とともに置いてきていた。
しかしそれでも、その気になれば警備兵など振り切って逃げることはできただろう。
しかし警備兵に取り囲まれたとき、真っ先に駆けつけて、庇ってくれたイワンとエリックに、
(下手に抵抗すると話がややこしくなるから、ここはひとまず捕まっておいてくれ。後で必ず開放させるから)
そう言い含められたのでおとなしくお縄につくことにしたのだ。
両腕を拘束され、馬車(車外が見えない)に乗せられ、最終的に着いた所がこの隔離部屋なのである。
セーマとしては、特に悪いことをしたわけでもないのに、このように一方的に拘束されるのは理不尽この上ないのだが、セーマの目的が魔族討伐軍の総大将になることである以上、ここで抵抗して警備兵に怪我を負わせ、イメージダウンするのは得策ではなかった。
(あの女に濡れ衣着せられただけで、俺、別に悪いことしてないし、問題ないっしょ!イワンとエリックがその内うち開放してくれるはずだし。それにしてもあの女、どこかで見たことあるような・・・)
セーマはユニについて考えているうちに眠くなってきた。
旅を終え、その足での式典入りである。
緊張が解けドッと疲れが押し寄せてきた。
(ま、骨休めにちょうどいいか・・・)
セーマは深い眠りに付いた・・・
◇
セーマが眠りに付いた頃、式典会場奥の会議室では、国王以下、式典に来ていた国の重鎮たちが今後について話し合っていた。
話し合っているのは、セーマを迎え入れるか排除するかについてである。
その中には、イワン、エリック、サルマン、クレメンスの姿もあった。
クレメンスが言う。
「ですからわたしは初めから申していたのです。あのようなどこの誰とも分からぬ流れ者を国賓として招くなどありえんと!」
それに対してイワンが発言する。
「貴公は彼が辺境からここに来るまでの間どれだけの活躍をしてきたのかわかっているのか?一度でも彼が戦う姿を見ていれば、そんな言葉は出てこないぞ。そんな彼が我らの味方となってくれたのだぞ。国賓として遇するなど当然のことだ」
その意見に頷くエリック。
しかし、クレメンスが反論する。
「我らに味方したとして、その理由はなんなのですかな?それほどの凄腕がただで味方するなどありえんことです。すっきり納得のいく理由が無いのならなにか裏があると考えるのが当然。もしかしたら魔族の回し者かもしれませんぞ。これまでの行動も、我々を信用させるためだったと考えれば辻褄が合いまする」
その発言に激昂するイワン。
「貴公、セーマ殿を魔族の回し者呼ばわりするのか!」
「あくまで可能性の1つを述べたまでです。それもこれもそちらが彼の出自やこの度の行動の理由をはっきりと示さないのが悪いのではありませんか?そのためにわたしも彼を可能性で語らなければならなくなっているのですぞ!」
揚げ足を取られるイワン。
どうやら口はイワンよりクレメンスの方が上手のようだ。
それを見てエリックが加勢に加わろうとした時、サルマンが口を開いた。
「古来より聖女は聖魔を見分けるといいます。その宣告ともなれば当然聞き入れねばなりません。しかし、セーマ殿のこれまでの功績を考えれば、それひとつをもって処断するなどあってはならないことです。この件をこの場で断ずるのはむずかしい。国王陛下、この件は日を改めて議論し直した方がよいと思われますが・・・」
この発言にイワン、エリックは驚いた。
セーマがこちらの陣営にいる以上、当然サルマンはセーマ排除の側に付くと思っていたからだ。
「そうだな、ここにいるメンバーだけで結論が出せる問題ではないな。今日はここまでとし、続きは後日王宮にて行うこととする」
国王アーサーがそういうと会議は閉会となった。
会議室から立ち去るサルマン、その後を追うイワン。
「伯よ!」
イワンの呼びかけに振り向くサルマン。
「モロゾフ公、いかがした?」
「まさか、伯がセーマ殿の援護に回るとは思わなかったぞ。なにが目当てだ?」
「別に・・・。ただ、英雄だ救世主だと騒がれていた男の正体が、実は魔王でしたなどと世間に発表できるか?この間、辺境で魔族と揉めたばかりなのに?我々はその男を国賓として招いたのだぞ?穏便に済ませる手立てを考えねばならんだろ?」
確かにその通りである。
そんなことが公になったら王宮も政府も赤っ恥である。
マスコミも多数会場に来ていたが、今のところ大きな騒ぎになっていない。
この件に関してはすぐさま規制をかけたからだ。
しかし、もう噂は流れているはず。
いつまでも隠し通せることではない。
ただ、これはイワンたちを追い落とす良い口実でもあったはずなのだ。
それをサルマンはみすみす見逃したのである。
イワンが勘ぐるのも無理は無い。
「なにわともあれ、助かった。礼をいうぞ」
「なに、礼には及ばん。それにあのクレメンスとかいう男、気をつけたほうがいいぞ。聖女が絡むとなにをしでかすかわからん」
そういうとサルマンはイワンに一礼し退出した。
イワンもそこを離れようと踵を返したとき、エリックが駆け寄ってきた。
「シルビアとグロリアが、セーマ殿の居場所を突き止めたそうです」
イワンの耳元で囁くエリック。
「ほう、早いな。で、どこにいるんだ?」
「王宮の地下牢とのこと」
(なるほど、灯台下暗しか・・・)
イワンは今後どう動くか考え始めていた・・・
◇
「そんなわけで、イワンたちの肩を持つ形になっちゃったんだけど、これで良かったのかな?ゴードン?」
サルマンは屋敷に帰ると、すぐさまゴードンに相談していた。
「それで正解です。よう判断されましたな。このゴードンが側にいたとしても、同じ内容の助言をしていたでしょう」
「そ、そうか。でもこれはおぬしの意向とは逆だと思うが、どうしてだ?」
実は先日、モルドラントが来たとき(#19)彼は十三人会からの要請を伝えにきていたのだ。
その内容とは「セーマを抱き込み魔族討伐軍の切り札とせよ」である。
しかしこれにはゴードンが猛反対した。
ある意味、魔族以上に得体の知れないセーマなどに関わる必要は無い。
ゴンドワナから流入してくる魔法石は以前の数十倍。
別にセーマがいなくとも魔族討伐軍は魔族に勝てるのである。
そんなことより、セーマの存在自体がゴードンには厄介だった。
人気があり、圧倒的に強い。
そんなのがイワンの陣営にいるのである。
なにもしなければ、みんなそっちになびいてしまう。
それだけはなんとしても阻止しなければならなかった。
当然、本来ならさっさと始末しておかねばならない存在なのだが、強すぎて謀殺できない。
もしやっても返り討ちにあう可能性が高い。
特に人の目の多いここ王都で、有名人のセーマに手を出すのは危険であった。
下手をすると自分たちの首を絞めることになりかねない。
それでゴードンは手をこまねいていたのだ。
「あのときはセーマなど、手間をかけて引き入れる必要などなかったのです。しかし、状況が変わりました。」
ゴードンのいうことはこうである。
・今の状況なら十三人会のパイプを使えば、イワンたちに恩を売りつつ簡単にセーマを取り込める。
取り込んだ上で、エリザベス陣営で魔族討伐軍を起こせれば
・セーマを切り札に使え、同時に王都から追い払える。
・討伐がなれば、その功績からエリザベスの王位はほぼ確定する。
・十三人会の意向に沿う形になるのだから、金も兵も出させることができる(こちらの懐は痛まない)
・クレメンスの肩は持たないので、セーマを批判した彼はいづれ失脚するだろう。そうなればサルマンはユニに接近しやすくなる。
・セーマは利用するだけ利用して、いづれ始末する。その時のために人々の目の届かない魔界にいてくれると好都合。死んだ理由など後でなんとでも付けられる。
「ゴードン、見事だ!」
話を聞き終え感嘆するサルマン。
「せっかく転がり込んだ有利な状況、活かさない手はありません。十三人会に存分に働いてもらいましょう」
ニヤつくゴードン。
「ではゴードン、具体的には次になにをすればいいのだ?」
「まずはセーマをこちらの陣営に引き込まねばなりません。そのためにはまず・・・」
2人の楽しげな笑い声が、部屋から漏れていた・・・
◇
ホテルの一室。
そこにはイワン、エリック、スーザン、シルビア、グロリアが集まっていた。
「殿下は?」
イワンが訊ねた。
「王宮に戻られました。王太子殿下のお側を離れられないご様子でした」
スーザンが答えた。
リチャードがスカーレットに張り付いて離れなかったのだ。
引き離そうとすると泣き叫ぶので、スカーレットが折れたのだ。
「しかし、おかしなことになりましたな。まさかセーマ殿が監禁されるとは」
そういうのはエリックである。
「魔王の嫌疑を掛けられただけだ。別に悪いことをしたわけではないのですぐ開放されてしかるべきだが、
あのクレメンスとかいう男がなにか仕掛けてくると面倒なことになるな。だから次の会議までに十分な対策をしなければならない。まずは情報の整理だ。あの聖女とはなんなのだ?いきなりセーマ殿を魔王などと言いおって・・・」
イワンのこの質問にグロリアが答えた。
「来歴はゴンドワナの港町の教会に突然現れたとしかわかっていません。しかし、会う者はみんな彼女の姿、声に神々しさを感じてひれ伏してしまったとのこと。その話を聞いた聖十字教会の司祭たちが彼女に会いに行くと、それもあっという間にひれ伏してしまって、結局、ゴンドワナ支部のトップである大司教が彼女を聖女と認定してしまったらしいです」
次にシルビアが口を開く。
「聖女はこのパンゲアの歴史に度々登場しています。多くの場合、危機が訪れようとするときに現れ、人々を導いてきたといわれています。そして神の裁きの代行者たる戦士を伴うこともあるとも記されています」
「その代行者がセーマ殿なら辻褄が合うのだがな・・・。残念ながら戦士ではなく魔王といわれてしまった」
イワンがため息をしながら答えた。
「ともかく早急に魔王という疑いを晴らさなければなりません。となると教会の方から《間違いでした》と言わせないといけませんね。だれか教会の関係者を知りませんか?イワン殿?」
スーザンがイワンに問うた。
「知ってはいるが、どうも最近の教会は信用ならんでな・・・。スーザン殿も知っておろう、十三人会のことを」
「教会内部を牛耳り始めたみたいですね・・・。危惧はしていたのですが、だれも迂闊には手を出せないようですね」
「わしもやつらが信用できないのでな、接触してきても全て拒否してきたのだ。こちらの派閥の連中にも関わらないように通達を出しておいたが、噂だとサルマンが通じているらしい」
「サルマン殿が?」
「金が欲しいからな、奴は・・・。まあ、それは置いておいて十三人会とは別のルートで教皇に頼めるようにやってみるよ。まずはそこからだ。シルビアとグロリアはセーマ殿の周辺を監視しててくれ。エリックと俺は教会に。スーザン先生は魔導士協会に接触してみてほしい。十三人会はそちらにもかなり食い込んでいるようだからな。どんな感じか探って欲しい。ひとまず以上だ」
イワンが各人に指示を出すと全員すぐに行動を開始した。
◇
モルドラントは例の部屋でグランドマスターに会っていた。
「そうですか、セーマは監禁されましたか」
そういうとグランドマスターは笑い出した。
図らずもユニがセーマを魔王認定して監禁してくれたのだ、おかしくないわけがない。
「グランドマスター、それとサルマン伯から先日の依頼の回答を預かってきています」
「ほぅ、それで?」
「依頼お受けします。しかし、引き受けるに当たって便宜を図っていただきたいことがあるとのこと。それが引き受ける条件だそうです」
「向こうも、なかなか状況を見ているようですね。しかし、こちらもその条件を飲むかどうかは、これからこの試しがどうなるか見てからです」
そういうとグランドマスターは机の引き出しから、手で握れる大きさの赤い球体を取り出した。
「なんですか、それは?」
「わたしの僕ですよ。せっかく舞い込んだチャンス、無駄にはできませんからね」
そういうとクスクス笑い出したのだった。
◇
ここはスカーレットの部屋のバスルーム
ようやくスカーレットは一息ついて風呂に入っていたところだ。
(はあ、セーマ殿どこに連れてかれたんだろう・・・)
スカーレットも当然会場にいたのだが、セーマが魔王宣告された後リチャードに泣きつかれたため、イワンたちと別行動となり、そのまま王宮の自室に戻っていた。
そのため、セーマがここの地下の隔離部屋にいることを知らない。
鏡を前に身体を洗うスカーレット。
すると突然後ろの扉が開き誰かが入ってきた。
そしてそのまま後ろからスカーレットに抱きついた。
「ねーさま!」
そういうのは裸のリチャードであった。
「リチャード!どうしたの急に!」
「一緒に入るーー」
「どうしてここに?ジークは?」
「お外!」
「もう!なにやってんのよジークは!」
そうはいってももうここまで入り込まれたらどうしようもない。
「もう、わかったわよ。リチャードそこに座んなさい。身体洗うから」
「はーーーい」
そしてたっぷり風呂場でスキンシップをさせられるスカーレットであった。
◇
ここはスカーレットの部屋。
彼女はすでに風呂からあがり、着替えている。
スカーレットの前には正座で、すまなそうにうつむくジークがいた。
「で、これはどういうわけ?ジーク」
「申し訳ございません・・・」
平謝りのジーク。
「そんなに怒らなくてもいいじゃない。リチャードがかわいくないの?」
そういうのはエリザベスである。
寝巻きのままで、お菓子をほおばりながら、りチャードとじゃれている。
「とゆうか、なんでねーさんがここにいるんです?」
こめかみをピクピクさせながらスカーレットがエリザベスに問う。
「なんでもなにもパジャマパーティーよ!さ、あなたも一緒に楽しみましょう!」
「結構です。あたし疲れてますからもう寝ます。やるなら勝手にジークとやってください!おやすみなさい!」
そういうとさっさとベッドに入ろうとするスカーレット。
「やーん、恐い。リチャード、じゃあ、こっちで3人でやりましょう」
そう言いリチャードの手を引こうとした。
「僕、ねーさまと寝る!」
そういうとエリザベスの手をすり抜けスカーレットのベッドに潜り込むリチャード。
「ちょ!リチャード!」
困惑するスカーレット。
「あ~~ん、リチャードに振られた~~。寂しいようジーク!」
そういいながらジークに抱きつくエリザベス。
「殿下、さすがにそれは・・・」
同じく困惑するジーク。
「いいじゃない、昔はみんな一緒にお風呂に入ってたんだし。なんならこれから入りましょうか?」
面白半分にジークを挑発するエリザベス。
「ねーさん、いいかげんにして・・・」
ついにスカーレットがキレて怒り出した。
だが、それをよそ目にリチャードの視線が窓の外に釘付けになっていた。
「ねーさま、ねーさま、赤い光がお外に落ちたよ?」
スカーレットの寝巻きの裾を引っ張りながら、そのことを訴える。
赤い光が落ちるのを見ていたのはリチャードだけではなかった。
ジークフリードも見ていた。
「なんでしょう、今のは?明らかに不自然なものでした。殿下、わたしはちょっと確かめてきます」
そういうとジークは一礼して、部屋を出ようとした。
「ジーク、僕も行く!」
リチャードは好奇心一杯という顔をしてジークを見上げた。
「殿下、危のうございます。ここはジーク1人にお任せを・・・」
そういうとリチャードをスカーレットとエリザベスに任せて、部屋を出て行った。
◇
セーマは目を覚ました。
旅の疲れが溜まっていたのかぐっすり眠っていたようだ。
(今、何時だろう?)
時間が気になるが、あいにくこの部屋には時計が無い。
「守衛さ~ん、今何時ですか?」
セーマは扉の前で番をしている守衛に声を掛けた。
「おお!セーマ殿、お目覚めですか?今は、夜の10時過ぎですよ」
英雄セーマの名が知れ渡っているのだろう。
比較的、この守衛はセーマに好意的である。
それから2人は扉越しにあれこれ世間話を始めた。
小一時間は話し話題も尽きかけた頃、コツコツと誰かがこちらに近づいて来る足音がした。
その足音は部屋の前で止まった。
「えっ、あなたは!」
驚く守衛の声。
「こんばんわ」
それは女性の声であった。
どこかで聞き覚えのある声・・・
だが、すぐに扉に鈍い音がした。
まるでだれかが扉にもたれかかり、そのままズルズル倒れこんだような音だった。
本能的に守衛になにかあったと悟るセーマ。
「おじさん、おじさん!どうしたの?大丈夫?」
部屋の中から守衛の身を案じて呼びかける。
そのセーマの声を聞きた女はニヤリと笑い
(やっぱりいたわ)
そう思うと、守衛のポケットを探ってカギを取り出した。
(なにか来る)
本能的に危機を感じるセーマ。
しかもそれが半端なかった。
いままでセーマはこれほどの危機を感じたことはなかった。
しかも今は丸腰・・・。
セーマはこの世界に来て、最大の危機に直面していた。
ガチャ・・・
扉のカギが開く。
ギィ~~
扉が開く。
そしてその扉の向こうに立つ女性・・・
「セーマ・・・」
それは笑みを浮かべたユニの姿であった。




