#15 教え子たち
移動2日目の夕方。
すでにセーマたちは次の宿泊所についていた。
そんな中、スカーレットは部屋で思い切り悩んでいた。
「これはダメ、夜会用、派手すぎる。これもダメ、お忍び用、地味すぎる」
セーマに会いに行くときの服装が決まらないのだ。
さっきは軽く「会いに行く」などと言ったが、いざ行くとなるとあれこれ考えてしまう。
その辺はやはり女の子である。
「ダメだ決まらない!こんなとき、ばあや、がいれば!」
ばあや、とは、スカーレットの乳母である。
王宮において、スカーレットの世話係兼教育係であった。
服装など、スカーレットはいままで考えたことはなかった。
全部ばあやが用意してくれてたので、考える必要がなかったのだ。
スカーレットは、仕事での旅ということで、必要最低限の服しか持たされていなかった。
いままでなんでも、ばあや、まかせであったがため、いざとなるとなにも決められなくなる。
普段、強がってはいても、温室育ちのお嬢様なのである。
「まさか、イワンに相談するわけにもいかないしな・・・。いや、奴に聞かせられない話をしにいくわけだから、相談するなどありえないし・・・。ああ、時間ばかり過ぎていく・・・」
こうして悩むこと2時間・・・
あたりはスッカリ暗くなっていた。
で、結局、スカーレットはというと、普段の騎士装束のままでセーマの部屋を訪れようとしていた。
(わ、わたしはあくまで仕事のことでセーマ殿に相談をしに行くのだ。いや、本当は違うのだが、そういうことにしないと、イワンに怪しまれるし。そもそも、イワンに内緒だし・・・。もしこの訪問がバレたときも、この服なら言い訳しやすいし・・・)
などなど、あれこれ考えつつ、スカーレットはセーマの部屋に到着した。
緊張するスカーレット。
考えてみれば、お忍びで男の部屋を訪れるなど、初めてのことなのである。
勇気を振り絞り部屋をノックする。
返事がない。
もう一度ノックをする。
やはり返事がない。
(おかしい、この時間には部屋にいてくれるよう約束したはずだが?)
すると、部屋から声がする。
セーマの声だ。
(やはりいるのか!)
うれしくなるスカーレット。
だが、なんかおかしい。
誰かと言い争っているようだ。
「殺す!」
今、確かにそう聞こえた。
その後も、なにかうめき声のようなものがする・・・
スカーレットはセーマの身が心配になった。
ドアノブを握る。
鍵はかかっていない。
スカーレットは、勝手とは思うが、ドアを開け部屋に入ることにした。
「セーマ殿、失礼して入らせてもらう。なにかあったのか?」
そういいながら、恐る恐る部屋に入るスカーレット。
だが、その目の前に現れたものは
全裸で抱き合いながらキスをするセーマとグロリアの姿であった。
◇
約2時間前
宿泊所のシルビアの部屋。
セーマは到着早々に、こっそりシルビアの部屋に入った。
隣部屋のグロリアが、パタパタと外へ出て行く音がした。
おそらくセーマの部屋に行ったのだろう。
今日の護衛の準備というところか・・・
出て行ったのを確認すると、シルビアを振り返り、話しかけた。
「手筈は?」
「順調です。私の知り合いの魔導士にめぼしい場所をピックアップしてもらっています。ただ、感づかれて逃げられる恐れがあるので、捜索はセーマさまが部屋に入ってから一気に開始します。操り主が完全に集中しだして、本体が無防備になっているときを狙います」
「おそらく操り主は魔導士だろう。部屋にトラップを仕掛けてくるはずだけど、大丈夫かな?」
「ご心配なく、私の知り合いは凄腕なんです。実は私たちの教官だった方なんです。とても素敵な方なんですよ!あとでご紹介しますね」
そういうとシルビアはすごくうれしそうな顔をした。
「あと、実はエリックに、このあと一緒にセーマさまの部屋を監視しようと誘われたんですけど、受けることにしました。状況を教官に逐一報告することになっていたので」
シルビアはそういいながら、紙でできた護符のようなものを見せてくれた。
これを持っている魔導士同士なら、近距離ならテレパシーで直接会話できるらしい。
「ですので部屋の窓のカーテンを引かないで欲しいのです」
セーマは(なるほど)と思った。
実は宿泊所に入る直前にエリックに入れ知恵されたのだ。
以下、セーマのその時の回想。
「セーマ殿、前に酒の席で、グロリアから聞いたのですが、実はグロリアは青姦フェチっぽいですぞ。彼氏と野外ですると燃えると言ってましたので」
「なぬ?本当ですか、それは?」
「本人がたしかにそう言ってましたので。ですので今日はカーテン全開、窓全開、場合によってはバルコニーですると彼女は喜ぶかもしれませんな」
「さすがにバルコニーはちょっと・・・」
「なに心配ありません。今日のセーマ殿の部屋は3階です。この周辺に3階のバルコニーを覗ける高層の建物はありません。あっても遠すぎて、まず気がつかないでしょう」
「なるほど。それは燃えそうなシチュエーションですな!」
「がはははっ」といやらしく笑う2人。
セーマの回想終わり。
その遠すぎる高層の建物からセーマとグロリアの青姦シーンを望遠鏡で覗こうということなのだろう。
シルビアと2人っきりで!
「エリックと2人きりで大丈夫?奴の狙いは君だよ?」
そういうセーマを抱きしめるシルビア。
「大丈夫です。わたしはあなたのものです」
そんな彼女を抱きしめ返しキスをするセーマ。
もうセーマの下半身は暴発寸前である。
「シルビア、抱きたい」
「はい・・・」
2人はそのままベッドに横たわった。
◇
その覗きポイントの部屋からセーマの部屋を眺める人物がいる。
いわずと知れたエリックである。
ベッドには当然のごとくホステスが汗だくで息を切らしていた。
エリックも当然のごとく裸にガウン、右手にはワイングラスのスタイルである。
やったばかりにも関わらず、エリックのあそこは怒張し、いきり立っていた。
「やっとこの時が来た。今日こそシルビアの身体を我が物としてくれる」
エリックの頭に、今日の作戦が展開される。
まず、シルビアをセーマに見つからないようにこっそり部屋に連れて来る。
これはシルビアの承諾を得ているので問題ないはず。
部屋到着後、軽くワイン(媚薬入り)で乾杯。
次に、セーマの部屋を覗く段取りに入る。
まず、セーマの部屋を確認。
望遠鏡は2つ用意してある。
セーマの部屋から見つからないように部屋の明かりを消す。
2人で並んで覗き開始。
(ここからが本番だ。普通なら、こんな青姦など見たがる女の子はいない。シルビアもそうだろう。だが、今回はセーマとグロリアなのだ。2人に特別な感情がある以上、どうしても見たくなるはず。そして一度見てしまえば、こっちのもの。シルビアは昨日セーマに女にしてもらったばかりの火照った身体。そのセーマをよりによってグロリアに取られるのである。セーマに対する性欲とグロリアに対する嫉妬でこれまでにないほど興奮するはず。興奮すればするほど理性が効かなくなる。そこを俺が後ろから襲う!頭では俺を拒絶しようとするだろうが、身体はそういうまい。そのままなし崩しに押し倒してやる!そして、彼女が満足するまで抱き続けるのだ!そうすれば、その性的興奮が俺に対しての興奮と錯覚するようになり、今後は俺を見ただけで興奮するようになるだろう。これぞ、エリック流吊り橋効果!)
エリックの頭の中では、すでに、覗きポイントのバルコニーでシルビアの胸を後ろから揉みしだき、バックから突きまくる妄想が延々たれ流されていた。
(シルビア、今日こそ俺の女にしてくれる!)
さらに怒張したあそこをセーマの部屋方向に向け、ワイン片手に高らかに笑うエリックであった。
◇
ここは前日の宿場町。
とある宿の一室に数人の魔導士がいた。
全ての宿の昨日からの宿泊リストを片手に、黒人の女性魔導士が部下に指示を出している。
彼女こそシルビア&グロリアの教官であった魔導士、スーザン・アントニオである。
「昨日からの宿泊客の中で、部屋を出た形跡のない客を絞り込んだ。なんと1人しかいなかったよ!」
全員噴き出して笑う。
「今から捕らえにいくけど、どんな奴か分からん。トラップがなにかもな。私の教え子が奴の操り人を監視しているから、彼女の連絡で行動するからね。私の指示がない限り勝手に動かないこと。いいわね?」
全員から了解の返事がある。
(シルビア、あんたの腕が頼りよ。魔法学校主席がマグレじゃないところをあたしに見せて頂戴)
スーザンは、卒業式でのあの事件がなければ、もっといいコースを歩めていた教え子の学生時代を思い出していた。
シルビアは才能抜群なのに、グロリアの活発さと明るい性格、同性からの人気のために、霞んでしまい、いつも2番手に甘んじていた。
それに容姿も幼く、鈍くさく見えてしまい損をしていた。
その彼女が意地を見せ、卒業直前に総合成績でグロリアをわずかにかわし主席の座をもぎ取ったのである。
そして、迎えた卒業式、その実力を皆の前で証明する最後の試験が行われた。
順位はすでに決定しており、試験というより、儀式のようなものであった。
だが、グロリアは収まりがついていなかった。
シルビアも生来の負けん気から一歩も譲る気がない。
2人は例の爆発を起こしてしまい、宮廷魔導士ではあるが、内定していた王宮務めのエリートコースから一転、開拓地域管理官という聞いたこともないような役職の副官という閑職へと追いやられた。
2人セットで追いやられたのは、エリック以外の管理官が全員、2人とも扱いにくそう、と拒否したからである。
スーザンは2人の直接の教官として責任を感じ、自主退官。
学校側は猛烈に慰留したが、意思は変わらなかった。
そして彼女は、エリックと同じ開拓地域管理官という役職につき辺境を廻っていたのだ。
あくまで表向きはだが・・・
彼女は、2人とも必ず実力で這い上がってくると信じていた。
それだけに今回のシルビアには期待していた。
◇
こっそりシルビアの部屋を出るセーマ。
部屋を出たところで最後のキスをし、シルビアと別れた。
「あとは手筈どおりに」
そういうと、セーマはグロリアが待つであろう自分の部屋に戻っていった。
それをシルビアの宿泊所の外で確認しているのはエリックである。
(セーマが行った。よしシルビアを連れ出すとするか)
エリックはシルビアの部屋に向かった。
いつも以上に気合の入った服装で。
シルビアの部屋をノックするエリック。
「シルビア、エリックだ。約束どおり迎えに来たぜ!」
そういうと、ドアを開け、シルビアが出てきた。
「お待たせ。行きましょう」
シルビアもわかっていたらしく、すぐに出てきて、エリックの泊まる高級宿の部屋へと移動した。
部屋に着くなりシルビアはバルコニーに出て
「すごーい!町が一望できるわ!これなら良く見えそう!」
そういって喜んだ。
「ここからなら、ばっちり監視できるぜ!」
などと調子を合わせながら、エリックはこっそりワインに媚薬を入れていた。
「喉が渇いたろう、シルビア。まずワインで乾杯しないか?」
「いいわね!」
そういいながら、エリックから媚薬入りのワイングラスを受け取るシルビア。
それを見ながら、どきどきのエリック。
(シルビアが罠にはまっていく・・・)
そう思いながら、「じゃあ、乾杯でも・・・」といいかけた途端、ガチャンと物音がする。
「ごめ~ん、エリック。グラス落として割っちゃった」
テヘペロっと笑うシルビア。
「いいよいいよ。また注げばいいだけだし」
そういうと、すばやくまた媚薬入りワインを作り、彼女に手渡すエリック。
そして「じゃあ、気を取り直して乾杯・・」といいかけたところで、またガチャンとグラスが割れる音がした。
「ごめ~ん、エリック。また落としちゃった・・・」
このときのシルビアの目は、さっきとは違い、細目で、明らかにエリックを疑う目であった。
「はははっ、おっちょこちょいだな、君は・・・」
内心見抜かれたかとドキドキのエリック。
しかし、めげずにまた媚薬入りワインを作ろうと、さりげなく媚薬を入れようとする。
「なに入れてんの?」
シルビアにストレートに指摘される。
「こ、これは実は魔界産の香辛料で、ワインの風味を一層引き出すものなんだ。これを君に味わって欲しいな~~なんて思って!」
その場しのぎの言い訳をするエリック。
「ふ~~~ん、そうなんだ。でもシルビアは普通のワインが飲みたいな~~」
「も、もちろん、それでもOKだよ。あはははははっ」
そういうとまたワインを注ごうとするエリック。
今度はそのまま、何もせずに。
「もうワインはいいわ。それよりはやく監視を始めましょう。そろそろのはずよ」
そういうとシルビアはバルコニーに用意してあった望遠鏡で、セーマの部屋を探した。
シルビア対エリック。
序盤戦はシルビアの圧勝であった。
◇
セーマは部屋に向かう途中、シルビアの話を思い出していた。
(いいですか、セーマさま。セーマさまの予想どおりグロリアちゃんが魔導士に意識を乗っ取られているなら、今すごく危険な状態にあることになります。人質にとられているのと同じなのです。操り主は彼女の意識を強制的に催眠状態に置き、その隙に彼女の身体を乗っ取っているのです。彼女の意識は深層意識の中に閉じ込められています。操り主は彼女の意識の中でやりたい放題できるのです。その気になれば、彼女の精神をめちゃくちゃに破壊することもできます。そうなれば2度と彼女は目を覚ますことはないでしょう。そうさせないためには、操り主の本体を確保し、術を解除させるしかありません。しかし、どこにあるかわからない本体を捜すには時間が必要です。おそらく操り主の目的はセーマさまの殺害。ですから、セーマさまが近くにいるときは、セーマさまの殺害に全神経を集中するでしょう。それは同時に、本体の警戒がもっとも手薄になるということでもあります。その時間に捜さないとおそらく発見できないでしょう。ですからセーマさま、スーザン先生が本体を見つけるまで、時間稼ぎをしていただきたいのです。この護符をお渡しします。これを持っていれば、魔力の高いセーマさまなら、あたしとテレパシーで会話できるはずです。お願いします、グロリアちゃんを守ってあげて下さい)
彼女は最後のあたりは泣いていた。
普段はいがみ合っているくせに、本当はめちゃくちゃ心配していたのだ。
そんな彼女を悲しませたくない。
(グロリアが本当に自分の思うとおり操られているなら、必ず助けねば)※
そう決意するセーマであった。
※(この時点では、疑いがあるだけで、セーマ、シルビアともに確証は得ていない)
部屋に着いた。
このドアを開けた時、彼女が操られているかどうかハッキリする。
ノックをする。
「セーマさまですか?」
中からグロリアの声がする。
「そうだけど、入っていい?」
「ちょっとお待ちください」
そういうと中でバタバタ物音がする。
「どうぞお入り下さい」
そういわれてドアを開けるセーマ。
そこには裸エプロン姿のグロリアが三つ指をついて待っていた。
(ああ、確定か・・・)
嫌な方の予想が当たってがっくり来るセーマ。
グロリア本人なら、裸エプロンは絶対しない。
彼女がシルビアをからかうための嘘がそれだったからだ。
例えそれがセーマに受けたとしても、彼女の性格からして同じことはやらないだろう。
それだけ、シルビアに対して対抗意識が強いのだ。
しかしこれで、グロリアを傷つけずに助けなければならなくなった。
だが、直接の敵はグロリア本人である。
いままでのように、ただ敵をぶち殺せばいいというわけにはいかない。
(やっかいだな、今回は・・・)
予想外の難敵に苦手意識全開のセーマであった。




