【46】
「こんな所で何を?ヨーコさん」
と、ふいに背後から耳元に囁かれ、思わず「ひっ」と小さな悲鳴をあげる。
トレイの上のカップ達は、カチャカチャと不規則なダンスを踊ってる。
ゆっくり振り返る。
「ジェ、ジェラルド…さ…ん…」
侍女達の声が、一瞬にしてピタっと止まる。
侍女のえーっと1かな?2だっけ?それとも3?どれかなんて分かんないけど、一人出て来て蒼白な表情。
ジェラルドさんは、私の持つトレイをその侍女に「あとは、よろしくね」と言って渡す。
そして、空いた私の手を取って歩き出す。
「全く、貴女は何を聞いていたんです?立ち聞きなんて」
「えーっと、それは…」
「気になりますか?侍女の話」
「あの~、アースレイって結婚するの?」
私は、さらに訊く。
「いつ、行くの?ゴルデイへ」
「行きたいのなら、国王陛下の許可を貰って下さい」
「え?」
いつもと違う顔。ジェラルドさん怒ってる?少し怖い顔。
「俺には権限はありませんから」
そう言って、繋いでいた私の手を放し、先を歩いていく。
な、何?私、拒絶された?
何か言葉を!って、思っても何も出て来ない。
喉の奥に、何かが詰まってる感じ。
何だろう?この息苦しさは?
私は足を止め、黄金色の髪がきらりと揺れる背中を見つめる。
ただ、見つめるだけ。
結局、私はアースレイに「行きたい」って、言えずにいた。




