兄様、姉様。二人とももしかしてブラコン?
「久しぶりね。シェス。元気そうね。」
「あなたもね。」
母さんとシェス王妃は微笑を浮かべながら、抱擁を交わす。
「久しぶりだね。レオは相変わらず元気かい?」
「ええ。あの人は元気すぎるくらいよ。」
シェスティン王妃の言葉に父さんは苦笑しながら、二人は握手を交わす。三人は謁見の間での儀礼的な態度は鳴りを潜め仲のいい友達のように言葉を交わしている。まぁ実際に仲がいいんだけど。…さっきも言ったように個人的な付き合いもあるわけだから、当然かもしれないけど。
今、俺たちは謁見の間での対応を終え、個人的に話を行うためにシェスティン王妃たちを父さんの執務に室に招き、歓談しているところだ。
「初めまして、イリヤ君。魔法の天才だって聞かせてもらってるわ。」
「初めましてシェスティン王妃。…僕の魔法の腕なんてまだまだですよ。」
「まぁ…あなた大人びているわねぇ…。本当に五歳かしら…。」
「っ当然ですよ。」
「そうそう。私はあなたの未来のお義母さんになるのよ?そんな堅苦しくしなくていいのよ。うふふ、どうせならお義母さん呼びでもいいわよ。」
「い、いえさすがにそれは…。呼び方はシェスティンさんでお願いします。」
俺の言葉遣いにシェスティンさんは驚いたように、冗談めかして俺をからかった。俺はその言葉に肩をぴくっと震わした。シェスティンさんは俺の反応には気づかなかったようだ。冗談だということはわかっていたんだけど、いきなりそのことを言われると驚いてしまうのは仕方がないことだろう。
シェスティンさんは凛とした美人という雰囲気も消え、近所のお姉さんのような雰囲気で、呼び方を変えるように迫ってきた。
「初めましてソフィアちゃん。あなたも魔法が得意だと聞いたわ。」
「は、はじめまして。えっとアリアーナ王妃様。]
俺の婚約者であるソフィアは母さんに話しかけられ、緊張しているのだろう。あたふたとかわいく混乱しながら返事していた。あたふたしているところを見ているとほっこりしてくる。母さんもソフィアの反応を微笑ましくうふふと笑いながら見ている。
「イリヤ君。次はソフィアちゃんと話してもらおうかしら…」
「はい。僕も話をしてみたかったので。」
シェスティン王さんは俺の反応に満足したようで、母さんと同じようにうふふと笑いながらソフィアと母さんの方に近寄っていく、俺もそれに追随する。
「…アリア。若人同士で話し合あわせましょう。」
「そうね。それがいいわ。」
シェスティン王さんはお見合いさせる親のようなことを言うと母さんもそれに同調して笑いあう。…ていうか二人ともまだ全然若いからその言葉は似合わないと思うんだけど…。それに二人の笑い方とか雰囲気が似ていて、もしかしたら似た者通しなのかもしれないと他愛もないことを考えていると、母さんは俺にあなたから話しかけなさい、と耳打ちして二人は少し離れていく。
こんな年の子供にいい感じに話せっていうのはちょっと無理があるような気がするけど…。俺はソフィアの方も見ると、ソフィアも一人にされてあわあわしていた。…まぁ俺の年は見た目通りじゃないから、子供相手に緊張することはないんだけど。
「初めましてソフィア。フェルミーナ王国、第三王子イリヤ・アベル・ロン・フェルミーナだ。イリヤって呼んでくれ。」
「は、はじめまして。ソフィア・ノーディン・シェルストムです。えっと、ソフィアって呼んでください。」
ソフィアは俺が話しかけると、一人でいた時以上にあたふたし始めた。いや、まぁ俺はソフィアの婚約者になるわけだから緊張するのはわかるんだけど、ちょっと緊張しすぎだと思うんだけどなぁ。
「ソフィア。そんなに緊張しなくてもいいよ。」
「は、はい。」
…失敗だったかな。緊張が少しでもほぐれたらと思っていたんだけど、逆効果だったかもしれない。
なんか話せるような話題があればいいんだけど…。好きなものを聞いてみたりしたけど、緊張を解すことはできなかったし…。そうだ。あれなら女の子だったら喜ぶかな?
「そうだ。ソフィア。いいものを見せよう」
「な、なにかな。」
「召喚--不死鳥 ローズ」
「キュイ~!」
「きゃぁー!かわいいぃ!」
「え、えーと…変わりすぎだろ…」
俺がローズを召喚すると、さっきまでのおどおどしたような態度が嘘のように消えて、素早い動きでローズに抱き着いた。俺はその豹変ぶりに考えが追い付けず、ローズが抱き着かれてもみくちゃにされるのを見ているしかできなかった。
「…いったい何があったの?」
母さんたちがソフィアの叫び声に反応してか、俺たちのもとに戻ってきた。俺は母さんの問いに答えるようにソフィアに視線を向けるとあぁと頷いて理解してくれたようだった。
「ごめんなさいね。あの子は可愛いものに目がなくてね。」
「い、いや。話題ができから別にいいんですけど…」
「そのためにローズを出したの?」
「緊張しすぎだったから、少し緊張を解そうと思って。だめだった?」
母さんは少し咎めるように視線を向けてきたけど、別にこれくらいならいいと思ったんだけど。さすがに召喚神術という異能がばれるようなことはできる限りするつもりはないが、俺が召喚魔法を持っていることは各国にも知れ渡っていることだ。魔物と契約していることはこの年では珍しいことかもしれないが、王家としたら騎士たちの力を使って契約することだってあるから珍しいことではないだろう。
「…召喚魔法を持っていることは知っていたけど、まさかフェニックスと契約していたとはねぇ。」
「…子供で見つけることができて、その子がイリヤになついたのよ」
「それでもすごいわね。ランクSのフェニックスと契約しているなんて…」
シェスティンさんは俺の召喚したローズを見て驚き、母さんは契約できた理由を嘘で誤魔化した。…ローズを戦わせたことがなかった上に見た目が可愛いせいでランクSだってことを忘れてた。母さんも目で責めてきた。俺もちょっと迂闊だったと思うのでシェスティンさんに見えないように手を合わせて謝っておく。母さんもそれを見てため息をつくとシェスティンさんを誤魔化すように話題を変えた。
俺はそれを横目に本来の目的のためにソフィアの方に向くとまだローズを撫でまわしていた。…
「ソフィア。そろそろローズを離してもらってもいいかな。」
「えっあ、うん…」
「キュイー」『マスターひどいよー。』
「ごめんごめん」
ローズを開放してもらうと、ローズがすぐに肩に戻ってきて顔をつついて責めてきた。まぁあれだけもみくちゃにされてるのを見て見ぬふりは悪かったけど顔をつつくのはやめてほしいな。さっき理解しなおしたようにいくら見た目は可愛くても戦うために生まれたのがローズだ嘴がとがっていて普通に痛い。
ソフィアのほうを向くとそっちはそっちでローズがいなくなって絶望したような表情を浮かべていた。…いやそこまでのことなのか…。俺はローズとソフィアを宥めるのに時間を有し、宥め終わったときには本来の目的であった緊張感を解くのは達成できたけど、俺の体力を多く消費することになった。…まさか近著を解くためだけにこんなに疲れることになるとは思わなかった。
「ソフィアは可愛いものが好きなんだ?」
「うん!」
ソフィアは少し興奮に顔を赤らめながら元気良く頷くと、どんなものが好きか話し始めた。俺はそれに相槌を打って、話題を出したりして話を盛り上げた。後は緊張の解けたソフィアと仲を深めることに時間を費やした。緊張の解けたソフィアは自分の話を楽しそうに話して、俺の話を楽しそうに聞いて年相応の笑顔を見せてくれた。その話の中で分かったことで特に興味深かったことはソフィアがロザリー…俺の姉である第二王女…と同じ水と光属性の二属性もちで性格的なものもあって補助的な魔法が得なそうだ。…もし俺が冒険者をやるときにパーティーの仲間にいたら、凄い戦力になると思うんだけど…。まぁ王女が冒険者をするなんてこの国ぐらいなんだろうけど。
「じゃあ今日は一度解散しましょう。」
「そうね。そっちにも予定があるだろうしね。」
「そうだな。…後で夕食の時間には侍女をそちらに向かわせよう。」
俺がソフィアと仲を深めているうちに結構な時間がたっていたようで一度解散するようだ。食事も形式的なものではなく個人的なもののようで堅苦しくはならないだろう。
「イリヤ君。またあとでね。ほらソフィアも」
「イリヤ君。またあとでね!」
「そうだね。まだ聞きたいことがたくさんあるから、後でいっぱい話そう。」
「うん!」
ソフィアは最初のようなおどおどしていたのが鳴りを潜め元気に返事してくれた。これだけ打ち解けてくれれば俺が苦労したかいがあったようだ。俺がそんなことを考えているとローズは自分のおかげという様に頭をつついてきたので撫でて宥めた。それをソフィアもが羨ましそうに眺めていたので撫でさせてあげるとパッと太陽のような笑顔を浮かべた。…この反応はすごく和む。将来まで性格が歪まないことを、俺は望みたいなぁ。
「…ソフィアが初対面の人にこんなに懐くなんて本当に驚くわ…」
「将来、女の子を誑かしそうで怖いわ…」
俺はソフィアの笑顔にほっこりしている間に母さんとシェスティンさんがそんな話をしているとは夢にも思っていなかった。
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「ローズ。ソフィアはどうだった。」
『いっぱい撫でてくれるから好き~。でもぎゅーってされるのはいや~」
「まあ気に入ってくれたなら良かったよ。」
ローズはかまってくれる人が好きなようでソフィアのことも気に入ってくれたようだ。まぁ乱暴に撫でまわされたのはお気に召さなかったようだけど。
俺たちはソフィアたちとの顔合わせを終えた後少し王城内をぶらぶらしていた。ローズと話していると、前から足音が聞こえてきた。そっちを向くと二人の人影があることに気付いた。
「イリヤ。ソフィアさんはいい子だったかい?父さんたちが悪い相手をイリヤの婚約者にするとは思えないけど大丈夫だったかい?」
「そうよ。王族としての務めは果たすのは義務だけど、最低な相手だったら私たちが破棄するように言いに行くわ。」
「クリス兄様。シュティ姉様。ソフィアはいい子で可愛かったです。」
前からやってきた二人組は、俺の呼び方からわかるようにこの国の第一王子と第二王女だ。まずクリス兄様は本名クリストフェル・アベル・ロン・フェルミーナといい父さんとシャル母さんの特徴を引き継いで少し長めの紺色の髪に紅い目で細い線の顔だちをしていて、父さんに似た柔らかい物腰をしている。そしてシュティ姉様は本名シュティーナ・アベル・ロン・フェルミーナといい俺と同じ母を持ち、長い黒髪に黒い瞳で顔だちは目鼻立ちを整えた日本人のような顔だちをしている。
これまで二人と話すことがなかったのは二人がこの王城に戻ってきたのは少し前だったからだ。なぜ今まで二人がいなかったというと、国立魔法教育学園、通称魔法学園に8歳から13歳まで通っていたからだ。俺が一歳になるころにはもう魔法学園に入学していて、それから5年間通って少し前に戻ってきた。そして、王子たちが入学するときには古代魔法機械を使って変装して入学して、在学中はほとんど王城には戻らないことになっているからだ。
「イリヤ。何度も言ってるけど、そんな他人行儀なしゃべり方をやめてほしいな。」
「そうよ。兄弟なんだから悲しいわ…」
二人は本気で悲しいようで顔を歪ませている。確かにしゃべり方は少し他人行儀だったかもしれないが、そこまで悲しむものなのかと俺は思うんだけど…。前から少し思っていたけど二人ともブラコンの気があるようだ。普通ならぎくしゃくするのかもしれなけど教育の仕方からそうはならなかったようだ。それは嬉しいんだけど…ちょっと弟のこと好きすぎると思うんだけどなぁ…。
「…わかった。…それでクリス兄様もシュティ姉様もいったいどうしたの?」
「いや、少し時間ができたからね。イリヤの話でも聞こうと思ったんだけど、部屋にいなかったから城内を周っていたんだよ。」
「そんなことのためにこんな広い城内を周ってたんだ…。」
「そんなことって!イリヤの婚約者が決まるのよ!話を聞かないとだめでしょ!」
「いや、うん…」
クリス兄様の言葉に少し呆れて本音が出たんだけど、それがシュティ姉様の琴線に触れたようで、どれだけ俺の婚約者が決まるのかが重大なことなのかを力説しだした。止めてもらいたくてクリス兄様の方を見たが同意だというように頷いていた。…ブラコンのクリス兄様に頼ろうとした俺が馬鹿だったようだ。愛されてるってことは嬉しいんだけどちょっと行き過ぎると疲れる…。
「こほんっまぁあなたから見ていい子なら良かったわ。」
「そうだね。後は夕食の時にでも見極めさせてもらおうかな。」
「ほどほどにね…」
シュティ姉様は俺が疲れて様な目で見ていることに気付いて、一度咳払いすると取り繕った。クリス兄様はその言葉に頷いたかと思ったが、すっと目を細めた。俺は多分顔が引きつっていたと思う。多分止めても止まらないだろうから、ソフィアが気に入られることを願っておこう。




