委員会勧誘(1)
話の場面が切り替わるのを示すマークを変えてみました!
これからこのまま行こうと思ってます( ´∀` )
反対があるならどうぞ!
ひんやりとした涼風が流れ、緑が香る朝の気持ちの良い気候の中、ある空間だけは隔絶されたかのように熱気を帯びていた。
生徒が過ごす寮からそう離れていない、木々を背後にした空間では一人の黒髪の少年が刀を手に汗を地面に滴らせながら鍛錬を行っていた。
そのゆったりとした動きは何も知らないものが見れば、何をしているのか察することも難しいだろう。
まるで舞を踊るように体を滑らかに滑らせ、動きに一寸のぶれがないその動きは武術のことを何も知らない者が見ても見惚れてしまうだろう。
「すぅぅう~はぁぁあ~」
その少年は汗で髪を顔に張り付かせ、目を瞑り長い長い呼吸を行いながら体を操作する。
穏やかさを感じさせるほどゆっくりと刀を振り、その動きに連動させるように足を滑らせ、体を回転させる。
傍目から見て鍛錬を行っているようには見えないその動きから、想像できない程その少年は顔を歪めながら体を動かしていた。
このゆったりした動きは想像する難易度から、かけ離れた半端ない難易度なのである。
ただ体を無為に動かし、刀を無為に振るだけなら誰にでもできるだろう。だが、体をゆっくりと動かすということはその動きに、速度によって発生するような力がならないことを意味する。
例えばスクワットを上げるとしよう。スクワットを勢いをつけて行うのと、ゆっくりと時間を掛けながら行うのでは体にかかる負担が段違いなことをその身で感じることができるだろう。
そして力が乗らないということは隅々まで神経を張り巡らせる必要がある。自分の体だけでも神経を張り巡らせることは神経を擦り減らすだけではなく、体力的にも損耗する。それを刀にまでも自分の体の一部のように神経を張り巡らせ、操ることはどれだけ難しいことか想像し難くない。
少年はその舞い踊るような動きを終えると、刀を鞘に納める。
そして少年は体の力を抜いた自然体で体の動きをピタッと止め、そのままピクリとも動かなくなる。
それは棒立ちのようにも見えるが、少年の気配は自然に溶け込むように薄くなり。まるでそこにあることが自然の摂理であるかのように周りと一体化する。
少年を花を香りを載せた暖かい風が吹き付け、春の暖かい日差しが少年を照らす。小鳥たちもその少年を自然の一部だと判断しているのか肩に留まり、囀る。
だが少年は小鳥のことなど気にも留めていないかのように目を瞑っている。
何もわからない人が見ればぼーっと突っ立っているようにしか見えないこの行為も|魔力を感知できる人≪・・・・・・・・・≫が見れば目を見開くことだろう。
少年の体の中では魔力が生きているかのように滑らかに動き、魔力が隅々まで行き渡っている。
だがそれは熟練の魔術師であればできることだ。
驚くべきところはそこではなく、その体に取り込まれる魔素だ。
周囲に満ちる魔素を体に取り込み魔力に変換し、体で循環させる。その滑らかで淀みのない動きは人である少年を自然の一部のように思わせる要因だろう。
魔力とは周囲に満ちる魔素を取り込み心臓で変換し、体にため込むとして知られている。だがその回復する速度はそこまで早くない。
そのため、魔法使いは魔力を回復させるために、周囲の魔素を効率良く取り込む呼吸法や瞑想などが存在するほどだ。
だから、それを無視するかのような効率で魔素を取り込む少年は異常に写るのだ。
「ふぅぅう~」
俺は少し疲れのこもった息を長く吐き出し、目を開く。すると、肩に留まっていた小鳥が慌てて飛び立つ。
――あぁまた逃げられた。
俺は毎朝、この鍛錬を欠かさず行っている。そして、自分の考えまでも自然に溶け込むと、自分と世界を隔てる壁が曖昧になる。
そういう時は決まって、小鳥などの生き物が近くに寄ってきてくれるのだが、鍛錬をやめると逃げられるため、触れたことが無いのだ。
俺は動物とか癒される物が好きなので、近寄られているときにいつも癒されるのだが、その度に逃げられてしまうのは結構ショックだ。
『ますた~タオル取ってきたよ~』
「ありがとう」
俺がショックに打ちひしがれていると、近くの木に留まっていたローズがタオルをもって来てくれた。
俺はローズを撫でて傷つけられた心を癒す。ローズは撫でると、目を細めてきゅいきゅい可愛く鳴いてくれるので、俺の心のオアシスだ。
俺はタオルで汗を拭きさっぱりした後、近くに置いてあった水が沸きでる魔道具を取り、喉を潤す。その後、水を頭から被り、汗を洗い流す。一度髪をかき上げて軽く水を落として、タオルで拭き取る。
学園内に存在する森に背を向け、寮に戻る準備をする。
「ふぅ~さっぱりしたぁ。じゃあそろそっ!?」
――ゾクッ
俺は言葉を言い切る前に背中に得体の知れない感情の篭った視線を感じた。
―― 一体何がっ!?
俺は咄嗟に振り向きながら、中級時空魔法『空間把握』を広範囲に広げる。
――バサバサッ
濃密な魔力の蠢きを感じ取った鳥が森から飛び立ち、木々を揺らす。
だが、俺の感知範囲には慌てふためく小動物しか見つけられず、視線の主を見つけることはできなかった。
「あれっ?イリヤ?何してるの?」
俺は視線の主を見つけるために感知範囲を広げようと、更に魔力を込めようとした瞬間、声を掛けられて、魔力を霧散させる。
「——あぁ朝の鍛錬をな」
「へぇそうなんだ。それでさっきの魔力は何だったの?」
「……ちょっと魔法の練習をな」
「ふぅ~ん」
俺は森を覗き込むように睨んだ後、何もない風を装ってアーシアに言葉を返す。
アーシアは俺の空間把握の魔力を感じ取ったのだろう、疑問を聞いてくるが、言葉を濁すと、踏み込んではいけないと感じたのか、それ以上聞いてくることはなかった。
――仕方がないか……
この範囲で見つからないんだ。警戒しておくしかないだろう。
俺にあんな視線をを向けてきたのだ。俺が王子だと知っている奴だろう。
もしかしたら、そのことを知らないただ悪意を持った者たちのものかもしれないが、そんな楽観的な考えではだめだろう。俺のことを狙ってきた者の仕業だと考える必要がある。
一応、国の暗部の者たちも学園の周りに配置されているはずだ。
もし、俺を狙うならば相応の相手でなければ、捕らえることも消すこともできない程の実力を持っていると自負している。
大人数で狙ってくるのであれば国の者たちが見逃さないだろうし、少人数で攻めてくるのであれば、それ相応の対応をすればいい。
「それでアーシアは何をしているんだ?」
「ボク?ボクも鍛錬をしていてね。ランニングをしていたらイリヤを見つけたんだ!」
「そうなのか。まだ途中なのか?」
「ううん。そろそろ終わろうと思ってたところだから、丁度良かったよ。」
「そうなのか。なら寮に戻ろうか。
「そうだね!」
アーシアは華奢な体の白い肌にシャツを張り付けながら俺の前に立っているため、少し目に悪い光景だ。
汗で濡れた若葉色の髪が太陽の光を反射させて、アーシアと後ろの風景が一つの神秘的な光景のように見える。
――やべぇ子供相手に見惚れてしまった。
俺の精神的な都市は前世を合わせると、23歳になっているはずなのだが、体に引っ張られているのか、何か思考とか舌とか色々子供になっている気がする。
「……どうしたの?」
「あ、あぁ気にしないでくれ。ちょっとぼーっとしてただけだ」
「そう?ならいいや。早く戻ろ!もうおなかペコペコなんだ」
「そうだな。俺もお腹減ったよ」
アーシアは心配そうに顔を覗き込んでくる。その何も知らない無垢な表情が少し俺の心を騒めかせた。
俺が大丈夫だと、答えると、アーシアは笑顔に戻りお腹を擦りながらお腹が空いたと主張する。俺はその仕草に笑顔を浮かべた。
「ねぇ今日は一緒にご飯を食べようよ!」
「あ~俺、エステルがご飯を作ってくれているんだよ」
「むぅそうなんだ」
「そうだ!なら俺の部屋に来るか?多分すぐに作ってくれるだろうし」
「いいのっ!?やった~!楽しみ」
アーシアは満面の笑みで誘ってきてくれるが、俺が無理だというと、一瞬で不満そうに口を尖らせ、俺が部屋に誘うとコロッと笑みに変わった。
――元気にしているかなぁ…
こういう感情を全部表に出して、表情をころころと変えるアーシアは茜…前世の幼馴染を思い出す。
タイプは違うけどこの天真爛漫な感じが茜と少し似ている気がして、少しさびしさを感じた。
まぁもう会えないし、一応は見切りは付けたのだが、偶に家族や友達を思い出してしまうのは当然のことだと思う。
そんなことをおくびにも出さず、アーシアと会話をつづけた。
「どんなご飯が出るのかなぁ」
「エステルのご飯は何でもおいしいから、楽しみにして」
「うん!」
俺はもう一度森の奥を睨みつけてから、アーシアと寮へと戻っていった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
同時刻、訓練場で少年が顔を苦悶にゆがめながら、立っていた。
傍から見れば病気なのかと思われる状況だが、そういうわけではない。
イリヤと同じように魔力操作の訓練をしているのだ。魔力を操作することは精神力を消費し、体に力が入る。すると、精神的にだけでなく体力的にも消費する。
イリヤのように自然体で魔力操作を行えていることの方が可笑しいのだ。
少年はきついにもかかわらず、そのまま魔力操作を行い続ける。相当、訓練熱心なのだろう。
「っク、クハっはぁはぁ」
少年は目を開くと溜まった息を一気に吐き出した。少年は膝に手を着き、肩で息をしながら汗を滴らせている。
「こんなんじゃっ!あいつにっ!」
少年は因縁の相手でもいるのか、悔しさで顔を歪めながら、吐き出すように言葉を発した。
少年は袖で汗を拭き、自分に発破をかけるように膝を叩くと、体を起こした。
「もう一度っ!」
「——強くなりたいですか?」
「っ!誰だっ!」
気合い入れた少年を断ち切るように、少年の背後から少し篭った声が聞こえてきた。その声の主を確かめるために少年は弾かれるように振り向いた。
そこには気持ちの悪い笑みの仮面をかぶった黒ローブの怪しい人が立っていた。声質から考えて男だろうと、少年はあたりをつけた。
「お前はジェネシス教団の者か!一体ここで何をしている!?」
「えぇえぇ。少し落ち着いてください。ニコラス君」
「何をっ!それにどうして僕の名を知っている!」
「少し話をしに来ただけですよ。それに話す相手の情報を知ることは当然でしょう。」
少年…ニコラスはその黒ローブの男を睨みつけるが、その男は気にも留めず、飄々(ひょうひょう)と言葉を返し続ける。
ニコラスはその態度に苛立たされ、逆上しかけるが、男の言葉で少し正気に戻る。だが、それと同時に怪しさしか感じなかった。
ジェネシス教団は邪神を信仰している犯罪集団とされているが、その実、末端の組織では信仰などではなく犯罪を犯すためだけに所属している者がほとんどだ。
中枢組織では本当に邪神を再誕させるために行動しているとされていて、魔力の多いものを誘拐したり、国の上層部に取り入ったりしている。
――そのジェネシス教団が僕に何の用だ?
ニコラスは頭を回転させて現状について推測していく。
僕を勧誘するため?誘拐?いや両方違うだろう。
なぜならニコラス自体に権力はなく、誘拐するのであれば話しかける必要はない。なら本当に何か用があるのかもしれない。
――何か情報を引き出せるか、話を続ける必要があるな
ニコラスはそう判断し、男の話に乗ることにした。
「——それで?僕に何の用だ?」
「そうですね。ニコラス君は強くなりたいですか?」
「……そうだな。当然強くなりたいさ。」
「そうですか。」
男はニコラスが話に乗ってきても特に感情を揺らがさずに、淡々と答え続ける。ニコラスはどう答えるか、少し悩んだ後、正直に答えることにした。
自分のことを調べてきているのなら嘘をついても無駄だろう。そうニコラスは判断した。
「なら、私が強くしてあげましょうか?」
「何っ?」
ニコラスはその言葉は予想外だったのか、大袈裟に反応した。いや、それだけでは無くその言葉に魅力を感じたのだろう。
人間という者はほとんどが楽な方向へと進みたがるものなのだ。だが、
「——僕は貴族だっ!自分の力には責任を持たなければならないし、民を守るためなら悪魔にも魂を売る覚悟はある!」
「……」
「だがっ!国に害をなす犯罪者の力を借りるのは、貴族としてしてはならないっ!だから僕は!自分で力をつける!」
「……そうですか。残念です。」
ニコラスはイリヤに喧嘩を売った同一人物とは思えないほど、威厳に満ち、誇りを感じさせた。
――|貴族の義務≪ノブレス・オブリージュ≫
財産、権力、社会的地位には責任が伴うという意味だ。
今のニコラスはそれを体現していた。
「では、仕方がないですね。無理やりにでも従って貰いましょう。」
「僕が簡単に従うとでも?」
男が嘆息し仮面に手をかける、ニコラスは眉を吊り上げ、男を睨みつける。ニコラスは男を捕縛するために、魔法を発動するために魔力を練り上げる。
だが、男の仮面の中を見て、それは遮られた。
「っっ!?先生っ!?」
そう、黒ローブの男はこの学園に努める教師だったのだ。
ニコラスはそのことに驚愕し、魔力が乱れ、魔法が霧散した。
「……」
ニコラスが呆けている間に教師の目が一瞬光ったように見えた。すると、ニコラスは人形のように力が抜け、何もない虚空をに目を漂わせる。
「ニコラス。私が力を上げましょう。そして私の言う相手を襲いなさい」
「……力……くれる……襲う……」
「そうです。私のために戦いなさい。イリヤを恨むのです」
「……戦う……イリヤ……恨む……」
教師は意識のないニコラスの耳に囁く、ニコラスは教師の言葉を壊れた機械のように、途切れ途切れに繰り返した。
そして教師はニコラスの指に指輪を嵌め、もう一度ニコラスの耳に言葉を囁くと、ニコラスの眼に意識を宿った。
だが、そこには教師に対しての敵意はなく、従順な意思を宿していた。
「では、今あったことは誰にも話さないでください」
「わかりました」
教師はニコラスを見て、満足そうに笑みを浮かべた。教師は黒ローブを脱ぎ去ると、仮面と一緒に魔法で燃やし尽くした。
そして、ニコラスを伴い訓練場から出て行った。
二人が出て行った訓練場には、仮面と黒ローブを燃やした、焦げた跡のみが残っていた。
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