【34】
――亜夜。
20数年前に、この世界に舞い降りた『女神』の名。
大きな黒い瞳が印象的な少女だった。
「帰りたい」
それが、彼女の口癖だった。
そして、誰かが護ってやらなければ生きていけない――そんな儚げな少女。
国王が、アヤを妃にと望んだ。
少女は16歳になったばかりで、10歳以上も年の差はあったが、彼女が『女神』という事もあり反対する者も無く、勧められるままに王妃になった。
アヤは、王を愛してる訳ではなかった。
ただ、この世界で生きていくのに、そうなっただけ。
自分一人の力では生きていけない。
だから、選択した結果。
そして、アヤは男の子を産む。アースレイと名付けられる。
アースレイが、10歳になった年。
その年、この世界は、突然原因不明の寒波に襲われ氷の世界に。
でも、ヴェルドゥール国は緑豊かな国。『女神』の力で護られている。
そんな、幸運な国を隣国が放って置くはずも無く。
『女神』の奇跡の力を欲しい、と。
そして、戦争は始まった。
でも『女神』は、動かない。
「10年経っても帰れない…。帰りたいだけなのに…」
と、アヤは言う。
「私がいけないのね。戦争は私が居るせいだもの。しかも、戦わない『女神』なんて要らないでしょう?でも、私は人殺しの道具にはなりたくない。終わりにしましょう。私は、もうここには居たくない」
「アヤ…」
「私の最期の望みを…」
アヤは、微笑んでいた。
その時、我は初めて見た『女神』アヤの微笑みを。




