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ゲームは終わりました。物語は始まりました。

軽い気分で書いてます。設定等深くつっこまないでください。

また、描写が激しいときがあるようです。作者無自覚に付きご注意くださいませ。

 暗雲が空を覆い、幾つもの稲光がその姿を主張している。地響きとともにアスファルトには、大きな亀裂が走った。絶え間なく襲ってくる揺れが、立っていることすら不可能にしていく。

 まるで世界の終わりのような、それ。割れたアスファストの上に寝転びながら、私こと蓮見 鈴(ハスミ レイ)は、人事のようにその光景を眺めていた。

 人事じゃなくて、当事者っていうか被害者なんですけどね。

 この天災の原因は、封印されている怨霊を開放して、あの世とこの世をひっくり返し、闇が支配する世界を作ろうとしている傍迷惑な連中のせい。もう天災じゃなくて、完全に人災ですね。

 そういう連中は、周りの被害なんてお構いなしなものだから、市内は酷い有様になってしまっている。

 かく言う私も、人を庇ったせいで顔半分血まみれ状態。軽く触ってみたけど、眼球はあるようだし、皮膚が一枚ペリッといっただけのよう。後は打ち身だのすり傷だの。

 傍からすると随分冷静に聞こえるかもしれませんが、焦ってますよ? 焦ってて焦りまくってて、でもそれじゃどうしようもないから、ちょっと冷静になろうよ自分。って、自己暗示の結果が、今の状況。

 まぁ、冷静でいるのは自己暗示の結果だけでなく、この後どうなるかを知ってるからなんだけどね。

 開放されようとしている怨霊を再び封印し、原因の人物を退散させる。その為に黎明の契約を持った舞姫が、奮闘しているはずだ。そして、彼女とともに怨霊に立ち向かう戦人達も。

 仰向けに寝ていた体を反転させて、私が寝転んでいる少し先を見れば、封印を行う為の陣を完成させていた。後は、舞姫が祈りの言霊を捧げれば、封印が完成する。

 これにてパッピーエンド。の、はずなんだけど。

 おかしい。いつまでだっても、舞姫が言霊を紡がない。

 焦るような戦人達の言葉が聞こえる。

 なんだ?


「……って、あんなに――言葉が、むず……覚えられて、な――」


 耳を疑うような言葉が響く。彼女たちまで距離がありすぎて、ちゃんと聞き取れなかったけど。

 まさか、まさかとは思うけど、舞姫の彼女は祈りの言霊を覚えてないの!?

 そんなことありえる訳は……

 そう思った私だったけど、ここはゲームの中じゃなくて現実。あんな長ったらしい言葉を練習もなしに覚えるなんて無理なのか。しかも、彼女は国語が苦手って言うオプションが付いていた気が。

 祈りの言霊を捧げられなければ、封印を完成させることはできない。つまり、怨霊は復活し、世界は暗澹たる闇の中に沈む。

 その未来に思い着いた瞬間、私の背中を冷たいものが奔っていった。

「そんなの……ありえない」

 悪寒と恐怖に吐き気を感じながら、痛みで悲鳴を上げる体を無理やり起こした。出血は止まっているけど、顔半分に張り付いている血が、視界の半分を隠している。揺れで足元から崩れ落ちそうになるけど、奥歯をかみ締めてその場に踏ん張る。

 ここで負けてなるもんか。

 ローファーはもうボロボロ。折角、4月に下ろしたばっかなのに!

 見当違いに憤りながら、私はアスファルトを蹴った。

















 不安定な地面の上をどれ位早く走れたか分からないけど、とりあえず全力疾走しました。すでに息絶え絶えなんですが…… 怪我して全力疾走とか、ないわ。ありえん。

 走ったせいで髪の毛が顔に張り付いてくる。気持ち悪いけど、どうしようもない。

 どうにか息を整えて、私は数歩先で泣き出している舞姫に怒鳴りを上げた。

「泣いてる場合じゃないでしょうが!!」

「っ!? だれ……?」

 ぽろぽろと大粒の涙を零しながら、見上げてくる彼女こそ怨霊を封印できる舞姫の役目を背負った少女。

 名前を和泉 千歌(イズミ チカ)

 割れたアスファルトの上に座り込み、私を見上げてくる。

「貴女がやらないと、終われないの! 壊れちゃうの! 世界も未来もなんもかんも!」

「だって……」

「だって、だあぁ? 覚悟を決めて舞姫になったんじゃないの! 中途半端な覚悟じゃ、一緒に戦ってくれた戦人達に申し訳ないと思わないの!」

「それは、そうだけど。だって、世界なんて救えない、もの……」

 怪我状態で全力疾走。限界近くまで体力を奪われた私の沸点は、低かった。言い訳のように言葉を重ねる彼女に、心の奥でプツリッと糸が切れた。

 ふざけるな。

 威嚇する猫のように逆毛立つ感覚。それでいて、心の奥底は冷え冷えとしている。

「救えるか、救えないかじゃない。貴女が、救うんだよ」

「なりたくてなったんじゃないもん!」

「だから、何?」

「え? だから……」

「なりたくてなったんじゃないから、放棄してもいいと? 」

「貴女、誰!? 貴女に私の気持ちなんか、分かんないわ!!」

「あぁ、分かんないね。貴女みたいな愛される人の気持ちなんか、これっぽっちも分からないよ」

「愛される……?」

「愛されてるから、信頼してくれてるから、貴女を守りたいと思ったから。だから、みんな手を貸してくれたんでしょうが」

「あ……っ」

「使命も宿命も、そんなの全部ひっくるめて、貴女を好いてくれたからでしょう。それ全部、放棄するの? まだ、自分は選んでないと言うの」

 捲くし立てる訳じゃなく、ただただ事実を突きつける私の声に、彼女の瞳が揺らいでいた。

 大きな茶色の瞳に私はどう映っているのだろう。

 同じ制服を着ているとはいえ、全く知らない女に――とは言え、私は彼女を一方的に知っているけど――これまでの苦労も何も知らないだろう女に、そこまで言われて何を思うんだろう。

 まぁ、ボロボロで血だらけで、息絶え絶えで、みっともないと思ってるかもしれないけど。この世界の未来を潰させる訳にはいかないから。

 私だって、この子に干渉なんかしたくなかったよ!!

「私…… でも、出来ない」

「だから、何故」

 苛立ちが声に現れていく。その声に今までと違うというように彼女は首を横に振った。

「その、あの……言葉が、祈りの言霊が、分からなくて……」

「あっ、そう」

「守りたくたって、言霊が分からないんじゃ」

 また泣き出しそうになっている彼女に、膝を折って視線を合わせた。

「私の言葉に」

「え?」

「私の言葉に続け。間違いは、許さない」

「貴女は一体、誰なの?」

「そんなこと、この局面においてはどうでも良い事。集中して、戦人達が支えられるのも、もう長くない」

「――……はい」

 脅えていた瞳が静かに強さを帯びていく。

 その様子を確認してから、私は記憶の隅に追いやっていた祈りの言葉をひっぱりだす。そして、平を合わせ祈りの形を取っている彼女の手に自分の手を重ねた。ゆっくりと祈りを声に乗せていく。

「天地四方が其の処――」

「天地四方がそのところ――」

 朗々と明瞭に、よどみなく祈りの言霊を紡ぎだしていく。舞姫の彼女も、突っかかることなく私の言葉に続いてきている。

 さっきは彼女の言葉に激昂したが、ぶっちゃけ国語が苦手な彼女がこれを覚えるのは難しいだろう。

 この祈りの言霊は、書き出せばルーズリーフ半分を埋めてしまうほど長い。ゲームなら、直ぐに終わってしまうこの言霊も、実際紡ぎだすのは結構時間が掛かる。こういうときはちょっとばかし良い己の記憶力を褒めたい。

「――御身御座すは、遙か虚空」

「御身おわすは、遙か虚空」

 言霊もあと少しと言うところで、彼女と視線があった。それまで文字通り祈るように聞き漏らさない様に、目をつぶっていた彼女が、瞼を上げて私を見た。

 迷いの消えた、どこか慈悲深く見えるその表情。祈りの言霊が完成に近づくにつれ、彼女のからだを青い光が包んでいく。その反動なのか、私の視界には赤い光が映りこんできている。

 だけど、そんな事を気に留めている余裕は、私にも彼女にもなかった。

「「流るる魂が、其の巡り。留まる事無く、流れ往け」」

 私と彼女の声が重なり合い、祈りの言霊はあとワンフレーズで完成する。ここまで来れば、流石の彼女も覚えていたらしく、私の言葉と合致している。

 破滅の危機を感じていたけど、もしかしたらそれすらオプションであり、危惧することはなかったのかもしれない。

「「賜りし盟約が元、我乞い願う」」

 あぁ、これで明るく安全な未来がくる。

「我が名――」

 最後は名乗り上げるだけ。

 そう思った私の体を立ち上る見えない力の奔流が巻き込んでいった。

「え……?」

 舞姫の体から、青い光が空に向かって伸び上がった。暗雲を貫き、凄まじい対流を産み出しながら、天と地を駆けていく。

 視界に捉えたのは、そこまで。

 多分、舞姫に近づきすぎていたのだと思うけど、立ち上るその力の一部を受けた私の体は、宙に浮き上がっていた。

 あぁ、落ちる。

 割れたアスファルトを思い出しながら、また血が出ると痛いな〜っと暢気に考えていた。暗雲が裂けた空から、太陽の光が零れ落ちてきている。


やっと終わった〜


 薄れていく意識の中で、私は歓喜に震えていた。

 地面にぶつかる筈だった私の体を誰かが抱きとめたことなど、勿論気づきもしなかった。

プロローグ。


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