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生徒の異変

「——会長っ!?どうしてこんなやつを生徒会にっ!一期生を生徒会に入れるなんて、私は反対です!」


 会長に「生徒会に入らないか?」そう聞かれたとき、場は一瞬静寂に包まれた。

 俺も面倒ごとの予感が当たったことに嘆き、神を呪っていたので、言葉を返せなかった。


 そしてその静寂をアンデルス・ミルヴェーンの怒声が断ち切った。その怒りは会長への怒りではなく、俺への嫉妬から来たものだろうことは、俺に向ける視線が物語っている。

 だがその感情はアンデルス・ミルヴェーデンだけのものでは無かった。

 周りを囲む人たちから向けられる。羨望の視線。

 他にもこの勧誘自体を疑う懐疑的な視線。


 当然ことに好意的な視線はなかった。

 俺のことを知っている人自体、クラスメイトと決闘の時訓練場にいた生徒会の面々のみだろう。そこから噂が広がったとしても、上級生からしてみれば、同じ一期生を打ち破った少し有望な生徒という認識だろう。


 いやジゼル先輩は俺を勧誘することを知らされていたのか、俺がどうするのか面白そうに眺めている。これが好意的に入るのかは知らないが。


(なぁなんで生徒会に勧誘されてるんや?それとも会長の悪ふざけなんか?)

(俺に聞くなよ!俺だって知らないよ)


 驚愕から立ち直ったマリアは俺に顔を寄せ囁いてきた。

 会長が俺を生徒会に誘っているのは、嘘でも冗談でもないことは会長との決闘からわかっていることだ。

 

 俺はどうしてこんな場所で勧誘してきた、と抗議の意思を込めて会長を睨む。が、会長はしてやったりという様子で黒い笑みを浮かべた。

 俺はその笑みを見て悟った。あぁ謀られたのか。

 ここで入らない、そう答えたとすれば、周りの人達からなんて生意気な奴、と不興を買うだろう。

 しかし、入るといったとしても嫉妬からやっかみを買うことも間違いないだろう。


 そうなると考えた場合、面倒事が舞い込みにくいであろう生徒会に所属しない、勧誘を蹴ることを選択する方が賢い選択だ。


 そうなれば、生徒会に所属はしないし、俺からの印象も悪くなるだけだ。会長がこの行動をとった理由が俺には理解できない。が、あの顔をみるかぎり、何か考えがあるのだろう。

 まぁ王子として様々な謀略を見てきた俺が、それくらいでは気を悪くしない、と判断したのかもしれない。事実、俺はそれくらい特に気にしない。


「——会長。俺は……」

「おいっ!僕は貴様が生徒会役員の実力に相応しいとは思えない!」


 俺はまるで答えを考えているかのように溜を作った。すると、俺が会長の誘いを受けると思ったのだろう。ミルヴェーデン先輩が遮るように突っかかってきた。

 会長を心酔しているように感じたが、会長の言葉を否定するような行動をとるのはメルヴェーデン先輩の中では何か違うのだろうか。


「ミルヴェーデン先輩の言う通りです……。俺ではまだまだ生徒会の方々の力に及ばないので、迷惑を掛けてしまうでしょう。それは俺にとっても心苦しいです……。ですので、残念ですが今回の誘いは断ろうかと思います」


 俺は体全体で残念だ、と表現した。俺の真意を知っている会長は白々しく感じるだろうが、知らない人からすれば生徒会に勧誘、所属するということは、それだけ名誉らしいので、特に違和感は感じなかっただろう。


「——そうか。残念だと思っているのか」


 会長はその言葉を待っていたとばかりに、にやりと唇を歪め、そう言ってきた。


――あれ?俺……対応ミスったか?


「しかし、私は君の実力が生徒会の一員として相応しいものだと、私は認識している。とはいえ、その認識が私だけでは君を生徒会に入れることはしてはならないだろう。

 ――では私は提案したい!君が生徒会に所属する実力に満たされていることを周りに示そうではないか!」


 会長は初めは俺に向かって話していたことを、途中から、周りを囲む野次馬達に聞こえるように声を張り上げた。


「おぉー!なんかおもしろそうじゃん!」「でもどうやって実力なんて確かめるのかしら」「そりゃバトルだろ!」「でも誰と闘うのかしら?」「会長じゃねぇのか?」「そんなの戦いになるわけねぇじゃん」「そうよねぇ」


 野次馬達は俺が戦うとは言ってもいないのに、戦う前提で話し始めた。野次馬達は結果よりも、その過程を楽しみたいだけだ。だから、今よりも面白そうな戦いとなれば、盛り上がらないはずもない。


 俺が戦うかどうかは野次馬達の中では決定事項のようだ。


 こうなってしまうと拒否するのは難しい。

 俺は自分の実力がないので生徒会に所属しないと断った。それなのにこのチャンスを拒否して逃げるのは、今までの行動を否定することになる。

 それなら、


「会長。俺、入りたい委員会があるんです」

「兼部すればいい」

「俺、一期生なんです」

「実力があれば歳など関係ない」

「……先輩方にやっかみを買うと思うのですが」

「それ位私に任せろ」

「…………俺、知りたいことがあって、時間を無駄にしたくないんです」

「生徒会なら最新情報も秘匿レベルの高いのも見ることが出来るから、通常以上に捗ることだろう」

「………………俺、召喚魔法しか適性がないので、魔法が得意ではないのですが」

「魔闘術も立派な魔法だ」

「……………………俺、実力が伴っていないと思います」

「それは今から確かめる」

「…………………………」


 すべて反論されて、これ以上口実を考えられなくなった。もう口をつぐむしか無い。


「——それじゃあ、やろうか」


 会長は良い笑顔を浮かべた。


――どうしよう。逃げられない


「そうだな……やはり確かめるのなら模擬戦がいいだろう。模擬戦を行うのなら、訓練場で行おう。」

「会長。俺のために訓練場を借りるのは、申し訳ないです」


 俺は一筋の光を見つけたとばかりに口を挟んだ。


「大丈夫だ。もう借りてある」


 ここまで準備万端だと、もう笑えて来る。


「よし!じゃあ訓練じょ「生徒会長!」…どうした?」

「生徒が諍いを起こしていて、取集が尽きません!」


 突然、生徒会下部組織にあたる風紀委員らしき学生が、人込みを掻き分け、切羽詰まった様子で割り込んできた。

 風紀委員を纏める風紀委員長もいるはずだが、生徒会長のところまで来たということはそれほどのことなのだろう。


「それくらいお前たちだけで出来るだろう?それにルディはどうした」

「いえっ!それが数か所に渡って起こっている上、魔法を使った諍いまで起こっています!委員長はもう向かっておりますが、いくら委員長でも一人では手が足りません!」

「そうか。なら私も向かおう。」


 会長はちらりとこちらを見たが、今はそんな時ではないとわかっているため、すぐに切り替えていた。


「ジゼル!お前は私と別れて、別のところを収めに迎え!」

「承知した。任せておけ」

「ミルヴェーデン!お前は風紀委員と協力して場を収めろ!」

「はっ!」


 会長は迅速に指示を出すと、ジゼル先輩とミルヴェーデン先輩はその言葉に従い、現場へと直行した。

 会長も指示を出し終わると、会長も現場へと向かっていった。


「ふぅ。言っちゃ悪いけどラッキー」


 被害が出てる人たちには悪いけど、このタイミングで来てくれて本当に助かった。


 野次馬達は半分くらいが喧嘩の現場に向かい、もう半分は戦いが行われなかったことを残念そうにしながらも、仕事である委員会の勧誘に戻ろうとしていた。

 そして、生徒会に勧誘されていたということは実力がある証明でもあるので、俺が標的となる。

 俺はそうなる前にその場から逃げ出した。

 後ろから聞こえるマリアの声をほったらかしにして。



  ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



「ふぅ。やっと落ち着ける」


 勧誘の人込みを抜け、そのまま移動を続けて人がそう多くない場所にまで移動した。人が多くない場所を目指して移動していると、近くに木々がある校舎裏へと来ていた。

 

「まさかこんなことになるなんてなぁ」


 今日の勧誘でどの委員会に所属するかを決めるつもりだったが、校舎から出た途端勧誘に捕まって、そこから逃げれば会長に捕まってとゆっくりと見回ることが出来なかった。

 今から戻っても結構目立ってしまったし、また捕まるのが目に見えている。

 別に今日中にどの委員会に所属するのか決める必要はないので、校舎内でもぶらぶらして時間を潰すのがいいかな。


 前世とは違う、澄んだ空気や風に乗る草木の香りに暖かく照らす日の光。

 たまには散歩してみるものだなぁと感じる。荒んだ心が宥められ、気持ちが落ち着く。

 

 そんなことを考えていると校舎の影から、一人の少年が出てきた。その少年のことは知っているし、同じクラスだ。しかし得に仲がいいわけではないし、どちらかと言えば仲が悪いのでそのまま通り過ぎようとしたとき。


「イリヤ」


 静かな声に様々な感情が込められていて、どんな気持ちで声を掛けてきたのか読み取ることが出来なかった。しかし、ニコラスの顔を見れば、それは一目瞭然だった。ニコラスの眼は憎しみの炎を宿らせ、俺を鋭く睨んでいた。

 だが、俺はニコラスに恨まれるようなことをした覚えはない。確かに決闘の後、少しの間俺のことを目の敵にしていたが、それでもお門違いな恨むようなことはしなかった。

 しかし、ニコラスは多感な時期だし、もしかしたら今日、決闘の結果が何かに影響したのかもしれない。そう考えると特におかしいことは何もないので、納得できた。


「何か用か?」


 だからと言って俺はニコラスのことは嫌いではない。今の、力を求め頑張っているニコラスは他のクラスメイトからも好ましく映っていることだろう。

 なら、悪感情で接しられたからと言って俺も同じように接してしまっては煽る結果にしかならないし、それは俺が望むことではない。どうせなら仲良くなれた方がいいに決まっている。


 だが、その思いは裏切られた。

 唐突に炎の玉がニコラスの周囲に現れ、俺に向かって放たれた。


「っ!?」


 俺は反射的に迎撃しそうになったがそれを意識で抑え込み、後ろに跳びさり避ける。

 続けて飛んでくる炎の玉を後ろに跳び下がりながら、空中で体を捻り炎の玉を避け続けながらニコラスから距離を取った。


「いきなり何なんだっ!ニコラス!」


 俺は現状が理解できずに叫ぶ。

 だが、ニコラスは俺の叫びに答えることなく、魔法を発動させる。その魔法は全て無詠唱で放たれ、威力も詠唱時と遜色そんしょくなかった。

 そのことに驚きつつも俺は冷静に対処する。

 師匠と修行しているとき、一週間のサバイバルで急に襲われるなんてざらだった。その頃はこんな修行をする王子ってどうなのって思ったが、こうやって役に立つと文句も言えなくなる。


「くっ」


 ニコラスの使う魔法が急に変化し、範囲魔法に変わる。俺を中心とした魔力の流れが感じたので、地面を蹴って飛び上がると同時に地面が爆発する。時空魔法が使えないため空中で移動はできない。

 方法がないことはないが体に負担がかかるので、爆風に身を任せて吹き飛ばされる。

 これぐらいの爆風なら身体強化でどうにかなる。


――気絶させるしかないか……


 今までは避けるだけだったが、落ち着く様子もないし、このままでは周りに被害が出そうなので、ニコラスを気絶させるのが最善だろう。


「ニコラス。お前には幻滅したよ」

「——そこまでだ!」


 俺が地面を蹴ろうとした途端、その行動を遮る声とともに会長が俺とニコラスの間に立ち塞がった。

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批判もいい勉強になるので…。

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