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彼を知っていました。彼を思い出しました。

主人公の独白と物語の始まる前。

中学時代の一コマ。


ゲームは、まだ始まっていません。

 さて、唐突ですが皆様は前世と言うものを信じますか?

 詳しく語ると輪廻やら六道やら地獄やら関わってくるが、この際その辺を割愛して、今の自分が生まれる前の、その人生を覚えてますか?

 私は、幼い頃から前世の記憶を持って生きている。

 物心つかない頃からおぼろげに覚えていた記憶は、中学生くらいから特に鮮明になってきていた。お陰で学校の授業は楽できたけど、前世の記憶というのは中々厄介だった。学校にしろ家族のことにしろ既視感(デジャブ)と言うには、強すぎる違和感に何度も吐き気を感じたことか。そのせいで、中学時代は虚弱体質と思われ、盛大に気を遣われてしまった。

 虚弱どころか健康優良児なのに!

 記憶の混乱を乗り切った中学三年間。前世の記憶もあって果敢な思春期に私は実際の倍以上年を取った気がした。親戚の叔母さん達には、最近大人びてきたわね~って、言われちゃう始末。

 そんな叔母さん達の言葉を笑顔でやり過ごせるのも、無駄に達観した記憶のお陰。

 人付き合いは苦手だけど、どうにかこうにか過ごしている。

 前世の記憶を持っている意味は何なんだろう?

 中学三年卒業の春に不意に思った。意味なんて今まで考えたことはなかったけど、前世において私はそんなに未練を残したのだろうか。

 一度疑問に思うと、見つからない答えがむず痒い。

「――……い」

 記憶を遡れば見つかるかな?

「――鈴」

 自分の記憶を遡るというのは結構面倒だ。所々おぼろげになっていて明確に思い出せない事もある。逆にその当時記憶した知識や技術というのは簡単に思い出せる。例えば、

「蓮見 鈴!」

「ん? あれ? 呼んだ?」

 思考に没頭していた私は名前を呼ばれていたのを気付かなかったようだ。飽きれたような顔をした友達が、卒業証書が入って筒を私の顔の前に突き付けながら、騒いでる。

「あんたね~ 感傷に浸ってる場合!?」

 いえ、感傷に浸ってたわけじゃなくて、思考に没頭していただけです。

 なんてことを彼女、私の奇特――と思える友達、鹿野 瑞穂(カノ ミズホ)に言える訳もなく、私は似非笑いを浮かべながらその場を乗り切ろうとした。

「いや~ 終わっちゃったな~って、思ってさ。4月からは高校生だし? 今まで通りにはいかないな~って」

「それが、あまーーいってんのよ!!」

 何をそんなにヒートアップしているのか。よく見れば、そこかしこで女の子達が誰かを探しているようだ。

「まだ、卒業式にはお決まりのラストイベントが、残ってるでしょうが!」

ラストイベント?

 こてっと小首を傾げると、瑞穂は更にテンションを上げて話しだした。

「卒業式のラストイベント! それは好きな人から第二ボタンを貰うんでしょ!」

 んな、ベタな…… 今時の子が何をやりだすかと思えば。

 右手で握り拳を作り、熱弁する瑞穂の背後にメラメラと燃え上がるエフェクトが見えるのは、私の気のせいだろうか。

「で? 瑞穂って、好きな人居たっけ?」

 ミーハーと言ってしまえばそれまでだけど、瑞穂は容姿には五月蝿い。性格より、顔って、公言しているあたりに若さを感じる。

 無駄に記憶を持ってると、人間顔より性格だよね~って、思えてしまってる辺りが怖い。

 前世の私、何があった。

「好きな人ってか、甲斐君のボタン欲しいじゃん! どこにもいないんだよ~」

「あぁ、甲斐君のね~ それは、倍率高そうだね」

「そうなの! だから、鈴も手伝ってよ~」

「えぇ~…… それはちょっと」

「鈴は興味無いわけ?」

「あんまり…… 甲斐君もちゃんと見たことないし」

「マジで!? 勿体ない!」

 甲斐 晴明(カイ ハルアキ)

 学年一、もしかしたら学校一格好いいと噂される少年だ。クラスが二つ隣だから、実際顔を合わせたことないけど、長身で灰色の髪でイケメンで格好いいと瑞穂が言っていた。

 どうでも良いけど、イケメンで格好いいって二重表現じゃないの?

「甲斐君見てないとか、もったいなさ過ぎ! 写メみる!? あるよ!」

「こ、今度でいいよ…… それより、その甲斐君探しに行かなくていいの?」

「はっ!? そうだった! じゃぁまた、入学式でね!」

 砂ぼこりを立てそうな勢いで、瑞穂は走り去っていく。そんな彼女に形だけ手を振りながら、私は静かにため息を吐いた。

 悪い子じゃないけど、時々暴走する癖が瑞穂にはある。ミーハー心からだろうけど、その熱意を一方的に向けられた方はたまったもんじゃないだろう。

「甲斐君もご愁傷さま」

「そう思うなら、助けて欲しい」

「え゛?」

 振り替えれば、彼が居た。

 いやいや、ホラーじゃなくてね。丁度、階段と廊下の間に立っていた私の後ろに彼は立っていた。踊り場の窓ガラスから日が射して、その表情まで見えないけど、大分お疲れの様子。

 と言うよりも、なぜ私に声掛けてきた?

「駄目か?」

「へ?! いや、何が?」

「助けてほしいんだけど」

「事と次第と内容によりますが」

「なんで、敬語……」

 警戒敬語です! お気になさらずに!

 なんて彼――甲斐 晴明君に言える訳もなく、乾いた笑みを浮かべた。

「ほら、ほとんど話したことないし。そんな私に甲斐君が何の用かなって」

 思いました次第でございます!

 聞こえない部分でしっかり敬語を使いながら、表面は一女子生徒を演じてみる。

「……」

「……? あの、甲斐君?」

 無言で見られると困るんですが。福眼だから、役得と思えば良いのかな~

 濃い藍色の瞳が、言葉を探して泳いでいる。といっても、普通にしてたら無表情で立ってるだけに見えるけど。

 観察眼という意味では、私は特出しているらしい。だから、メンタリズムではないけど、相手の些細な変化に気付きやすいのだ。

 まぁ、あんまり役には立たないけど。

 何でか知らないけど、現在捜索され中の学校限定有名人に会ってしまった。こんなところを他の生徒に見られたら危険なんだけどね。

 どうこの場を切り抜けようか。

 悩む私と言葉を探す甲斐君。

 だけど予想外の変化が、突如として現れた。

「え?」

「地震か?」

 地面が揺らぐ。

 窓がカタカタっとなったかと思うと、一瞬にして、地鳴りが聞こえるようなそんな揺れに変化した。足下が覚束なくなり、踏張りが効かない状況に、私の身体は呆気なくバランスを崩した。

「ふゃあぁ!?」

 あぁ、なんて間抜けな声なんだ! もうちょっと可愛げのある声はって、私だから無理か~

呑気にノリ突っ込みしている私の内情を余所に、倒れ掛けた私の身体は、伸びてきてた甲斐君のその両腕の中に押しこめられた。

「危ない……」

 耳元で聞こえる甲斐君の声。押し殺すような息と一緒に零れてくるそれ。ダイレクトに響いてくる声に思考が混乱してしまう。

 こんなときにアレだけど、アレですが、経験値が絶対的に不足してるんだ!

 きっと、耳まで真っ赤だ。

 地震の恐怖と抱き締められる羞恥心に、私は顔を上げてられなくなった。揺れは、段々強さを増し、ガラスが割れる音が聞こえた。外を見たくない一身で、甲斐君の胸元に額を押し付ける。彼の制服を強く握り締めているせいで、手から血の気が引いている気がする。

 早く止まって。早く、早く。

 祈るように心の中で懇願する。天災に人が勝てるわけがないけど、早く終わって欲しいと思うのは道理だ。

 早く、早く。神様!!

 懇願の祈りに意識を高めた、瞬間。

「――とり……?」

 高く澄んだ鳥の鳴き声。それが聞こえたかと思うと、揺れが徐々に納まっていった。

 辺りには割れたガラスが散乱している。不幸中の幸いか、私達二人が居る場所までは、飛散してはこなかったようだ。

 耳鳴りの様なその音に呆けてしまった私は、思わず顔を上げる。すぐ真上に心配そうな色を瞳に映した甲斐君の顔があった。

「大丈夫か?」

 伏し目がちの藍の瞳。私が見上げているから、全体的に影を落としているその表情。

 あれ?

彼に抱き締められているというこの状態。他の女の子なら赤面したり鼻血を吹き出しているかも知れない。だけど私には、視界いっぱいに占める甲斐君のその顔に見覚えが合った。

 どこで?

 今じゃないことは確かだ。既視感(デジャブ)よりもっと鮮明な。

「蓮見……?」

 声変わりの終わった低めの声が、耳の中でこだまする。

 頭の中で、前世の記憶が高速検索している。それはまるで辞書の目録をなぞるような、そんな感覚だ。

「蓮見?」

 覗き込んでくる彼の瞳と少し擦れたその声に、別の意味で背筋がぞくっとした。

記憶の中と合致する。

自分の中で、今まで瑞穂から聞いた以外の彼の情報が引っ掛かった。

「いや、大丈夫。大丈夫、大丈夫」

あいまいに返事を返しながら、私は彼の腕の中から抜け出た。少し寂しそうな顔をされたが、気にしない。守ってもらったのに申し訳ないが、これ以上は心臓に悪すぎる。

 そして、思い出した彼の情報。それを頭の中で反芻しながら、私は途方に暮れるしかなかった。


 甲斐 晴明。

 乙女ゲーム『クロノクロック~刻の砂時計~』攻略対象。


 どうやら私は、ただの前世の記憶持ちじゃなくて、乙女ゲームの世界に転生してしまった記憶持ちのようです。

 これから、どうしよう。


時期は、3月。

4月から高校生になるその時に彼女は気づきました。

ここがゲームに類似した世界だと。



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