隣国の王女
やっとテストが終わって、また小説を書き始めます。まぁただの言い訳なんですけどね。
「そういえばエステル。肝心なことを聞いていなかったけど、なんでエステルは孤児になったんだ?」
エステルを拾ってきた次の日の朝。いつもの鍛錬を今日ある用事のために早めに切り上げた後、こちらも鍛錬を終えたエステルと合流して、用事の時間まで、まだ少し時間があったので、昨日聞き忘れていたことを、何気なく聞いてみた。
「それは…」
「…いや、別に無理に聞きたいわけじゃないぞ?俺に何かできることがあるのならしてやろうと思っただけだしな。」
「…ううん。…このことは言っておいたほうがいいと思うから」
エステルは顔を曇らせ言うことをためらったようだが、何か理由があるのか話すことを決心したようだ。
それと、今関係はないが、俺がエステルの前で一人称を変えているのに気が付いただろうか?まあ理由といっても複雑な理由があるわけではない。エステルには従者兼護衛として働いてもらうんだ。面倒な隠しごとは無しにしたかった。話すのに気を遣うのはしんどいからな。前世についてはいつかは話そうとは思っているがまだ早い。…まあまとめると話すのに気を遣うのが疲れる、それだけだ。
まあ、このことは置いておいて、どうやって話すのか考えを纏めているであろうエステルの方に意識を向けた。
「…お父さんは知らない。お母さんは一年くらい前に殺された。」
「…殺された?」
エステルは自分のつらいであろう過去を淡々と語った。俺はそれが痛々しく見えた。この年で肉親を亡くしたものは多くいる。そういう者たちは孤児院に入るか、血縁に引き取られるか、そして、エステルのようにスラムで生きていくかだ。孤児院に入った者たちや、血縁に引き取られ者たちは、そこで自分の感情を発散することができる。だが、スラムで生きていくことになったエステルのような子供たちは、それができない。…いや、当然初めは泣いたことだろう。だが、スラムでは生きていくことが難しい。そうなると、親のことを考えなくなる。いや考えられなくなるといったほうが正しいか…。そして、毎日生きることに必死になり、感情が薄くなることがある。今のエステルはこの状態だろう。
「そう。…お母さんは冒険者だった。…貧しかったけどちゃんと生活はできてた。…お父さんは物心ついたころからいなかった。」
「…そうか…。じゃあお母さんは魔物に…。」
「違う。」
「違う?」
エステルは片言気味に家族のことを話した。親が冒険者だ、っていうのはよくいる。そして、魔物に殺されて子供が孤児になることも。他には盗賊に殺されてしまうこともある。だが、王都周辺で盗賊に襲われることなんてほとんどない。なぜなら、リスクとリターンが合わないからだ。それは、王都周辺で盗賊が出たという情報が入った時点で騎士団が出るか、冒険者に狙われる。確かに、王都には商人が集まってくる。しかし、襲ってもすぐに殺されてしまっては意味がない。そうして、王都の周りで盗賊をやるのは相当な馬鹿か腕に自信があるような奴だけになるのだ。
俺は殺したのが魔物ではないと聞いて盗賊か、と思ったが所得が低い低ランクの人が盗賊が出るような場所まで行くとは考えられない。そう思い、考えを巡らせていたが可能性なんていくらでもあると考え、エステルの話に耳を傾けた。
「…ある日家に真っ黒い体全体を隠せるコートを着て顔に白い目と口の穴が開いた仮面をかぶった人たちが入ってきた。お母さんが私を隠して、対応しに行ったら…殺された…。その後はその人たちは何か探してたみたいだけど、見つからなかったのか、帰っていった。」
「真っ黒のコートに仮面ッ!?そいつらっって」
エステルは自分の話を聞いて顔色を変えた俺に怪訝な表情をした。
俺の顔色が変わったのには当然理由がある。真っ黒い体全体を隠せるコート。にやっという擬音が付きそうな表情をした真っ白い仮面。これはある組織の特徴だ。その組織の名は『ジェネシス教団』簡単に言って邪神を崇拝する者たちの集まりだ。といっても末端の者たちは悪事をすることが好きな者たちや権力のために動いている者たちと、様々だが。総じて皆が悪事を働く者たちということだ。そしてジェネシス教団は邪神の復活を最終目的として動いていて、邪神に今の世界を破壊してもらい新しい世界に導いてもらう。そんな考えで動いている。
「ねえ!もしかして知ってるの!?そいつらが誰なのか!」
「あ、あぁそいつらはジェネシス教団っていう邪神を崇拝する奴らだ。」
「…なんでそんなのがお母さんをっ!」
「…わからない…」
俺はエスケルの剣幕に押されて、少し焦った。まだ、一日しかたってないが、そんなに感情を表に出さないと思っていた。だが、親の仇の相手のことが分かったとたん目に憎悪の炎がうかんだ。やっぱり、隠していただけで何も感じてないわけではなかったようだ。
そして、わからないといったが、多分ジェネシス教団の人がエステルの家に侵入したのはエステルを攫うためだろう。ジェネシス教団は魔力の多いものを攫ったりしているからだ。…このことはエステルには隠しておこう。エステルが罪悪感でどうにかなってしまうかもしれないから。それでもいつか知る時が来るだろうが、その時までに俺がエステルの心の隙間を埋めればいい。
「何かあったら教えよう。復讐したいならその手伝いもしてやる。だから、今は俺の従者として働いておけばいい。」
「…なんで手伝ってくれるの?それになんで私なんかを助けたの?」
「…そうだな…エステルには一生仕えてもらおうかなぁって考えてる。だから復讐は手伝おうと思ってる。それに…いや何でもない。エステルを選んだのは直感だ。」
「…そう…」
俺が直感で選んだことにエステルは呆れてような表情を浮かべた。まあ普通はそうなるよな。でも、直感で選んだのは本当だ。王子としての暮らしは余裕があるから従者を直感で選ぶことができただけだけど。
復讐に俺は肯定派だ。確かに復讐だけを目的に生きることには反対だが、前に進むために復讐するのは悪くないと考えている。過去は無くならない。けど過去との決別は誰でもできることだ。だからエステルの復讐を手伝うつもりだ。
エステルも今は力をつけることにしてくれたようで、さっきまでのような鬼のような表情を消していつもの…まだ一日だけど…無表情に戻っていた。
エステルと話ながら歩いているとエステルと別れるところまで来ていた。この後、俺は人と会う予定が。エステルには礼儀作法の勉強があるので、一度別れることになる。
「じゃあエステルは礼儀作法の勉強頑張ってな!」
「…うん!」
俺は今までの暗い雰囲気を払う様に明るく声を発すると、エステルも俺の考えが分かったのか無表情に少しだけ笑顔を浮かべながら頷いた。
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「国王陛下、嬢王陛下、王子殿下のお成ぁりぃぃ!」
目の前の扉の中から歓迎するかのような大きな声が聞こえてくると、父さんと母さんは俺の方に向き直り一度確認するように視線を投げかけてくるのに頷くことで答えると、父さんは何も言わずに扉を開けて中に入る。俺と母さんは父さんの斜め後ろにつきついていく。
部屋の中に入ると豪華絢爛な装飾の施さ柄れたものが部屋を飾っている。部屋の壁に沿うように煌びやかな服で着飾った無駄な脂肪がついた典型的な貴族のイメージの人が少しと華やかではあるが神経を逆なでされない程の服を着た引き締まった体をした人が多数おり、その人たちを守護するように細部の違いがあるがほとんど同じような銀色の全身鎧を着ている人たちが頭部のみを外して腕に抱いている。全員に共通しているのは玉座に向かい膝をついていることだ…玉座の周りに立つ鎧をつけた者たちは剣に手をかけながら何も起こらないように眼を鋭く光らせているが。
そして部屋の中央には、周りとは一風変わった雰囲気を醸し出すドレスで着飾った女性が跪いている。父さんは周りより一段高いところにある玉座に座る。俺と母さんは玉座の横に並び立つ。
「皆の者面を上げよ。」
父さんはいつもと違った鷹揚な態度で言葉を発するとザッと音がなるほど揃った動きで全員が立ち上がる。すると部屋の中央にいた人たちの顔が見えるようになるわけで。
「今日はよく来てくれたウェアハード王国のシェスティン王妃とソフィア王女よ。」
「お久しぶりです。アルバート国王陛下。」
そこには端正な顔立ちの女性と少女…フェルミーナ王国の友好国であるウェアハード王国のシェスティン・ノーディン・シェルストム王妃とソフィア王女だ。シェスティン王妃は腰にまでかかる銀色の髪に青色を溶かし込んだような光沢のある薄い青色の髪と青色の瞳、綺麗なという言葉の似合う整った顔立ちをしており、モデルのような体形をしている。ソフィア王女はシェスティン王妃をそのまま子供にしたような可愛い容姿をしている。
俺は隣で父さんがシェスティン王妃と話している間、ソフィアに注目していた。当然だ。俺が政略結婚の相手になるのだから。政略結婚事態に強制ではないが、この国の王族は他に比べてフットワークが軽く国民の生活を視察として見回ることがある。そして、王族が国民の血税で贅沢な暮らしをしていることを強く理解させられる。国民は、自分たちのために良くしてくれている王族のことを尊敬し、好感情を向けるものがほとんどだ。王族として育てられる子供もそのような視線を向けられて悪い感情を抱くはずもなく、自分の地位を理解させられる。当然、無条件に…親の頑張りではあるが…そんな視線を向けられていれば自分は偉い。だから、国民が自分のために頑張るのは当然だと考える馬鹿も出てくるが、そんな者たちもほとんどが子供の間に考えを直される。そして、ほとんどの者が自分の待遇に伴う義務を感じ、動くようになる。だから、政略結婚を断るものも少ない。俺も、前世の影響で最初はそんなことをするつもりはなかったが、王族としての暮らしや、国民から向けられる尊敬や憧れ。そんなことがあれば当然考えも変わる。
まあ、今の俺は自分で言うのもなんだが好物件だ。第三王子であり、歴代初の特殊属性二つ持ち、五歳にしてその特殊属性を扱うことができる。そんな相手に変な奴をあてがうことはない…父さんがそんな相手を選ばないってのもあるが。そしてそれは間違ってなかったわけだ。一応写真としては見ていてけど会うのは初めてだ。あぁ写真があるのかってところには、魔道具として存在している。
いや今はそんなことは関係ない。それよりも政略結婚の相手のことを考えるべきだろう。ソフィアの方に意識を戻すと目が合った。あっちも相手がどんな人なのか気になっているのだろう。容姿では俺からいえることは何もないほどだ。性格に対しても、国民に対して善政を敷いている王族としての気風から考えて、悪くはないだろう。というより、国としての付き合いもあるが、ウェアハード王国の王や王妃と父さんたちは個人としてもいい付き合いをしているから、そんな心配をするほどでもないだろう。
「では、フェルミーナ王国での滞在を楽しんでくれ。」
「ええ。色々なものを見させてもらいます。」
俺がソフィアのことを見ながら考えを馳せている間にこちらの話も終わったようで、今から退場するみたいだ。貴族の進行役の言葉に周りの貴族はもう一度膝をつき忠誠を示し、それに合わせるように俺たちも退場する。




