城下町探索
「んぁ~ふわ~ぁ」
俺はベッドから上半身を起こして体を伸ばす。窓から差し込む光から、眠っていた時間はそんなに長くはないだろう。だが、魔法のおかげで体の疲れはほとんど抜けている。
「おはようございます。イリヤ様」
「おはよう。セレス」
俺が起きたことに気付いたセレスの挨拶に言葉を返し、セレスの用意した服に着替える。
「イリヤ様。お体の方はどうでしょうか?」
「寝たおかげで、疲れもほとんど取れたよ。」
「それならよかったです。」
俺が着替え終わると、セレスは心配そうに眉間に少し眉間に皺を寄せながら訪ねてきたので、できるだけ笑顔で返しておいた。それを聞いてセレスは安堵したように頬を緩ませた。
「セレス。昼食を部屋まで持って来てもらってもいいかな。」
「かしこまりました」
俺はちらりと窓の外を確かめると、セレスに昼食を取りに行かせるのを口実にして部屋を出て行かせた。
俺はセレスが遠ざかっていくのを確認した後部屋の中央に立つ。一度息を吐いて魔力を練る。
「召喚---ドッペルゲンガー ミミ」
その言葉とともに目の前に見えないはずの魔力が見えるほどの濃さとなって集まり一つのものをかたどる。現れたのは人の影を立体にしたような魔物だ。
ドッペルゲンガーは俺が外に出たりする時の影武者として少し前に創った魔物だ。名前は模倣とかを意味するmimicryから取った。ミミはその名前の通り人や魔物に化ける。能力も全てをとはいかなくても真似できる。
それとそれだけの魔力を出したら、三歳のころのように人が来るんじゃないかっていう懸念は大丈夫だ。三歳のころから、魔法の練習で大きな魔力を動かすのは日常茶飯事だ。
「ミミ。俺の姿に化けてくれ。」
「……」
ミミは俺の言葉に言葉を発することなく頷くと、体をグニャグニャと動かせて俺の姿をかたどる。
「じゃあ俺は外に行くから、俺の代わりをよろしくね」
「わかりました。」
俺はばれずに出ていくために向かおうとすると、
『待って!!マスタ~私も召喚して連れて行って。』
「いや、ローズ大きいし目立つからなぁ…」
俺もローズを連れていきたいのはやまやまだけどさすがに目立ちすぎるしなぁ。
『マスターの周りだけなら小さくなれるんだよ~。』
「は?いやそんなの………あった。」
俺はローズの言ったことの成否を確かめるために頭の中にある知識の詰まった本のようなものにアクセスすると、確かに載ってあった。俺は隅々まで読んだはずなので、多分隠されていたのだろう。このことから考えると、まだいくつか隠されている能力もありそうだ。まあ、便利な能力が増えることは悪いことでないのでいいだろう。
ローズは俺が知らなかったことを知っているのが嬉しかったのかはしゃいでいた。俺が褒めちぎるまではしゃいでいたので、少しうるさかった。
「…まあそんなことができるのなら召喚しようか。一人じゃ味気ないだろうしな。」
『やったー!』
俺は一人でも楽しめたとは思うが一緒に楽しめる相手がいるほうが楽しめるだろう。ローズも喜んでいるしいいことだ。
俺は魔力を練り魔法を発動させる。
「召喚---不死鳥 ローズ」
俺の言葉とともに、俺の体から抜けた魔力が集まり、小さい鳥の形をかたどる。この小さい状態で召喚するやり方は、、魔力の消費が少ないが、戦うことはできないようだ。そして、白い鳥が現れ、羽を羽ばたかせて飛んできて俺の肩に留まった。
『やっぱり、外の方が気持ち良いなー。』
「いつも窮屈な思いさせてごめんな…。」
『ううん。よく話してくれるから大丈夫だよー。』
ローズは外にいるのが楽しそうに鳴いている。それを聞くと、いつも呼び出せずにいることに罪悪感を感じる。やっぱり父さんたちにこのことを教えて、呼び出せるようにしてあげないとな。
「じゃあ行くか」
『うん!』
俺は窓から飛び降り、時空間魔法を使って障壁を張りそれを踏んで城から出て行った。
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「いらっしゃい!今日は野菜が安いよー!」
「お兄さん!こっち見ていかないかいっ」
「お姉さん!このブローチとかどうだい?」
「おっこれ安いね!買った!」
城下町に出ると、客寄せの声があちこちから飛んでいてとても賑やかだ。店や屋台が所せましと並んでいる。
「おっちゃん!串焼き2本ちょうだい!」
「おう!…ほらよ坊主。熱いから気をつけな!」
「ありがと!」
俺はその店の中から、ダンディな髭を生やしたおっちゃんがやっている串焼きを買った。…前からこういうことしてみたかったんだよな。いつも城下町に出かけるときは護衛がついているうえにこういう買い食いができなかったから楽しみだったんだ。
「うんっうまい!ローズも食べるだろ?」
『ちょうだい!』
串焼きは甘辛いたれの味が良いだけじゃなくて使われている肉歯ごたえもあっておいしかったので、俺は思わず笑みを浮かべた。そしてもう一本を俺の肩にいるローズの口に近づけると器用に肉を抜いて食べ始めた。串焼きはローズにもおいしかったようで嬉しそうにきゅいきゅい鳴いている。
俺はいろいろな屋台を冷やかしながら歩いていると、武器や防具を装備している人をよく見かける。多分あれが、冒険者なのだろう。俺もやっぱり冒険はあこがれている。魔物を倒してみたいと思うが今の俺じゃ危ないのでさすがに城壁の外に行くのはやめておく。
「おっ!この反応は…」
『マスターどうしたのー?』
俺は魔法の空間把握の範囲内に子供の反応をみつけた。ただそれだけなら何でもないが、その子どもは魔力が中級だったのだ。中級と聞くとそれほどでもないんじゃ、と思うかもしれないが、多くの人は初級で(初級にはほとんど魔力を持たない人も含まれる)そして魔力は訓練で増やすことができるが、それで増える量はその人の才能次第だ。そして中級の魔力があれば一人前の魔法使いとして認められる。そのことから考えればどれだけ凄いことかわかるだろう。
そして見つけたその子供の反応はその位置から動かず、反応も強くないので孤児かスラムの子供だろう。
『マスター!どうしたのって聞いてるのに!」
「ん、あぁ悪い。…いや、な?大きい魔力を持った子供を見つけたんだ。」
『そうなんだぁ。それでどうするのー?』
「もし孤児とかなら城に連れて帰るつもりだ。俺の仲間兼従者として育てようと思ってな。」
『そうなんだ。」
勝手に城に連れて帰って、何か言われるだろうが多分許してもらえるだろう。というか、そのことよりも城を抜け出して勝手に城下町に来ていたことを怒られるだろう。その時に、召喚神術のことを伝えようかな。
「この路地だな。」
俺が城に帰ってからのことを考えている間に反応のあった路地の前についた。俺はその路地に入っていく。
「だ、れ?」
「俺はイリヤだ。君は?」
「…エステル…」
路地の壁にもたれかかって座り込んでいる汚れた金髪の女の子がいた。俺が来たことに気付いた女の子は警戒的な視線を向けながら声を発した。俺が名前を答えて訪ね返すと、俺の身なりからか少し警戒を弱めて名前を教えてくれた。
その子の身なりはぼろぼろの布の服をまとっているだけだ。髪も汚れて頬はこけている。多分ご飯も食べれていないようだったので、俺は買っておいた食べ物を出した。
「これ、は?」
「食べたらいい。それでその後話を聞いてくれ」
その女の子は少しの間用心深く食べ物のことを観察していたが、やっぱり空腹には勝てなかったようで少しだけかじると、勢いよく食べ始めた。服や口が汚れるのも気にせずに食べきると、まだ足りなかったのか悲しそうな表情をしたので、他にも持っていた食べ物をあげると、すぐにすべて平らげた。
俺は女の子が落ち着くのを待って声をかけた。
「じゃあ俺の話を聞いてもらえるか?」
「うん。そういう約束だった。」
「君は孤児か?」
「そう。」
「なら、俺についてこないか?」
その言葉が相当予想外だったようで目を見開いて驚いていたが、落ち着きを取り戻すと理由も聞かずに了承の意を示した。
「理由を聞かなくてもいいのか?」
「ここにいても死ぬだけ。それならついていったほうがいい。」
「俺が君をどう扱うかもわからないのに?」
「そういうことする人なら何も聞かずにつれていく。」
「それもそうか。」
俺はその言葉にずいぶん納得させられた。
「じゃあ俺の手を握ってくれ。」
「わかった。」
『帰るのー?』
『あぁ今日はこれぐらいにしておこう』
俺は魔法を使うためにエステルに手を握らせると、ローズから少し不満げな声が聞こえてきた。俺はまた埋め合わせすることを約束すると、すぐに機嫌が直った。
「転移」
俺は自分の部屋を思い浮かべて空間魔法の転移を発動させた。すると、目の前の空間が歪み次の瞬間自分の部屋の光景に変わった。そこには俺に化けているミミとその世話をしているセレスがいた。セレスは俺が現れたことに驚くと、俺とミミとを交互に見ると、
「ええーーーー!!イリヤ様が二人いるーーー!!」
城に響き渡るほどの声で叫んだ。その声が聞こえたのか部屋の外がうるさくなった。
やべぇ部屋にセレスがいるの忘れてた…。




