#20 式典
ホテルに荷を降ろし、すぐに会場入りする一行。
そこには国王アーサー以下、国の重鎮たちが、英雄セーマを待ち受けていた。
主役のセーマの登場に割れんばかりの拍手が起こる。
そして、お定まりの国王の挨拶、セーマの紹介が行われた。
セーマのこれまでの活躍はみんな知っている。
会場のみんながセーマを受け入れてくれたようだった、彼女が挨拶するまでは・・・
会場は歓談の時間帯となった。
会場の有力者がセーマに集まる。
実力者であるイワンがセーマのそばにいるため、イワンと面識のある者たちは集まりやすかった。
ここに来るまでは色々な噂があって、みんな及び腰であったが、それが杞憂であったことがわかるとどんどんひとが集まった。
当然、会場の美女たちも黙っていない。
少しずつセーマの周りに集まりだした。
「ブー」
ブーたれるのはシルビアである。
「なにブーたれてるのよ、シルビア」
「もー、心配じゃないのグロリアちゃん。セーマさまが誰かに取られちゃうかもよ?」
「大丈夫よ。セーマさまがあたしを裏切るなんてありえないわ」
自信満々のグロリア。
「その割にはさっきからちらちらセーマさまをみていらっしゃるわね」
そういうとシルビアは、スタスタとセーマのところに歩いていった。
「ちょ、待ってシルビア」
その後を追うグロリア。
シルビアはセーマの後ろにつくと、セーマの尻を指でつついて合図した。
それに気づくセーマ。
シルビアはセーマにメモをそっと渡し、耳元で囁いた。
「これあたしのルームナンバーです。今晩もお世話させて下さいね」
同じくグロリアもメモを手渡す。
終わると周りの女性陣の中にすっと溶け込む2人。
さすがにわきまえている。
そんなセーマをじっと見つめる娘がいた。
スカーレットである。
シルビア&グロリアのように上手に立ち回れるわけが無い。
ストローでジュースでブクブクやりながら、ムスッと膨れている。
(もう、やっぱり女性にだらしないんだから!)
スカーレットはこのセーマに対する気持ちがなんなのかいまだに分からずにいた。
あるはずも無い記憶、だが彼女にはたしかに現実に起こったことなのだ。
そして彼を初めて見たときのドキドキ感、なぜか以前どこかで感じたことのあるものなのだ。
(どうして思い出せないんだろう・・・)
そんなことを考えていると、突然、前側から両足を抱きしめられた。
(えっ?)
驚いて下をみるスカーレット。
「ねーさま!おかえりなさい!」
それは彼女の弟で王太子であるリチャードであった。
「リチャード!どうしてここに!」
「父上がね、ねーさまに会ってきなさいって!」
そういうとリチャードは顔をスカーレットに擦り付けてきた。
まだ7歳、母親に甘えたい年頃である。
スカーレットが父である国王アーサーを見ると、目が合った。
その目は優しく、こちらを見つめていた。
(リチャードを甘えさせてやってくれ)
その目はそうスカーレットに語りかけていた。
(しかし、ということは守役の奴がこのあたりにいるとゆうことか)
スカーレットがそう考えた途端、聞き覚えのある声がした。
「リチャードさま、こちらでしたか!」
姿を現したのは、守役のジークフリードである。
イワンの長男で20歳。
現在リチャードの守役として出仕している。
優男であるが、幼少時よりイワンに鍛えられており、実力はある。
「あっ、スカーレットさま、お久しぶりです」
相変わらず、儀礼的な挨拶。
幼馴染であるが、イワンに身分の違いを徹底的に叩き込まれているため、決して歩み寄ってこない。
それがいつのころからかスカーレットをイライラさせていた。
「お久しぶりね、ジーク」
それだけいうと、膨れっ面でプイッと顔をそむけるスカーレット。
それで会話は終了。
ジークとしてももっと色々話したいところであるが、スカーレットとは最近いつもこんな感じなのである。
以前はもっと自然に話せたのに・・・
「相変わらずスカーレットにいじめられてるのね、ジーク」
そういってジークを後ろから抱きしめる女性がいた。
王位継承権第二位のエリザベスである。
「こんなめんどくさい女ほっといて、こっちに来なさいよ」
そういうとジークの右手を引き、自分たちのテーブルへと連れて行こうとした。
するとスカーレットはジークの左手を掴み、それを阻止した。
「ジークは役目中よ。勝手なことしないで」
怒るスカーレット。
「あら~、お久しぶりね。スカーレット。ずいぶん長い任務だったわね。経費がかさんで大変ってみんないってたわよ~~」
今回のスカーレット隊の遠征費用は、任務の内容を考えるとかかりすぎであった。
その点を突いてこられると痛い。
途中エリザベズ陣営からの横槍もあったが、証拠がないので反論もできない。
「あなたがいなくて(からかう相手がいなくて)寂しかったのよ~。あなたも一緒にこっちに来なさいよ。前みたいに3人で楽しくやりましょうよ」
「結構です。リチャードがいますので。行きたければ2人で行って下さい。ジーク、役目を放って姉さんと2人でどこへなりと行ってください!リチャードにはわたしが付いてますので御心配無く!」
「頼もしい言葉ね。さすが我が妹!ジーク、さあ行きましょう!」
腹は違えど、王女姉妹である。
そのケンカに巻き込まれてはジークもやりようがなかった。
「相変わらずの優男だな、ジーク。エリザベス、こんなやつのどこがいいんだ?」
そういうのはサルマンの三男、アントンである。
歳はジークと同じ20歳で、3人とは幼馴染でもある。
しかしジークと違い甘やかされて育ったせいか、実力がないくせに生意気である。
そのせいかエリザベス、スカーレットによく思われてない。
ちなみにジークとは同じ学校で同級生であったが、学業も武芸もジークに一度も勝ったことがなかった。
「そんなの決まってるでしょ!顔よ、顔!」
エリザベスが答える。
ジークはイワンの若い頃そっくりといわれるほどの美形であった。
「ジーク、お前ってホント要領悪いよな。見ていてイライラするわ・・・」
少々酔っ払っているのかアントンがジークに絡んできた。
「なにジークに絡んでるのよ、なんの役目にも付いてない人がいう言葉?」
エリザベスがアントンをたしなめつつ、ジークの手を引こうとしたとき、イワンが現れた。
「あら、イワンお久しぶり」
「お久しぶりです。エリザベス殿下。申し訳ありませんが息子は役目中です。戻してやってくれませんかな?時間が空いたときに此度の埋め合わせはさせますので」
「わかってるわよイワン。久しぶりに妹と会ったから、ちょっと昔みたいに遊んでみたくなっただけよ」
エリザベスの了解を得るとイワンはジークに向き直り叱責を始めた。
「いかに殿下のお誘いとはいえ、役目を放り出すとは何事だ!」
「はっ、申し訳ありません」
「さっさと役目に戻れ」
そういわれるとすぐさまリチャードの元に戻るジーク。
「相変わらず甘いな、貴様たちは」
そう言って現れたのはサルマンであった。
◇
「おやおや、これはアーレンベルク伯」
「ひさしぶりだな、モロゾフ公」
イワン・モロゾフ公爵、これがイワンのフルネームと爵位である。
「伯よ、またケンカを売りに来たのかな?」
ニヤッと笑うイワン。
「いや、残念だがそれは今度だ。今日の目的はあれだ」
そういってひとりの女性を指差した。
その先にいたのはユニであった。
◇
ユニは今日も朝から仕事で出ており、この時間になってようやく来れたのだ。
しかし、ついにセーマと会えるのである。
会場に入り、すぐ彼を捜すユニ。
会場で一際、人だかりができている一角がある。
その中心に見覚えのある姿が・・・
(セーマ・・・)
見た瞬間、涙がこぼれる・・・
しかし、ようやく会えたのも束の間、ユニも会場の男性陣に取り囲まれてしまった・・・
◇
「おい、聖女ユニが来たってよ!」
「どこどこ?」
「あそこだよ、ああ、もう人だかりになってる」
「いってみようぜ」
セーマの周りのマスコミ関係者、会場スタッフらは、ユニが現れると一斉にそちらに移動して行った。
「聖女?ユニ?」
セーマは何だと思い、その方向を見た。
その姿、どこかで見たような気がする。
しかし、思い出せない。
(まあ、いいか。今はそれどころじゃない。集まった女性たちの相手をしなければ)
そう思うと周囲に集まった女性陣に笑顔を振りまきだした。
◇
(全く、ジークもセーマ殿もなによ。女性に会うとすぐデレデレしちゃって。どうして男の人はみんなああなんだろう・・・)
そう考えながら、会場をフラフラしているスカーレット。
すでにリチャードの守役はジークが引き継いでいる。
そんな中、ユニをチラッ見かけた。
その瞬間、また既視感に襲われる・・・
(あの金髪のひと、どこかで見たことがある・・・)
以前激しい既視感に襲われた際(#17)に、脳裏に蘇った女性が、ユニにソックリなのである。
(一体どうしてちゃったの、わたし?)
セーマと会って以来、おかしくなりつつある自分に不安を覚えるスカーレットだった。
◇
サルマンは、再チャレンジとばかりにユニに近づいた。
今回は前回のように、周りに気を使い消極的に接するようなまねはしない。
ユニの周りにいる男たちはみんなユニが狙いなのである。
そこまで頑張る気がないやつらは、今この場に来ていない。
(すでに獲得競争から降りているということである)
なので、遠慮なく2大勢力筆頭貴族としての力を使い、ユニの目の前に立ちはだかった。
他の男たちはサルマンが相手では引かざろうえなかった。
「聖女ユニよ、今日もご機嫌麗しゅう・・・」
などとお決まりのセリフを連発するサルマン。
しかし、ユニは彼など気にも留めてなかった。
ユニの視線の先にはセーマしかいなかった。
(セーマ・・・)
すぐにでも彼の元に行きたいのだが、男共が行く手を遮る。
お得意の「チャーム」※を使って、みんな手なずけてしまうという手もあるが、あれは諸刃の剣であり、場合によっては、男共がユニを取り合って大騒ぎになりかねない。
※ユニは笑顔一発で人の心を捉える能力を持っている。ただし、稀に効かない人もいる。
仕方なくセーマを遠目で見つめるユニ。
サルマンがなんか話しているが全く聞いてない。
セーマがいる・・・
見ているだけで涙が出てくる・・・
セーマがしゃべってる・・・女性と・・・
(ダメ、あたし以外の娘と話しちゃダメ・・・)
セーマを女たちが取り囲んでいる・・・
(ダメ、あたし以外がセーマに近づいちゃダメ・・・)
セーマが女たちと楽しそうに盛り上がっている・・・
(あたし以外と楽しそうにしちゃダメ~~~)
ユニの心に心理的ストレスが積み重なっていく。
だんだん顔がヒクついてくる。
しかし、それを顔に出さないように必死に堪えるユニ。
そのストレスがセーマに向かいだす・・・
ちょうどその時、横にいたクレメンスがユニに耳打ちをした。
「どうです?やつは?やはりなにか忌まわしき者の類ですかな?」
「それについては、ご挨拶の席で・・・」
ユニの顔は笑ってない・・・・
そこから少し離れたセーマの席。
相変わらず女性陣に取り囲まれている・・・
しかし、セーマもユニが気になっていた。
横目でユニを観察してみると・・・
(かなりかわいいな・・・。小柄だけどスタイルもいい・・・)
そしてユニが明らかにこちらをチラチラ見ているのがわかる・・・
彼女が自分に興味があるのは明白であった。
しばらくすると、ユニが会場の中央ステージに呼ばれた。
これから、一言挨拶するとのこと。
壇上に上がるユニ。
その姿に会場の男性陣から、うめき声があがる。
その立ち居振る舞いだけで会場中を魅了するユニ。
念の為、「チャーム」も振りまく・・・
もはや会場はユニの支配下といってよかった・・・
「みなさま、わたくし、このたびゴンドワナから来ましたユニと申します」
「本日は、英雄とも救世主とも呼ばれているセーマさまにお会いできて光栄に思っております・・・」
「そして、突然ですが、わたしは今からみなさんに重大な発表をしなければなりません、それは・・・」
ユニの顔は少しヒクつき、笑っていなかった・・・
「その男、魔王です。いますぐ捕らえて下さい」
和やかだった会場が、一瞬で凍りついていた・・・
登場人物紹介
ジークフリート・モロゾフ
T180 20歳
イワンの長男
現在、王太子リチャードの守役として出仕している。
父親に似て真面目でやさしい性格である。
加えて非常にハンサムである。
幼少時より、モロゾフ家の次期当主として厳しく育てられており、武芸、学業、ともに掛け値なしで優れている。
王太子の守役として抜擢されたのは、彼が名門貴族であるからではなく、実力があるからである。
アントン・アーレンベルク
T178 20歳
サルマンの三男
エリザベスの従兄
ジークフリートの幼少時よりのライバル(と、彼は思っている)
同い年のため常に彼と比較されてきた。
全てにおいて彼に一歩後れを取り、今まで一度も勝ったことが無い。
そのためか性格が卑屈になり、ひねくれたところがある。
彼が甘やかされて育ったため、ジークに一度も勝てなかったと周りの者は思っているが、実際は、常に必死に努力していた。
打倒モロゾフを掲げる家内で、甘やかされるわけがなった。
(特にゴードンが目を光らせており、サボるなどありえなかった)
生意気そうにみえる態度、言動も、頑張っても勝てなかったことを隠すためである。
(そのことは、ジークもエリザベスも知っている。が、彼のために敢えて騙されている振りをしている)




