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女神降臨  作者: 塔子
94/103

【DEAREST】


ヨーコとアースレイの結婚後のお話。


side:アースレイ



侍女が慌てて執務室にやって来る。


結婚してからというもの、何かとお騒がせな事が続いていると思う。


そして、今日も――。







「失礼します!!陛下!!」

「あぁ」



顔も上げずに返事をする。


こっちはこっちで忙しい。机上には書類の山。これも相変わらずの光景だ。



「あ、あの、王妃様が――っ!!」



あぁ、またか。


心の中で呟く。


また何かしたんだ、あいつ。


侍女が言う“王妃”と、俺が思う“あいつ”は同一人物。勿論その名は。



「ヨーコがどうかしたのか?」



俺はさして驚きもせず、話を聞く態度を一応取ってみる。



「それが、転倒されまして…」



転んだと?そんなの日常茶飯事だろ?


前々から鈍くて、そそっかしくて、じっとしていられない女だと思っていたけど、結婚してから時にそういう所が目に付く。



「転んだぐらいなら、大した事無いだろ?」



こういう侍女とのやり取りも日常茶飯事になってきた。



「それが、出血もありまして…」



出血?


いったい、どういう転び方をしたんだ?ヨーコは。


とにかく、ここは行くしかないと判断する。


何処と無く侍女の顔色も良くない事だしな。



「それで、何処に?」

「宰相補佐官様に付き添われて、お部屋の方に」



“宰相補佐官”という言葉にピクっと反応しつつも、そ知らぬ振りで席を立ち部屋に向かった。



部屋の前まで来ると、中から楽しげな笑い声が聞こえてくる。


ヨーコの部屋だ。


ノックもせずにドアを開けて入って行く。



「あ!アースレイ!」



ベッドから起き上がり、にこっと俺に笑顔を見せる。


そして、ヨーコの横には宰相補佐官――つまりジェラルドが居る。



「今度は何だ?転んで出血って、脚か?腕か?」



と、訊くと何やらもじもじとして顔を赤くするだけで何も答えようとしない。



「まぁ、その様子じゃ、大丈夫なんだろう?」



毎回の事とは言え、かなり呆れる。



「4ヶ月」



ここに入ってきてから一度も言葉を発してない金髪の男が、いきなり何を言うかと思えば…。


意味が分からず、眉間に皺を寄せてしまう。


ジェラルドは明らかに不満げな態度。


ヨーコはさらに顔を赤らめ俯く。


何の事だか、さっぱり分からない。



「何の事だ?」



と、ジェラルドに尋ねると「そうだろうな」と答える。



「おまえ、何なんだ?はっきり言えよ!」

「だから言っただろ?“4ヶ月”と!!」



まるで会話にならない。怪訝な顔の俺にジェラルドは呆れた様子で続ける。



「今回はこの程度で良かったんだ。少しの出血で…」

「それで、何が?」



この男の言わんとする事がまだ掴めない。段々と苛ついてくる。


そんな俺の態度に、溜め息を付かれ――。



「妊娠4ヶ月!流産しかかったんだ!ヨーコさんは!!」



は?…妊娠?…流産?



この言葉に意味を頭の中で理解しようと努力する。



「………っ!!!」

「全く…」



緑の瞳は黒い瞳を見つめて言う。



「ヨーコさん、貴女ももう少し自分の事を大事にして下さい。偶然、俺がその場に居合わせたから良かったものの…」

「ご、ごめんなさい…。こっちの世界に戻ってから結婚だの色々あって忙しくて……。環境の変化とか、疲れてるのだとばかり……」



話につれ声が段々と小さくなっていくヨーコ。


恥ずかしいといった感じで、最後に“エヘ”っと笑っている。



「アースレイも!一番ヨーコさんの近くに居るおまえが気付いてやらないと!」



そう言われると何も言えない。


ジェラルドはサイドテーブルに置いてあった本を俺に押し付けるように渡す。



「この本は?」

「育児書」

「!」

「それでも読んで、父親になる心構えでも持つんだな」

「………」



そして、ジェラルドは柔和な笑みをヨーコに向け――。



「ヨーコさん、しばらくは安静にして下さい。外出も禁止ですからね」

「は、はい…」

「心配事や不安もあると思うけど、これからは俺がちゃんと看てあげますから」



ちょっと、待て!何でおまえがそこまでするっ?



「ありがとう、ジェラルドさん!頼りにするね」



――って、おい!ヨーコ!普通、頼りにするのは俺じゃねぇのかよ!!



「では、ヨーコさん。お大事に」



そう言って、ジェラルドは部屋をあとにした。



「………」

「………」



妙な気まずさと言うか。



「あ、あのね、アースレイ。ご、ごめんね…」

「い、いや……それより、大丈夫なのか?」

「うん!ちゃんと診て貰ったから。――うふふ、アースレイもパパになるんだね~」



パパ?



何だか胸の奥がそわそわしてくる。何だ?この気持ち?


ヨーコがそっとお腹に両手を置いている。



「ここに、赤ちゃんが居るんだね。男の子かな?女の子かな?」

「――俺は――どっちでも…いい…」



心だけ何処か遠くへ行ってしまっている、そんな感じだ。



「そうだね~。でも、不思議な感じ。だって家族が生まれるんだもん。私……何て言えばいいのかな…」



少し涙をその黒い瞳に浮かべて言う。


あぁ、そうか、俺も子供の頃に親を失っている。


そして、ヨーコも両親は居ない。



――家族が生まれる。



まさか、こんな気持ちになるとは。



「ヨーコ」

「ん?」

「俺達…、幸せだな」

「うん!!」



この先、守るべき大切な者が生まれて、そして増えていくんだ。


これからも守っていこう。



俺の最愛のもの達を―――。






【DEAREST】 END


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