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『この対戦、今世紀最高のカードといっても過言ではないでしょう』


(勝手にほざけ!)


 心の中で信二は、いやサン・オブ・バトルマスターは毒づく。

 そんな本人の心情など理解されぬまま実況アナウンスはシルバー社が用意したヴァーチャルリアルフィールドに特設、いやプログラムを組まれたドーム型の野球場を小型にした感じの闘技場に響きわたる。

『二十一世紀、新たなジャンルのゲームとして歴史に輝かしい第一歩をしるした久遠社が誇る『ブレイン・フィールド』。そのゲーム内で最強の称号、サン・オブ・バトルマスターを得ているヴァーチャル・リアル・バトルフィールド最強の男。

たかがゲームと侮ることなかれ、現実とは違う環境設定、武器のみならず魔法のような現象まで存在する世界ではありますが無敵。

一対一のデュエル方式の公式連勝記録12856。今なお進行中。例えるなら戦車、戦闘機、もしくは戦艦並の攻撃力を持った相手に、自分も同等の力を持っているとはいえ撃破。この記録は驚異的な数字であります。その凄まじさは闘った者なら誰しも頷くはず。その強さ、今夜もこの場で我等に見せつけてくれるのか!』


(……凝った演出で) 


 アナウンスが終わるやいなやパッと当てられたスポットライトに戸惑うことなく、彼はいつものように立ち振るまう。といっても変わったことはしていない。

 立っているだけ、――威風堂々と。


『なお彼は登録名をふせている上、誰しも最強の称号で呼ぶのですが、といってサン・オブ・バトルマスターではスピーディなバトルの実況が追いつかないおそれもありますので〔B〕と仮称させてもらいます』


 この会場には観客席はあるものの誰一人座ってはいない。

 それでも派手な演出に、実況までするにはもちろん訳がある。

 この対戦はインターネットでリアルタイムに中継されることになっている。かなり大々的に公表されたので、後で配信もされるにもかかわらずその時間のTVの視聴率を下げるのではと予想されている。


『対するはゲーム会社の雄、シルバー社が真剣勝負を極限まで追求して作られた『ザ・リアル』。


 来月中旬からアーケード版として全国で稼働するゲームなのですがテストプレイで実際の格闘技の猛者が絶賛するほどの出来ばえ。本日はそのテストプレイした格闘家の中から選りすぐられたこの四人だ!』


 バンと照らされたライトの先に四人の男が現れる。


(思ったほど悪くはないな)


 目に映った四人はテレビや雑誌でみた姿そのままであった。技術力から考えてもっと荒い映像を想像していたのだ。


(……まてよ)


 ふと思いつくことがあり自分の手を見る。相手は自分の身体を模したキャラクターを使っているが、信二は普段ブレイン・フィールドで使用しているゲーム専用の身体である。ブレイン・フィールドでは実在の身体でないのにも関わらず生身の肉体の様な色、質感がある。しかしここでは生で見ているのに自分の写真を見ているようだった、相手と同じように。画面越しに見ると違和感はないだろうが、実際にプレイしているとその差は歴然だった。

 もっとも相手はブレイン・フィールドを体験してないので、これが基本と思っているだろうが。


『格闘ファンにはもはや説明は不要ではありますが、それでは私の仕事が無くなりますので説明させていただきます。まず一番左に立つ男の名は中村巧一。オリンピック選考会直前に起きた疲労性骨折、それに伴って起きた靱帯切断。そのアクシデントさえ、それさえなければ金メダル確実といわれた選手。まだ癒えていない足ですが、この世界に完全な状態で参加。あのキレのある投げ技は今夜炸裂するのか!』


 照らしているスポットライトはそのままで、別のライトで個人に集中させる。四人の中で一番小柄ではあるが白い柔道着をまとっている姿は他に劣るものではない。


『続きまして力王! 角界で将来を嘱望されながらも早すぎる突如の引退。その後プロレス界に転身。その名の通り他を圧倒するパワー重視のスタイルと派手なパフォーマンスで一躍スター。今夜はどのようにわかしてくれるのか!』


 元相撲取りにしてはいわゆるアンコ型ではなく均整の取れた体型に異様とも思える筋肉をつけた男が、観客がいないにもかかわらず両腕を挙げて吠える。インターネットごしに見ている人間を意識してか、はたまた対戦相手を威嚇するためか……。


『続きまして二階級を制したボクシング世界チャンピオン、大橋昌樹! ライトフライ級そしてフライ級をアッサリ制覇。三階級目の制覇目前に起きた網膜剥離で引退を余儀なくされた男。手術成功後、復帰を望まれるなか、まずこちらにカムバックします!』


 典型的なボクサースタイルの男がバンテージのみまかれた拳を軽く挙げる。軽量級によくいるタイプの小柄なボクサーではなく、175センチは軽くあるだろう。その分身体の線は細く、隣の力王と比べるといっそうその感は強い。力王がコップとするならストローといった印象がした。


『そしてラストに控えますは打撃系格闘技では日本最強との呼び声高し、通称『紫電』こと闘王流師範代、筑紫電童。二ヵ月後に行われる予定の大会本戦の日本人代表としての出場権を一ヵ月前の予選を総てKOで制し、手に入れました。今年は大会制覇を期待されています。前哨戦よろしくここに推参!』


 特注なのだろうか、黒い空手着――といっても柔道着とどこが違うのか信二には判断つきかねたが――身にまとったスキンヘッドの男が鋭い眼差しを向けている。野性動物よろしく最初で決めようとしている。しかし威嚇にしてはどこか迫力が足りない。


『さあ、今夜は一体どの様なバトルが待ち受けているのか、まずは中央にてルールの確認と激励を』


 言葉を補完するかのように中央に光が照らされる。


(……そこまで歩けってか) 


「レディ・ファイト」という号令と共に闘うことに慣れているので、その前に儀式という名称で誤魔化されたショウがかった演出に戸惑う。


(まあ、ハナに舌戦っていうのは俺好みだけどなー)


 とりあえず歩きだす。5人が歩きだしたことを確認しアナウンスが再開される。


『ではルールの確認をさせていただきます。とはいっても現実の異種格闘技戦において定められる禁止事項はほとんどありません。うたい文句である「現実に近いリアルバウト」はダテではありません。命の安全を確保されている以上、また怪我の心配がない以上、急所攻撃禁止などはこの戦いに無用! 無制限一本勝負、身体一つで闘うのみことです。投げから関節技、締め技、ダウン攻撃何でもありです。なお解説は格闘技評論家の堂本守さん。実況は私、古田伸慶でお送りします。堂本さん今日はよろしくお願いします』

『お願いします』

『なかなか興味深い対戦で、私は今から楽しみです』

『どうでしょうか? 対戦になればいいんですが』

『というと?』

『所詮ゲームで強くとも実際の格闘技とはそんな単純なものではありませんよ』

『なるほど……』


 堂本はこの仕事には乗り気ではないのか、どこか不機嫌そうな感じを受ける。隣に座っている古田はそのことを肌で感じているが、プロのフリーアナウンサーでどんな仕事でも全力を出し切ることがモットーである彼は、臨場感を余すことなく伝えるべく自分のテンションを高めつつ、堂本の機嫌を損ねない方法を思案し、とりあえず中央の5人に注目させることにした。


「なかなか洒落た趣向じゃねーか」


 中央に近づきながら力王は息をならす。Bは頃合いを見て立ち止まり、右手で下に自然に下ろした左腕を軽く握るという彼の癖の腕の組み方をしつつ、相手を値踏みするように観察する。

 誰もが名だたる実力者なので風格は、まあそれなりに感じることはできる。が、誰しもいざ決戦前といった引き締まった顔はしていない。余裕シャクシャク、むしろBに対して嘲りさえある様に感じられた。

 正直気に入らないが、黙って聞く。


「ヌルいルールは嫌気がさすを通り越してやる気がなくなるしなぁ、なあ、紫電よぉ」

「どんなルールでも勝つのが、実力者だ」


 今日初めて逢ったというのにマスコミに付けられたニックネームを気楽に呼ばれても筑紫は気にすることなく言う。


「まあ、ガキ相手に手加減無しですむのは楽だがな」

「そりゃー言えてる」


 紫電の言葉に笑いながら大橋は言う。


「何せ俺らの拳は凶器だからな」


 自慢であり、誇りの拳を鋭く振るう。風をきる音が間合いの離れたBの耳にも届いた。


「その点じゃぁ、柔道は不利になるか?」

「そんなことはないさ。頭から落ちたら脳震盪は簡単に起きる。ましてや受け身も出来ないズブの素人なら打ち所が悪ければ死ぬことだってあり得るさ。こっちの心配より足技はおろか寝技、関節技もないボクシングの方が不利だろう」


 一撃の破壊力の無さを指摘されても怒ることなく、逆にこのルール上でのボクシングの不利な点を指摘する。


「ッケ! どんな攻撃だって当たらなきゃ意味ねーだろが! ボクサーのフットワークを舐めるなよ、素人なんかに一発もかすらせもしねーよ」

「……ほう、そいつはおもしれー」


 大橋の発言に突如目を輝かせる。


「それじゃあ、俺は一撃でマットに沈めるとするかな」

「……なるほどな、ただ勝つだけじゃつまらんか」


 中村は言いたいことを察する。


「そりゃーそうだろ。なにかしらの制約くらいないと緊張感がないからな。……お前はどうする? 決め技でも言っとくか、柔道の幻のなんかあったろ、技が。なんだったかな」

「山嵐のことか」

「そう、それそれ。それを決めてみるってのはどうだ」

「…………」


 力王の言葉に中村はそれを少し一考。


「練習さえしたことのない技の素直になってくれんだろ、さすがにな。でも俺も乗ろう。一分以内にカタをつけるってのはどうだ」

「まあそれが妥当か」

「舐めるのは勝手だが、油断しすぎるな。一応ゲームとはいえ実力者らしいからな」

「フン! 怖いのか」


 紫電の忠告は正論であった、慎重論なので力王は面白くない。興ざめしかけそうな自分を無理やり鼓舞する。


「遊びすぎるとロクなことはないって言ってるのさ。そうでなくても勝って当然、負ければマヌケなんだ」

「ケッ! 面白味のねぇヤローだ。人がせっかく盛り上げようとしているのによぉ!」


 隣にいるというのにワザワザ身体が触れるまで接近し睨みつける。


(へー、ようやくらしくなったか)


 場の雰囲気に緊張が走っているのを肌で感じる。まるでテレビの格闘技中継でゴングがなる前の互いの睨み合いを見ているような感じがする。


(でも何で最初の睨み合いで目を放したら負けって言われんだろ)


 信二は場違いな事を考える。しかしそれは仕方ないことかもしれない。自分にそれが向けられていないのだから。


「……まあなら好きにしろ、一撃で倒せず恥かくのは貴様だ」


 しかし、臆することなく紫電は発する。


「んだとぉ、テメェ!」

「まあ待て待て」


 一触即発。それを大橋は一言発し、とりあえず押さえる、しかしそれは場の雰囲気を見かねての行動ではない。


「いいこと、思いついた」


 その悪戯をひらめいた少年のような口調に力王は一歩紫電から離れ、大橋を見る。


「どうせならサッサとあのガキ、片付けて俺らで異種格闘技戦しねーか。とりあえず最強決めとこうぜ、この四人でよ」


 その突然の提案に3人は驚きを浮かべる、がすぐに力王はふてぶてしく笑い、紫電と中村は苦笑する。

 だが誰しも想いは同じだった。


「ウェートが違うからテメェ等は辞めといた方がいいんじゃねぇか」


 力王は中村と大橋を文字通り見下ろしながら高らかに笑う。元相撲取りの大柄な体格と比べると軽量級の彼らはあまりにも不利に受け取れる。


「逆だろ、ウェートが違うから普通闘えないんだ。こんなチャンスなかなかねーぞ」

「……それに柔よく剛を制す、って言葉。聞いた事ぐらいあるだろう、身をもって体験してみるか」


 肉体の損傷を気にせず、ルールに縛られず強い人間と闘える。異種格闘技戦ではある種理想的である。


「ほう、それは楽しみだ。……で、紫電はどうよ。受けるかい?」


 その問いかけに肩をすくめる。が、まんざらでもない表情で


「まあ、最強決定戦っていうなら俺が抜けるワケにはいかんだろ」

「ぬかせ!! ……まあ全員の合意ってことだな」


『おっと、大橋選手の一言から意外な展開に向かおうとしています』

『いやいや、でもこれは興味ありますよ』


 解説の堂本は一変、楽しそうな声になる。その身を乗り出さんばかりに注目している堂本を見て内心胸をなで下ろし、積極的に話すよう誘導を始める。


『しかし力王選手の指摘通り体格の差は大きいと思いますが』

『確かに、基本的に体重の重いほうが一撃の威力は増します。特に相撲出身の力王選手のあの身体に纏われた筋肉が繰り出す一撃の破壊力は相当なものです。彼のぶちかましは優に1トンを越えると言います』

『何と! それは凄まじいですね』


 思惑にのってくれた。後は少し大袈裟にあいづちを打ち、堂本の気持ちを高ぶらせればスムーズな展開になるだろう。別にこの展開はアクシデントというわけではない。

「もしかするとBが敗北するのにさほど時間がかからないかもしれません。そうなった場合盛り上げるために格闘家同士を闘わせるように誘導して頂けませんか? 当人たちには打診はしてないですが、怪我の心配のない空間ですから意外にOKしてくれると思うんです」


 これは古田がシルバー社の企画の榎本から内々に頼まれていたのだ。

 本来なら無理とも言える企画だが確かにその通りだと思うし、――自分も彼ら4人の闘いには興味があった。選手の方からその申し出がでるとは思っていなかったが逆にそれは願ったり叶ったりというやつだ。


『ですが小柄な選手でも闘いようはあります。瞬間的な瞬発力は体重の少ない方が圧倒的に上ですし、体格が小さいと言うことは的が小さいと置き換えれます。まともにぶつかる正面からの殴り合いならともかく互いにプロです。パワー対スピード、プライド、テクニックの応酬が期待できます』

『おお、それは凄い!』


 自分たちの位置から実況、解説の人間の姿は確認できないのだが、頭上から聞こえるそれはそれなりに高揚感がでてくる。


「それじゃぁ、サッサと前座を終わらせようぜ」


 大橋のまるでなんでもないように放った一言。それを受け4人は一斉にBに視線を向ける

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