【35】
母上は、俺を見る事は無かった。
いつも窓際の椅子に座り、外の景色を見ている。
傍らには霊獣。
その黒い瞳には何が映ってるの、俺には分からない。
故郷を思い浮かべてたのか、それとも――。
俺が10の時、戦争は始まった。
この国は『女神』の加護の元、緑豊かだ。
それは、全て『女神』――つまり母上の力のおかげだと、俺にとっては自慢の母上だった。
『女神』の力を奪おうとする悪いやつらから護らなければと思った。
「母上、大丈夫だから。父上とみんなが護ってくれるから」
でも、母上は俺を見る事無く。
「そんなの嘘よ。みんなは、私が戦えばいいと思ってるわ」
母上は言う。
「帰りたい」と。
同じ言葉を繰り返すだけ。
母上は祈る。
「会いたい」と。
それは一体誰なんだろう?
母上は願う。
「死にたい」と。
そんなの嫌だ!
唯一、叶ったのは“死にたい”という願い。
『女神』アヤが死んでから10年後。
大巫女は新たな『女神』を召還する。
誰もが皆喜んだ。これで、戦争は終わるのだと。
『女神』が救ってくれるのだと。
この国は小国だ。これ以上、戦う事も出来ない。
そして、あの日『女神』は俺の上に落ちてきた。
長い黒髪、黒い瞳の漆黒の女神。
一瞬、母上かと…。
でも、違っていた。その黒い瞳は、力強く俺を見た。
俺を見てる!
母上と同じ思いをさせたくない。そして、元の世界に返すんだ。
でも、俺は護れなかった。
襲撃に遭ったと駆けつけた時、霊獣と共に炎の中居るのを見た時、全ては遅かったと後悔した。
それから、何度もヨーコの部屋を訪れたが、窓際の椅子に座り外を見てるだけ。
あの時と同じ、母上と同じ。
そして、何度目か訪れた時、ヨーコの声がした。心臓が跳ねた。
霊獣が“アヤ”という名を口にしている。
そう、アヤは――。
「アヤは、俺の母親だ」




